表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
五年という歳月
68/68

王様の顔はへのへのもへじ

「お願いがあります。俺のケンタを生き返らせて下さい」

 ブログの返事欄へんじらんに、そう書き込まれていた。



 なんとも短絡的たんらくてきな書き込みだ。『ケンタ』?


「ケンタというのは《IgC》ですか?」

 そう書き込むと、すぐに次が書き込まれた。

「はい。俺のパートナー《IgC》です。無茶むちゃしてケンタを死なせてしまいました。とてもやつです。なんでもしますからお願いします」


 あれ?、パートナー《IgC》は必ず異性いせいになるはずなのだが、女性《IgC》に男性名を付けたのだろうか?

 『なんでもする』

 その書き込みに嘲笑ちょうしょうこぼれてくる。

 ほんと短絡的たんらくてきなヤツだなぁ。少々意地悪な感情が湧いてきた。


「なんでもするって何をしてくれますか?」

 また、すぐに返事があった。

「俺、まだ、中一なので今は何もできないかもしれませんが、俺、ケンタが死んだ時ショックのあまりで《グリフロード》から強制ログアウトされて、もう何もする気が起きません。一睡いっすいもできないから死んじゃうかもしれない」


 本当に中学生なのか?とうたがいつつも、《グリフロード》の仕様しようが頭をぎる。


 プレーヤーがログインしている状態では、《グリフ王国》の世界はつねに変化し続ける。変化を止めることも、過去にさかのぼることもできない。《IgC》の死もその変化の一片いっぺんぎない。


 死んでしまった《IgC》をいたむプレーヤーは多い。

 だから、セーブポイントの設置せっちをプレーヤーは切望せつぼうしているが、《グリフ王国》の世界は複雑にからった多くの情報じょうほう構築こうちくされているため、プレーヤーを一度ログアウトさせないとセーブができない、その上、セーブ用補助記憶装置ストレージ搭載とうさいするとなれば、今でも小型オフィスビル程度の体積たいせきがある《グリフロード》が倍の大きさになってしまう。

 そして、一番の問題は、プレーヤーの記憶に齟齬そごが起きてしまうことだろう。やり直したいほど劇的げきてきな状況は、プレーヤーの頭にこびりついて離れない悲惨ひさんな状況であることが多く、その状況下でセーブポイントからやり直すのは、プレーヤーの意志に圧力をかけ、言動げんどうにズレがしょうじ精神上このましくない。

 運営会社はそう説明して、《グリフ王国》にセーブポイントを設置していない。だから一度死んだ《IgC》には二度と会えない。


 だが、すぐに強制ログアウトされたのなら、ガベージコレクション(ごみ集め)処理がまだ実行されていないはず。なら、まだケンタという《IgC》はメモリ上のどこかに残っている。うまく死亡フラグを消してしまえば、ケンタは生き返ることができるかも……。


 しかし、公式では一度死んだ《IgC》は生き返らないとしている、プレーヤーはガベージコレクション前なら生き返らせれることを知らないのだから、そのことをおおやけにするのはまずい。


 日本時間では、今は夜中の四時前、こんな夜中に中学生が《グリフロード》をしているはずがない。この中学生だという人物は、今まで悩んでいたのだろうか?それとも、いたずらか?

 この短いやりとりでは判断がつかない。一度死んだ《IgC》は生き返らないと書き込むのが正解なのだろうが、


 しかし、『もしラナが死んでいたら?』


 今の俺があっただろうか?

 ラナへの気持ちとかさねてしまう。


 何らかの対応をするにしても、オープンな場所には書き込めない。


『このメッセージを三分間だけ表示します。もし見たらhttps://○○○○にアクセスしてください』

 こう書き込んだものの、気がかりのタネでしかない。


 ケンタの情報が残っていたとしても、多くのリンクが寸断すんだんされているはずだ。

 再リンクに失敗すれば《グリフ王国》の世界が崩壊ほうかいしてしまう。世界が崩壊する危険をおかしてまでケンタをすくいたいのだろうか?

 それに《グリフ王国》が崩壊したとなれば運営会社に異常検知が連絡される。もし俺の関与かんよがバレれば俺もただでは済まない。守秘義務違反しゅひぎむいはんで最悪解雇かいこだってありうる。親身しんみになってくれている中村さんにも迷惑めいわくをかけてしまう。


 三分後、直前に書き込んだ内容を削除さくじょして、

『残念ですが、一度死んでしまった《IgC》を生き返らせる手段はありません』

 と書きなおした。


  -----


 その人物は、川内かわうち冴貴さき名乗なのる中学一年生の少女だった。


 飛躍ひやくする文章に、よくわからないところもあったが、パートナー《IgC》ケンタへの思いと、ケンタが死んだ原因を聞かせてくれた、自分の馬鹿ばかげた行動でケンタを殺してしまった、どうしてもケンタをすくいたい、《グリフ王国》の世界よりケンタの方が大事だとうったえてきた。

 そしておどろいたことに、《グリフ王国》の世界にても自分の意識を鮮明せんめいたもっていられると少女は言う。


 この少女の必死さは、ラナに出会った頃の感情を呼び起こさせるものがあった。



「ログイン後すぐに、この薬をケンタにけてください。その世界がゆがんて見えますが、視覚しかくまどわされず、ケンタとの思い出をできるだけ多く頭にイメージすれば、ケンタの記憶情報が再リンクされケンタは生き返ります。ただし、必ずうまくいくと言う保証ほしょうはありません。記憶情報のリレーション(繋がり)がとぼしいとNullヌルPointerポインタ例外れいがいが多数発生し、《グリフ王国》の世界が崩壊ほうかいしてしまいます。そうなってしまうと、もう元に戻せません。今までアナタがきずき上げた《グリフ王国》の世界にはもうログインすることすらできなくなります。アナタの思いが本当なのか、ケンタのことが本当に忘れられないほど記憶に残っているのか、よく考えて使ってください」


「ありがとうございます。俺、絶対ケンタ生き返させてみせます。あと俺どうすればいいですか?」


「料金のことを言っているのなら、三百円になります」


「三百円でいいの?」


「はい、私の商品のなかでは、それが一番高い値段ですから、あと、この事は他言無用たごんむようでお願いします。ばれると私は会社をめなくてはならなくなります。《グリフ王国》が崩壊ほうかいすると運営会社にばれてしまいます。私もこまります。繰り返しになりますが、使用の時は《グリフロード》から送られるノイズにまどわされず、一つでも多くのケンタとの思い出を頭に浮かべてください」

 そう入力して書込ボタンをクリックする。


 不安は残るがなんとかなるだろう。


 「ありがとうございした」とディスプレイに表示される。


 しばらく考える。


『しかし、王様がへのへのもへじというのは傑作けっさくだな』


 まだ、コンピュータプログラミングをよく知らなかった頃、練習れんしゅうがてら作った国王の顔を変えるツールを作ってブログで販売していたが、冴貴さきはそれを使い、国王の顔をへのへのもへじの落書きに変えたという。


 《IgC》の性格はプレーヤーの感情や行動で大きく変わる。

 冴貴さきと名乗った少女が作り上げた《グリフ王国》の世界観に、子供らしい発想はっそうだと感じ、みがこぼれてしまった。


 笑い事ではない、冴貴さきは真剣なんだ。

 口元に浮かんだみが不謹慎ふきんしんに感じてしまった。


 手助けできるのはここまでだ。ケンタを救えるかは冴貴さき次第しだい

 冴貴さきから、次の書き込みが無いことを確認して、ノートパソコンの電源を切った。


 リクライニングシードに体をあずけ、目を閉じる。



 目覚めざめれば、また、充実した忙しい日々が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ