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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』

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50『しっかりしなさい!駄犬王子!』

「リシャーナ様、マリアンヌ様がお目覚めになりました」


 街で遭遇したマリアンヌ様を保護してから三日後に彼女の世話をしていた侍女が私に与えられていた部屋へと駆け込んできた。


 すっかり鬱ぎ込んでしまったルーベンス殿下には今もクリスティーナ様が自主的に付き添ってくれているのでとりあえず任せることにした。


 しかし、いつまでも鬱ぎ込んだままじゃ事態が進展しないので、ルーベンス殿下に与えられた自室へ向かって目下驀進中。


 この三日間、カイザール様に情報を集めてもらい、カイザール様に教会へこれまでお世話になった謝礼と、今後のムクの実石鹸の製造法をグラスト閣下が子供たちへの生活支援も含めて引き受けてくれた事を知らせに行ってくれている。


 特にセイラ様が張り切っておられるようで、アロ達教会の子供や、ティーダ達貧民街の子供を集めて毎日二回の食事と銅貨十枚でムクの実石鹸の製造委託と、教育を施す事にしたらしい。


 私は父様にマリアンヌ様がドラクロアに来ていること、また妊娠八ヶ月であることを書き記して、試作品の紙を折って封筒を作り小麦で作った糊で封をして早馬で届けさせた。


 なんにしても“ほう・れん・そう”報告・連絡・相談は大事だもの。 


 マリアンヌ様の取り巻きのほとんどが既に婚約者が居る青年なのだ。


 その上本人は否定していたけど、父親候補として名前があがる筆頭はクリスティーナ様の婚約破棄なんて騒動を起こして一躍時の人となっているルーベンス殿下の名前なのだ。


「おはようございます! ルーベンス、クリス! マリアンヌ様がお目覚めになりましたわ!」


 勢い良く扉を開けると、ベッド脇に椅子に腰掛けて編み物をするクリスティーナ様は居るもののルーベンス殿下の姿が見えない。 


「あれ? ルーベンスは?」


 苦笑いを浮かべながらクリスティーナ様がベッドに視線を送る。


 ベッドには毛布の小山がありどうやら頭から毛布を被って引きこもってしまっているようだった。


「ちょっと、早く出てきて。 引きこもってられる状況じゃないでしょう!」


 毛布の上から身体を揺らすと、一段と身体を縮ませて丸まってしまう。


「俺にかまうな!」


「そんな我儘通る訳がないでしょうがぁ! このぉ~!」


 ガシッ! っと毛布を掴んで引き剥がそうと試みるもルーベンス殿下は硬く毛布を握り締めているのか、力負けで引き剥がせない。


「あー、もう! とっとと起きろ!」


「いーやーだー! 俺の気持ちなんてどうせ分からないだろ! 俺にかまうな!」


「ふっ、ふふふ。気持ちねぇ……そんなものわかってたまるかぁ! 喰らえっ、必殺ジャンピングエルボー!」


 暫し格闘したものの、全く起き上がるつもりがない様子のないルーベンス殿下、いやルーベンスのベッドからソロソロと距離を取ると、一目散にベッド目掛けて背面からダイブした。


「ぐぇ! このがさつ女! 何しやがる!」


 とうとう耐えきれなくなったのか毛布から顔を出したルーベンスをベッドから引き摺り落とす。


「がさつだろうが凶暴だろうが、蛙だろうが結構よ! 勝手に暴走して周囲に迷惑をかけて、自分だけが傷付いたと思い込んでいる愚か者に何を言われようと気にもならないわ! でもね、クリスに甘えるな! 自分で招いた結果が何であろうと男ならきちんと責任を取りなさい!人のせいにするな! それが出来ないなら駄犬で十分よ! お手!」 


 絨毯に座り込んだままのルーベンスの目の前に右手を差し出すと、次第に真っ赤になりながらルーベンスは私の手を弾き飛ばした。


「いいだろう、やってやろうじゃないか! 責任だろうがなんだろうが取ってやるよっ、俺は犬じゃない! ルーベンス・ローズウェルだ!」


「威勢だけなら犬だって有りますわ。 果たして駄犬様のお手並みをじっくりと拝見させて頂きましょう」


 睨み付けてくるルーベンスを笑顔で見下ろす。


 これだけ腹をたてていればきっと暫くは大丈夫だろう。


 沈んだ気持ちを強制的に奮い立たせるには怒らせるのが一番だ。


「リシャ、カッコいい!」


 あー、予定外に目を輝かせてクリスティーナ様が呟いた言葉にルーベンスが反応した。


「カッコいい? これが?」


 こら、人をこれ呼ばわりするんじゃない!


「えぇ! 誰よりも雄々しくていらっしゃいます!」


 いや、私女ですし、雄々しいって言われても嬉しくないんですけど。


「確かに下手な男より行動が男らしいかもしれませんね、産まれる性別を間違われたのではないですか? しかし、あんまり遅いから迎えに来てみれば」

 

 いつの間にやって来たのかカイザール様が入り口の柱に寄りかかるようにして立っていた。


「ん、あぁ。 お帰りなさい。 アロ達の様子はどうだったの?」


「変わり有りませんよ。 ルーベンスと遊べずに哀しがってはいましたけど。 今後教会で子供たちが作ったムクの実石鹸はグラスト閣下が全て輸出用にひと瓶銀貨一枚で買い取ってくれるそうですし、大丈夫でしょう」


「わかったわ。 さぁ、いつまで座り込んでるつもり? とっとと落とし前つけに行くわよ!」


「おっ、おう! きっちり格好良く落とし前つけてやろうじゃないか!」


 言葉の威勢とは裏腹に歩みの遅いルーベンスを急かしながら、マリアンヌ様が居る部屋へと四人で向かった。

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