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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
五年という歳月
67/68

サクセスストーリー

 成田空港。

 チェックインカウンターへ足早あしばやに急ぐ人物。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 これを読んでるプレーヤー諸君!

 二十九歳の自分への誕生日プレゼントが二万円弱と思わないで欲しい。

 ラナとごす十時間が俺自身へのプレゼントなのだ。


 昨日、十時間の《グリフ王国》を楽しんで、今やっとまとまった時間ができたのでブログの続きを書く。

 昨日の朝いたブログは、急いでいたこともあり、俺のブログを初めて見る人のことを失念しつねんしていた。

 今までの出来事できごとを振り返るためのブログだったのだが、返事欄へんじらんを見てみると

『わびしい人生』

廃人はいじん

樹海じゅかい王国への道』

 などのネガティブな書き込みが見受みうけられ、正直ビックリしている、多くの読者の誤解ごかいまねいてしまったようだ。


 俺のブログを毎回見てくれている読者は知っているだろうが、俺はちょっとした有名人になっている。

 昨日は、ラナとは三年ぶりに会った。


 俺の心は少しけたかもしれないが、ラナは、以前となにも変わってなかった。まあ、ラナにとっては一晩なのだから当然とうぜんなのだが。



 なぜ三年ぶりかと言うと、はなしは長くなる。それでも、俺が家庭用VRゲーム《グリフ王国Liteライト》を作るきっかけにかかわるので書こうと思う。


 ことはじまりは、中村が早い段階だんかいから、中村自身じしん考案こうあんしたアルゴリズムを全世界に公開し、多くの企業とライセンス契約をむすんだことにあると考えている。

 通常つうじょう、企業秘密としてかくすようなノウハウでもプレーヤーがのぞんでいるとかれば、中村はすすんでノウハウを公開した。

 二年遅れで追従ついじゅうしていたぼう企業は喜んでそのノウハウを使い、中村に追いつき、一時期、類似るいじVRマシンが《グリフロード》と対抗たいこうしたが、そのぼう企業は、中村とは正反対の企業戦略きぎょうせんりゃくをとった、資本にものをいわせ全てを自社で開発しようと考えていたためノウハウを公開しようとしなかった。

 まぁ、それが結果的に中村の会社が事実上の業界標準ぎょうかいひょうじゅんになるきっかけとはなったのだが。


 初期しょきの《グリフロード》は日本でしか公開されていなかったこともあり、英語にくわえ、日本語で書いたノウハウを、中村は充実じゅうじつさせた。

 そのおかげでヘビーユーザは、ノウハウをおも存分ぞんぶん使い、マニアックに《グリフ王国》を改変かいへんし、武器や魔法を開発したり、地形を変えたり、シナリオを追加したりして楽しんでいた。

 しばらくすると自然とヘビーユーザの中から、それをビジネスとして考え起業きぎょうする動きがあらわれた、ソフトウェア会社やサードパーティーメーカーを立ち上げる者、トーナメント大会を運営する者が現れるようになり、世界中に《グリフロード》が普及ふきゅうしている現在でも、その時期じき起業きぎょうした日本のベンチャー企業が多く残っている。


 ハードウェアの性能に優劣ゆうれつが無くとも、起業家として活躍かつやくしているヘビーユーザのおかげで、ソフトやサービスの面では、《グリフロード》が圧倒的にぼう企業の類似VRマシンを凌駕りょうがしていた。


 結果、今では《グリフロード》と競合きょうごうしようという同業他社どうぎょうたしゃは一社もいない、中村の作った《グリフロード》にいかに自社製品をむか、いわゆるサードパーティ製品に力をそそいでいる。


 俺はそんな企業間のあらそいには興味はなかったが、中村が公開したAPI|(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)は(おお)いに活用かつようさせてもらった。

 APIを使ってラナと楽しく暮らすための多くの物事ものごと制作せいさくした。


 日本語で書いてある文章はとても助かり、俺はノウハウのまった日本語技術資料を隅々すみずみまで読んだ。

 それは、他の製作者も同じだろうが、他の製作者がチートや最強の敵や魔物やダンジョン、最強の武器や道具などを作ることに夢中むちゅうになるなか、俺は、どうすればもっと快適かいてきにラナと生活ができるかを考えていた。

 他の製作者とは違う、変わったものを制作している俺のブログは、当時かなり評判ひょうばんが良かったと思っている。


 そのブログの中で、俺は《グリフ王国》の柔軟性じゅうなんせいひくさをヤジっていた。

『俺ならこんなことができるようにする』

『なんでこんなとこで強制イベント発生させるんだ』

『こんな簡単なことがなんで町人にはできないんだ』

 って感じで、ナンセンスな箇所かしょ指摘してきしつつ、より楽しく《グリフ王国》でごすための方法を書き、実際に俺自身でためしてみた。

 フリー素材の3Dオブジェクトはインターネットから簡単に入手にゅうしゅできても、たんに物が増えただけでは何の意味もない。それの使い方、楽しみ方を《IgC》が知らないと意味がない。だから俺が《IgC》にいろいろと教えた。


 《グリフ王国》での味やにおいは、現実世界ではコンピュータ上のただの数値すうちでしかない。実際にログインして、どんな味がするのか、どんなにおいがするのかたしかめる必要があった。俺は《グリフ王国》の世界で研究を続けた。


 俺の《グリフ王国》の世界は、他のプレーヤーの世界とは異質いしつになっていく。


 俺の世界観は多くのプレーヤーの心をつかみ、いつからか、ブログの返事欄に、『真似まねがしたい』、『作ったものを売って欲しい』という書き込みが目立つようになっていった。


 俺のヒット作品は味、におい、そして《IgC》の定義ていぎデータ。


 それらを売ってみることにした。

 手間賃てまちん程度と考え五十円から三百円で販売してみると、次から次へと注文が来る。繁忙期はんぼうきには日に数百件の注文があった。

 俺は、つとめていた会社を、なんの躊躇ためらいもなくめた。

 辞めて、《グリフ王国》の世界の物事ものごとの制作に専念せんねんした。


 俺の作ったものは、非公式であるにも関わらず一時期、日本中のプレーヤーが使っていただろう。


 そんなある日、中村からメールが来たのだ。

『一緒に《グリフ王国》を作らないか?』

 中村直々じきじきのメールだった。


 中村もシナリオには不満があったようだが、しかし中村はゲームデザイナーではない。

 有名になった俺の道具を、ある日使つかってみて、『これだ!』と、俺のことが気に入ったと話してくれた。


 その頃、個人でできることに限界げんかいを感じていた俺は、喜び、すぐさまOKしてアメリカに行くことをえらんだ。


『ラナとはしばらく会えないが、またラナの喜ぶ顔が見える』

 そうゆめ見て、東京秋葉原の《グリフロード》ビルにラナを残したまま、俺はアメリカに飛んだ。


 当初は六ヶ月の予定だった。六ヶ月過ぎたあと東京勤務になる予定だった。



 アメリカにわたった俺は、単調たんちょうな作業をする《インテリ・ジェネレーター》としてではなく、シナリオプランナーとして、《グリフ王国》のシナリオにかかわり、魔物と戦う世界ではなく楽しく暮らすための《グリフ王国》へと改善かいぜんしていった。

 ラナの居ない《グリフ王国》の世界にログインして、研究を続けた。


 俺がかかわった仕事は、すぐに成果せいかがでるものばかりではない。もう少しもう少しとシナリオを見直みなおしていくうちに、三年の月日をアメリカで過ごしていた。


 今では、俺のブログで販売していたほとんどの物が運営会社から無料提供されている。そのうえ俺が個人で作ったものより性能がいい。


 今、俺のブログで販売している物は、運営会社があつわないマイナーな物しか残っていない。それでも月に十数個は売れるので、必要としてくれる人がいるからには販売をやめるわけにはいかない。

 ブログも見てくれる人がいるので続けている。


 シナリオ作成、イベント構成こうせい性格せいかくデザインなどこのんで仕事をこなしているうちに、俺の仕事は次々と増え、いつしか統括そうかつ的に《グリフ王国》の世界観を構築こうちくするポスト(役職)についていた。


 その甲斐かいあって、中村の推薦すいせんもあり、今はフルダイブ型家庭用VR機のシナリオ部門のディレクターを俺が担当している。


 そして、今、俺が全力で取り組んでいるのが《グリフ王国Liteライト》の制作だ。

 如何いかかぎられた感覚かんかくのなかで、よりリアル感を出すかに力を入れている。無論むろん、シナリオの展開、仲間と楽しく過ごすイベントも考慮こうりょかさない。


 正直、多忙たぼうな毎日を送っている、ラナとはもう三年も会っていなかった。今の調子だと、いつ会えるか分からない。

 二十九歳の誕生日、俺自身になにかプレゼントをしようと考えた。

 なにかと言っても俺自身なのだから欲しいものはかりきっている。


『ラナの笑顔』


 休暇きゅうかをとり、アメリカから、ラナに会いに日本に帰ってきた。そして今は、アメリカへ戻る飛行機の中だ。


 正直、疲れている。

 それでも、昨日は湖畔こはんでラナと花火も楽しめた。

 満足のいく誕生日プレゼントだった。



 最後になるが、《グリフ王国Liteライト》の数あるセールスポイントの中から一つをげるとすれば、やはり、MMO|(多人数同時参加)ができることだろう。

 多くの人間が同じ世界にるのだから、《IgC》との交流だけではなく、リアルな人間同士のイベントも十分配慮はいりょしている。


 『単純に何かを楽しむ』

 俺が、初めてラナと出会ったときに感じた気持ちだ。

 煩雑はんざつな人間関係を忘れ、単純に何かを楽しむ世界、近日発売予定の《グリフ王国Liteライト》を是非ぜひたのしんでもらいたい。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 アメリカへ向かう飛行機の中、俺は、そうブログに書き込み、更新ボタンをクリックした。


 機内きない睡眠すいみんをとったあと、すぐに仕事だ、ハードな日程にっていではあるが今の仕事にやりがいを感じている。


 考えてみればこのブログは、七年前、興奮こうふんさめやらぬ《グリフ王国》での出来事できごとを、ただ感情かんじょうのままに書いていただけのブログだった。誰かに見て欲しいわけでもなく、書きたかったから書いただけの日記のようなブログだった。

 それが今では、多くの読者がいる。

 現代の立志伝りっしでんとしてこのブログを読むプレーヤーもいる。シナリオプランナーを目指す若者がポスト(次の)コウヘイを夢見て、俺のなまの声を聞きたがっている。


 最近は、そんなことを考えながら書く。書く内容には、そこそこ気を使っている。あと、以前のように運営会社の悪口も書けなくなった。



 照明の落とされた、かすかにジェット音がひびく機内。


 物思ものおもいにふけってしまう。


 振り返ってみれば、攻城戦シナリオで、初めてラナと出会った七年前のあの時、

 いま思えば、あの幻想的なラナの横顔よこがおを見たときから、俺の小さなサクセスストーリーは始まっていた。



 リアル世界の俺の出来事は《グリフ王国》では一晩の夢物語でしか無い。当時と変わらないままのラナと、俺は会える。


 昨日、ログインする直前、三年前の気持ちが取り戻せるのだろうか?とすこし不安になったが、《グリフ王国》の世界では、そんな気持ちは吹っ切れた。ラナはラナだった。


 ラナはいつまでも待っていてくれる。


 五年先、いや十年先になるかもわからないが、必ずラナとしんの魔王を倒そう。


 また俺の心が少しけてるかもしれないが、初めてラナにあったときの感動を胸に《グリフ王国》の世界で目覚めざめよう。


 そのとき、また冒険の続きをしようなラナ。





 一眠ひとねむりしよう。


 インターネットを閉じようとブラウザーの画面を見ると、返事欄に一件の書き込みがあった。


『お願いがあります。俺のケンタを生き返らせて下さい』


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