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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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聖女の奇跡

 移動の最中、リリンはエリノラにある質問をしていた。


「彼と知り合いのようですね」

「ええ。学校を卒業してからだから、リリンが知らないのも無理はないかな。魔王城勤務になる前に知り合ったから、十何年くらいかな。その時に家が隣同士になって、仲良くなったの。最初に仲良くなったのは、妹のアリエスちゃんだけどね」

「そうですか。保証人となるくらいに親交を深めたのですね……そういう関係ですか?」


 リリンは、唐突にぶっ込んだ質問をした。横で聞いていたクララは、少し顔を赤くしていたが、やはりサキュバスという種族だからなのか、エリノラはケロッとしていた。


「違うよ。普通に仲の良い人ってだけ」

「そうですか。からかえる内容を手に入れる事が出来るかと思ったのですが」

「残念でした~」


 エリノラは、いたずらっぽく笑いながら、リリンをおちょくる。リリンはイラッとしたのか、エリノラをじろっと睨む。二人のいつものやり取りなのか、エリノラは慣れたように受け流していた。

 その二人の様子を、クララは羨ましいと思いながら見ていた。そして、そのクララを見ていたサーファは、クララのあまりの可愛さに笑い出しそうになるのを堪えていた。


「この話はこのくらいにして、件のアリエスさんの病は、どんなものなのですか? 不治の病との事ですが」

「衰弱病だ。五年前に発症した」


 オウィスの答えに、リリンとサーファの表情が歪んだ。クララは病名を聞いても分からず、首を傾げていた。


「衰弱病って、どんな病気なんですか?」

「段々と身体が弱っていき、死に至る病です。その原因は不明。進行していくと、身体中に痛みが走るので、苦しみ続ける事になります。入院していても痛み止めが効かないので、基本的には自宅療養になるようですね」

「身体が弱っていく……原因が分からないのは、怖いですね」

「一説には、魔力が原因の疾患って言われているけど、その証明が出来ないから、説の一つでしかないんだよ」

「魔力が原因の疾患って、そんなにあるんですか?」

「う~ん……そこまでの数はないかな。聖女ちゃんがなった魔力暴走も魔力原因の疾患ってみなされる事があるよ」

「へぇ~……」


 クララはエリノラの話を興味深そうに聞いていた。自分が薬を作っているからか、この手の話に興味が出て来たようだ。


「ここだ」


 そんな話をしている内に、オウィスの家まで着いた。オウィスの家は、お世辞にも綺麗な家とは言えなかった。ただし、襤褸屋とも言えない普通の二階建ての家だ。

 オウィスに促されて、クララ達は中へと入っていく。


「妹は上だ」


 クララ達は、オウィスに案内されてアリエスの部屋に入っていく。中は女の子らしいものもなく、質素な部屋だった。オウィスの妹であるアリエスは、ベッドの上で横になっていた。年齢的にはクララと同じくらいだ。茶色の髪の毛の隙間から小さな角が顔を覗かせている。


「あれ? お兄ちゃん?」


 身体を起こそうとするアリエスを素早く近くに移動したリリンが押える。


「横になったままで大丈夫です」

「えっと……」


 突然現れたリリン達に、アリエスは怪訝な表情になる。


「大丈夫だ。お前の病気を治しに来てくれたんだ」

「衰弱病を……? だって、不治の病だって……」


 怪訝な表情は深まっていく。そこにクララが近づいていった。


「こんにちは。私は、クララ・フリーゲル。えっと……聖女だよ」


 クララは、少しでもアリエスの警戒を解こうとニコッと笑いかけながら声を掛ける。聖女という言葉に間があったのは、自分を聖女と言って良いのかと迷ったからだった。だが、実際に自分は聖女だ。アリエスの信用のためにも嘘は駄目だと考え、真実を告げたのだ。


「聖女……人族の?」

「えっと……今は魔族の聖女かな」

「魔族の?」


 アリエスは、ずっと家で横になっており、世俗に疎くなっている。そのため、クララの事も知らなかった。これなら魔聖女という別名の方も知らないだろうと安心していると、


「魔聖女様だ。この前の人族との戦いでも魔族達を癒やしていたらしい。まさに魔族の聖女だ」


 にこやかに笑いながらオウィスがそう言った。これもアリエスを安心させるためのものだ。だが、クララは笑顔の裏で、『余計なことを!!』と思ったが、表には一切出さなかった。


「治せるの?」

「多分ね。ちょっと手を失礼するね」


 クララは、アリエスの手を取る。先程までの努力の結果か、アリエスは抵抗もせずにただ従った。


「『聖なる導き手・全てを見通す神聖の眼』【診断】」


 クララの金色の魔力は、アリエスの手から全身に向かって覆っていった。少し前までは、手で覆った部分とその付近までしか魔力で覆えなかったが、ベルフェゴールの講義の成果なのか、全身を覆う事が出来るようになっていた。ただ、少し疲れてしまうのが難点だった。


「ふぅ……」


 診断を終え一息つくと、汗がドッと吹きだしてきた。すぐに傍にいたリリンが汗を拭き取る。


「どう? クララちゃん?」

「はい。全身に……なんか……こう……もやもや……?」


 クララは言葉を捻り出すようにそう言った。アリエスの身体には、黒いモヤモヤとしたものが、全身に広がっていた。そのせいで、どこがどう悪いのかがよく分からないのだ。


「抽象的ですね。よく見えないのですか?」

「はい。怪我なら怪我をした箇所が、病気なら悪くなっている場所、喉とか肺とか心臓とか肝臓とかが分かるみたいなんですけど、今はそれが分からないんです」


 病の治療は経験がないため、教会で教わった事を伝えた。


(全身のもやもや……話通り全身が悪いから……? でも、所々に偏りがある気がした)


「手足が痛い?」

「う、うん」


 アリエスは、少し驚きつつ頷く。実際に手足が少し痛かったからだ。


「進行具合は中等度に移りかけているというところでしょう」

「でも、これなら治せると思います」


 クララがそう言うと、アリエスはバッと起き上がろうとする。実際は、力が入らないのでゆったりとした動きだった。それもリリンに押えられる。


「本当に?」

「うん。大丈夫。初めて会ったから難しいかもしれないけど、私を信じて」

「う、うん。信じる」


 アリエスは涙を滲ませながら頷いた。クララの身体にも気合いが入る。


(衰弱病は、人を死に至らしめる悪……だから……完全に消す!)


 クララは、片手に杖を握って、もう片手をアリエスに掲げる。


「『聖浄なる光をもって・我が身の闇を取り払え』【浄化】」


 水色の光がアリエスを覆っていく。その光には、金色も混じっていた。クララの力が上がっている証拠なのかもしれない。


(感覚的には、少しずつ治せている……ただ、一気に治すことは出来ないみたい……この病は……身体に染みついているって事? でも、治せる!)


 水色の光に混ざる金色の光の割合が増えていく。


「うぅ……」


 アリエスが少しだけ苦しむ。


「お、おい!」


 妹が苦しんでいるのを見て、オウィスが手を伸ばすが、サーファが止める。


「落ち着いて。大丈夫だから」


 クララが治療を続けているということは、何も問題はないという事だ。サーファはそう判断している。サーファに押されて、オウィスは部屋の端に追いやられた。


「うぅ……うっ……」

「大丈夫。大丈夫だから」


 エリノラは、アリエスの手を握ってそう声を掛ける。それで苦しさがなくなるわけではないが、それでも、アリエスの中に少しだけ活力が出てくる。


「…………」


 クララは、真剣な表情で浄化を続ける。十分間浄化を続けると、水色と金色の光が消えていった。


「はぁ……はぁ……終わり……ました……」


 クララはそう言って、横にいるリリンに寄りかかった。


「お疲れ様です。かなり消耗しましたね」

「結構……頑固でした……」

「不治の病というのは、そういうものなのですね」


 リリンがクララからアリエスに視線を移すと、アリエスの胸が規則正しく動いているのが確認出来た。


「うん。衰弱病が治ったかは、まだ分からないけど、少なくとも悪化はしていないと思う。前よりも脈拍が安定しているし」


 アリエスの容態を確かめているエリノラは、近くの棚から血圧計を持ってきて、血圧を測定する。


「低血圧気味だけど、衰弱していく前も同じくらいだったはず」

「ということは、治っている可能性が高いですね」

「まぁね。でも、それを確定させるのはアリエスちゃんが起きてからだよ」


 この間、オウィスは何も言えず、力なく壁に寄りかかっていた。治療が終わったと聞いて、力が抜けてしまったのだ。


「クララさんも今は寝ていて良いですよ」

「そう……ですか……? じゃあ……」


 クララは、リリンの言葉に甘えて眠りについた。リリンはクララを抱き上げる。


「それじゃあ、ひとまずリビングに行こう。私達も一息つく方が良いだろうし」

「そうですね」


 リリン達は、一階のリビングに移動する事になった。その際、呆けたままだったオウィスの肩をエリノラが叩く。


「行くよ」

「い、いや……俺はアリエスを見守る。下は自由に使ってくれ」

「分かった」


 オウィスだけが部屋に残り、リリン達はリビングまで降りた。リリンは、リビングにあったソファにクララを寝かせて、膝枕をする。


「それにしても、聖女の力って凄いのね。少し見惚れちゃった」

「分かります! 私も綺麗だなぁって思っちゃいました!」


 エリノラとサーファは、揃ってクララの力に魅せられていた。


「そうですね」


 リリンは微笑みながら、クララの頭を撫でる。


────────────────────────


 クララが治療を行って一時間後、オウィスは、ずっとアリエスの傍で見守っていた。


「アリエス……」


 そう呟いたと同時に、アリエスの目がゆっくりと上がっていった。


「アリエス!」

「お兄……ちゃん?」

「ああ……ああ! 大丈夫か!? 身体は痛くないか!?」

「う、うん……全然痛くない……それに……」


 アリエスはそう言いながら、身体を起こす。今までは力が全く入らずに苦労したが、今は少し違う。ちょっとだけ力を出せるようになり、自分の力でも起こすことが出来た。


「アリ……エス……」


 オウィスは涙を流しながらアリエスを抱きしめる。抱きしめられているアリエスの目からも涙が流れていた。

 二人の声などが聞こえたリリン達が二階に上がってきた。未だ寝たままのクララは、サーファに抱き抱えられながら上がってきていた。リリンには、これからやることがあるため、クララをサーファに預けているのだ。


「アリエスちゃん、ちょっと診察して良い?」

「うん、エリ姉さん」


 エリノラは聴診器や血圧計などを使って、手早くアリエスの診察をしていく。


「じゃあ、手足にあった痛みは、完全にないのね?」

「うん。全然大丈夫。それに、何だか力が元気一杯になった感じ」

「活力が戻ってきたのかもね。でも、体力や筋力は戻ってきていないから、リハビリからね。明日、軽いメニューを作って持ってくるよ」

「うん。ありがとう。それと……」


 アリエスは、サーファに背負われているクララの事を見る。実際に治してくれたのは、クララなので、きちんとお礼を言いたいのだ。


「クララさんは、もう少し寝かせてあげてください。その間に、私からアリエスさんにお話があります」


 リリンがアリエスの横に移動して、そう話しかける。何の話か分かっているエリノラは、その場をリリンに譲った。


「お話ですか? えっと……」

「リリンです。実は聖女の力を使っての治療には、高額な費用が掛かります」


 リリンのこの言葉だけで、少しだけ何かを察したようで、アリエスの表情が硬くなる。


「アリエスさんのお兄さんであるオウィスさんによる懇願で、借金という形で治療をしました。その返済額なのですが、一億ゴールドとなります」

「!?」


 聞いた事もない高額にアリエスは完全に固まってしまう。


「こちらの支払いをアリエスさんにも行って頂きます」

「えっと……その……」


 五年間も横になったままだったので、そもそも稼ぐ術がない。その事を説明しようとするアリエスを制して、リリンが続きを話し始める。


「アリエスさんがおっしゃりたいことは分かります。その借金を返す術をこちらで用意しております。アリエスさんには、クララさんが運営している薬室を手伝って頂きます。こちらも人手が欲しいと思っていたところですので」

「えっ、でも、借金のメリットが……」

「給料に関しては必要経費ですし、金額プラス身体で払って貰うという意味が込められるので、そこら辺はお気になさらず」

「そう……ですか? じゃあ、やりたいです」

「では、こちらをご確認の後、サインをお願いします」


 リリンは、アリエスにもエリノラ達に書かせた契約書を渡す。クリップボードも一緒に渡しているので、サインをするくらいは出来る。

 アリエスは、貰った契約書を確認した後、サインをした。


「ありがとうございます。クララさん、起きてください」


 リリンが、クララの近くで声を掛ける。同時にサーファもクララを揺らして起こしに掛かる。


「ふぇ……? ふあ~~~……ん?」


 寝起きで周囲の状況が飲み込めていないクララを、サーファは床に降ろす。


「クララさん、契約書にサインを」

「サイン……ふぁい……」


 クララは、寝ぼけながらもサインをした。そこでようやく完全に目を覚ます。


「あっ! アリエスさん、大丈夫!?」


 クララは、すぐにアリエスの傍に移動する。


「大丈夫。おかげで治ったよ。ありがとう」


 アリエスはぽろぽろと泣きながら、クララの手を掴み、お礼を言った。唐突に泣かれてしまったクララは、あわあわとどうしたらいいか迷っていた。


「え、えっと……そうだ! 診断をして良い? 病気の残滓とかが残ってないか確かめないと」

「あ、うん」


 先程は、力をほとんど使ってしまって、診断を使う事も出来なかったので、今ここで行う事にしたのだ。誤魔化しも少し含まれてはいるが……


「それじゃあ、『聖なる導き手・全てを見通す神聖の眼』【診断】」


 金色の光がアリエスを覆っていく。


「……うん。悪い場所は、どこにもないね。もう大丈夫だよ」


 アリエスの身体に巣くっていた黒い靄が完全になくなっていた。これは、アリエスの身体から衰弱病の原因となるものがなくなっている事を示している。つまり、再発の可能性も少ないという事だ。


「うん。本当にありがとう。それとこれからよろしくね」

「うん。よろしく。でも、その前に、ちゃんと動けるようになってね。今の状態じゃ心配だし」

「分かってる。エリ姉さんからも言われているから」


 二人はそう言い合って、朗らかに笑った。


「あっ、そうだ。エリノラさん」

「ん? 何?」

「衰弱病の事なんですけど、さすがに原因までは分からないですが、最初に駄目になる箇所が分かったと思います」

「!?」


 エリノラは驚いて、クララに近づく。


「本当に!?」

「多分です。アリエスさんの治療をしているとき、病の魔の手を少しずつ浄化していったんですけど、手足の先の方は症状が悪化していたところなので、浄化に少し時間が掛かったんですが、それ以上に時間が掛かった箇所があったんです。それが心臓でした」

「心臓……つまり、心臓疾患って事?」

「そこまでは分からないんです。でも、心臓に原因があるから、浄化に時間が掛かったのではないかって思ったんです」

「そう……衰弱病の原因が心臓……魔力……?」


 エリノラは、少しの間考え込み、首を横に振った。


「仮説しか出てこない。でも、参考にするよ。もしかしたら、衰弱病が不治の病じゃなくなるかも。いや、聖女ちゃんが治せるから不治の病ではないのか。まぁ、私達でも治せるようになるかも」

「そうなることを私も祈ります」


 アリエスの体調面も考えて、本日はこれでお開きとなった。クララ達が帰る際、オウィスが深々と頭を下げていた。失礼な事をしたというのに、契約通りアリエスを治したクララに敬意を持っていた。そして、これからクララのために死ぬ気で働こうと、心の中で決意もしていた。

 クララ、リリン、サーファは並んで魔王城へと戻っていく。


「アリエスさんは、どのくらいで薬室に来てくれるんですか?」

「どうでしょう。リハビリの進行具合で変わってくると思われます。大体二週間から一ヶ月といったところでしょうか。そのあたりはあまり詳しくないので、もしかしたら一週間ほどで終える可能性もありますね」

「これで、クララちゃんの薬室の従業員が増えるわけだけど、クララちゃん的には、従業員は多い方が良いの?」


 サーファは、これから薬室で働く人が増えるのかどうかが気になり、クララにそう訊いた。


「どうなんでしょう? アリエスさんは成り行きで決まったわけですし、元々誰かが増えるなんて思ってもいませんでしたし」


 クララはそう言いながら、ちらっとリリンの方を見る。クララから視線を受けたリリンは、少し考えて、


「これからクララさんの薬を増産する必要がありますので、従業員が増える事はあり得ますね。どこかでスカウトしてくる事になるかもしれません」

「なるほど。そうだ。魔王城に戻ったら、医学書を読んでみたいです」

「分かりました。夜更かししないように、明日の朝、持ってきます」


 クララは、若干不服そうにしながらも頷いた。今回の件で、クララは薬学の他にも医学に興味を抱いたのだった。

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