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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』

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33『ルーベンスの首飾り』

 筋肉をこれでもかと纏っている巨漢がこれほど噴水が似合わないとは思っても見なかった。


 それまで家族連れや買い物に疲れた人々でほのぼのとした雰囲気が漂っていたのに、私たちが駆け込んだ直後に駆け込んだ筋肉マンの姿に騒然となった。


「きゃー!」


 男がまた誰かを押し退けたのか背後から悲鳴が上がっている。


「くそっ、邪魔なんだよ! 待ちやがれデブおんなぁ!」


「誰が待つかぁ! デブじゃないっ、ぽっちゃりだい!」


「おい、今はそれどころじゃないだろうがっ、真っ直ぐ前を見て走れ!」


 カチンときて振り向きながら言い返すと隣を走るルーベンス殿下にどやされた。


 騒ぎを聞き付けたカイザール様が男から逃げてくる私たちを確認するなりこちらに向かって走りだし、私たちとすれ違うとそのまま筋肉マンに特攻していく。


「ガキが邪魔すんじゃねぇよ!」


 カイザール様よりも頭一つ分は優に越えている男が正面から迫ってきているにも関わらず、足を止めずに殴りかかってきた男の腕を伏せることで鮮やかに躱す。


「遅い!」 


 避けられるとは思っていなかっただろう男が自重からか重心を崩すと、いつのまにか背後にまわり男の膝を蹴り飛ばし、膝をついた男の背中に跨がると両の肩口を地面に押さえ付けた。


「何をしている! 捕縛しろ!」


 カイザール様が吼えるなり、付近で逃げ惑っていた男性達が倒された筋肉マンを取り押さえに殺到した。


 筋肉の鎧を着た筋肉マンも両手足に二人ずつと背中に自分の体格よりも大きな二百キロはありそうなおじさんに乗られては動けなかったらしい。


 いやぁ、結構なお手並みでした。 ここまで強いとは我ながら予想外に良い人選だったわ。


 駆けつけた男たちと場所を代わると服についた砂ぼこりをはらい落としながらこちらにやって来た。


 良く見れば私服の護衛官も参戦しているのできちんと衛兵に引き渡してくれることだろう。


「さぁて、リシャーナ様? どうしてこんな事態に陥っているのかとか聞きたいことは山ほどありますが、とりあえずクリスティーナ様が大変心配されていて手に負えないのですよ」


 やば、あまりの手際のよさについつい拍手を贈っていたら睨まれた。


「あははは、どうもお手数をお掛けしました。 はっ! そうだっ、あの男の子!」


 すっかり忘れてた、お医者さんは!?辺りを見渡して一番近い店舗型の雑貨屋へ向かって走り出した。


「おい! 今度は一体どこに行く気だ」


「お医者さん捜さなきゃいけないのよ」


 まだ街に筋肉マンの片割れがいるかも知れないけど、カイザール様がいれば大丈夫だろう。


「すみませ~ん、この近くにお医者さんっていらっしゃいますか?」


「なんだい、怪我人かい? 医者なら偏屈なじじいが北門の近くにいるよ」


 快く教えてくれた店主のおばちゃんにお礼と、売っていたお菓子を一抱えかって料金を払うとルーベンス殿下へ押し付ける。


「北門はこっちね!」


「「違うから!」」


 カイザール様とルーベンス殿下に前後を挟まれる形で北門にある治療院からお医者さんだと言う老人を回収して、不本意ながら転がしたままにしてきてしまった少年のいる小さな教会に向かった。

 

 あの古びた教会はこの街でもそこそこ有名な教会だったらしく、カイザール様に案内をさせたことで無事にたどり着いた。


 私が先導していたらなぜか噴水に二回もたどり着いた。


 うーん、解せぬ。

 

 どうやら蛇のような男も、筋肉達磨な男も帰ったのか教会にはいないらしい。


「あっ、さっきのねぇちゃんだ! シスター! ねぇちゃんが帰ってきた~!」


 教会の子供だろうか、教会に掘られた井戸から紐を引っ張って小さな桶に水を汲んでいた少女が、目敏く私を見付けるなり教会の中へとはいっていった。


「あっ、ホントだ! おーい、ねぇちゃん!」


 手足は痩せ細りボロボロの布を継ぎ接ぎした服を着た子供達が次々と教会の中から飛び出してきた。


「こら、お客様に失礼があってはいけませんよ?」


 教会の扉を開いて出てきたシスターは私の姿を見るなり笑顔で出迎えてくれた。


「まぁまぁ、無事でよかったこと。 あのならず者に追い掛けられて行ったときは心配しました。 お怪我はありませんか?」


「えぇ、大丈夫です。 お医者様をお連れしたのであの男の子を見せたいんですけど良いですか?」


「ありがとうございます。 アロでしたらーー」


「シスター! お客さーん?」


 教会の中から現れた少年は確かに筋肉マンに投げ飛ばされた男の子だった。


 赤茶けた髪をワシワシとかき混ぜながらこちらを確認する。


「誰? この太いねぇちゃん」


 こちらを指差してシスターを見上げると、アロ少年の頭上にシスターの拳骨が落ちた。


「いってーなぁ、何すんだよシスター!」


「このバカタレ! この教会を救ってくれた恩人に対してなんて事を言うんだい!」


 涙目になりながらも元気に歩いている姿に安堵する。


 よかったぁ。


「あんたを心配してお医者様を手配して頂いたんだよ?」


「えっ!? 医者いんの? ねぇちゃん、ねぇちゃん! 俺はいいからさっ、シスターを診てくれよ! ずっと体調が悪いんだ!」


「お医者様なの、お願いシスターを治してあげて」


「お金持ってくる!」


「私も今日と明日のご飯あげますから、シスターを治してください!」


 アロ少年の言葉に反応して幼児達が履いていた靴を脱ぎひっくり返して、中から数枚の鉄貨を出して私の前に差し出した。


「ありがとう、でもご飯は自分で食べようね? シスターを診てもらおうね? 他には体調の悪い子はいないかな?」


 目線を合わせるように屈み込む。鉄貨を差し出す腕は皆一概に細く、何かあればすぐに折れてしまいそうだった。


 身寄りのない孤児や、寄る辺ない人を神の名の元で保護している教会には国として毎年一定額を寄付している筈だし、本来ならば教会に家賃が発生することもない。


 身寄りのない孤児を預かる教会には子供の数に応じて硬貨が支払われているはずだ。


 しかし、見る限り決して日々の生活は楽ではないのだろう。


 痩せ細った姿がその日その日を食いつないでいる事を物語っている。


「栄養失調症だな」


 子供達を見るなりお医者様の呟きがもれ、ルーベンス殿下が後ずさった。


 貴族社会に生きる私たちは余り外に出掛けることは少ない。


 社交の際には外出することもあるが、基本的にこういった影に分類する貧民街など浮浪者の集まる区画には立ち入らないのだ。


 光が強ければ付随して闇も深くなる。


 本来彼等を守るべき貴族が私利私欲に走れば走るほどに犠牲となるのは弱い者たちだ。


「おい、これは一体……」


 城を出る際に自分がボロだと言った服よりも数段継ぎ接ぎだらけの服を纏った子供達の痩せ細り弱った腕にすがり付かれて困惑するなと言ってもきっと無理だろう。


 困惑はしても振り払うことが無く子供達の好きにさせているだけでも上々だわな。


 貴族にも国民を卑下する者、彼等を同じ人間なんだと認識していない貴族も悲しいことに少なからず存在するのだ。


「カイザール様、先程渡した硬貨いくら余ってますか?」


 子供達の姿に動揺するルーベンス殿下を放置してカイザール様に声をかける。


「あっ、あぁ。 すまない、ルーベンス様とクリスティーナ様に渡してしまったから余り残っていないんだ」


 申し訳なさそうに懐から出されたカイザール様の手には銀貨が三枚ほど握られていた。


「わかりました。 ここにもう二枚ありますから出来るだけ沢山の種類の食糧を買ってきて頂けますか? なるべく安いお店で長期間の保存のきく穀物を多めにおねがいします」


 急いでカイザール様の手に二枚足して渡した。


「あぁ、わかった」


 買い出しを請け負ったカイザール様に頷いて応え、周囲を取り囲んだ子供達がカイザール様へ向き直る。


「御兄さんに御手伝いしてくれる子はいないかなぁ?」


「はーい、僕行くー!」


「私も~!」


 元気な返事をして立候補してくれた子供のうち年嵩の少女に銅貨を十枚手渡した。


「あの、この銅貨は?」


「御使いを頼めるかな? それで買えるだけ沢山の果物を買っておいでね? シスターに食べさせてあげようね。 もちろん貴方たちもね?」


「果物っ、良いんですか!?」


 果物は平民にとって唯一の甘味だ。


 材料単価の高いお菓子などは滅多に彼等の口に入ることはない。


「ごはん、くっだもの~。 お兄ちゃん早く早く!」


 待ちきれないのか両手に数人の子供にじゃれつかれながら、両足に一人づつ子供を乗せて歩いて行くカイザール様を見送った。


「はぁ、重いんですが、一体どんな訓練ですかこれは」


 文句を言いながらも足に子供をしがみつかせたまま街へと歩き出したカイザール様一行を見送ると、隣にいたルーベンス殿下も何やら子供達にまとわりつかれていた。


「あーっ! ピカピカのお兄ちゃんの首飾り、マナカの作ったやつだ!」


 ルーベンス殿下の首飾りを見て孤児の一人が自分の作った物だと主張し始めている。


「あっ、俺のもある! にぃちゃんこれ買ってくれたんだ。 ありがとう」


 ぐいぐい袖やら裾を引っ張られてもみくちゃにされていた。


「これはお前たちの作なのか?」


 自分の首にかかった首飾りを見せると遠巻きに見ていた子供たちもやって来た。


「そうだよ。 この不格好なのはマナカのだね、へったくそだもん」


「そんなことないもん、これなんかナスカのじゃない! 溝からインクがはみ出してる!」


 どの玉が誰の作った物だと盛り上がる子供達に困惑するルーベンス殿下の様子にお医者様の診察を受け終わったシスターに真意を問うとしっかりと頷いてくれた。


「子供達の言っている通りですわ。 それはこの辺りで採れる木の実の種なんです。 実は食べられませんが種は磨くとそのように艶やかに輝くのでこの教会で磨き、買い取っていただいているんです」


「木の実なのか? こんなに輝いているのに」


 ルーベンス殿下はしげしげと首飾りを眺めながら感心したように頷いた。 


「貴方たちムクの実を持ってきて? 実際に見ていただいた方がいいでしょうから」


「はーい!」


 シスターの指示に教会の中から子供達が木で組まれた篭をもってやって来た。


「シスター! ムクの実持ってきたよぉ」


 




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