俺とラナ
日進月歩の勢いで《ニュー・アントレア・シティ》は発展していく。
「ここね。コウヘイが言っていた新しくできた道って。 この先には何があるの?」
「だから、行ってからのお楽しみだって」
俺は昨日から勿体ぶっている。きっとラナは喜ぶと思う。
ラナの手にはアイスクリーム。食べながら新しい通りの景色を楽しむ。
「この辺り木しかない森だったのに。ゴールドラッシュってホント凄いわね。短期間でこんなに町が大きくなるんだから」
自然を活かした町《ニュー・アントレア・シティ》。
平地の少ない地形をうまく利用して、花びらの弧を描くように次々と新しい道が作られていく、いろいろな店や施設が建てられ町が発展していく。
豪華な町並みが観光地として《グリフ王国》中の人に知られるようになっていた。
観光客が増えれば、遊びも増える。サーカス、遊園地、劇場、町全体がさながらテーマパークのように目が奪われるもので溢れている。
城郭都市よりも華やかな町だ。世界一賑やかな町だ。と町人は誇らしげだ。
「あ、あれね。あれ、ジェットコースターね」
道の奥には、長いレールのジェットコースターがあった。
「乗ってみようか」
「私、ジェットコースターに乗るの初めて」
山の勾配を利用したジェットコースター。
カートは、俺とラナを乗せ徐々に前へ進み、重力にまかせて急斜面を下る。
木々の隙間を、
街の建物の傍を、
猛スピードで疾走するカートは迫力満点だった。
迫りくる障害物、息が止まりそうな急降下。顔を強張らせ、しのいだ。
「心臓が止まるかと思ったわ」
カートが一周まわり、スタート地点に止まると、ラナは、ホッとし顔で鼓動を鎮めている。
「でも、面白いわ。なんたって木や建物にぶつかりそうになるスリルがたまらないわね。 《ラナのローブ》だと、スピードは出せても、あんなに狭い場所を飛んだら、いくら命があっても足りないわ」
「なんか、喉が乾いたなぁ、ジュースでも買わないか?」
「そうね。驚いたせいか、私も喉カラカラ」
町は活気に溢れている。どこを見てもカラフルでおとぎの国の世界のようである。
道は舗装され、観光客用の店が多い。
輪投げ、射的、玉入れ、からくり屋敷、まるで遊園地のようだ。
家族連れの子供がはしゃいでいる。
カップルが楽しんでいる。
風船を手に持った子供が走っている。
町を楽しむ多くの観光客が行き交う。
そんな通りをスタンド(売店)で買ったジュース片手に歩く。
店舗のショーウィンドウに飾られた商品を見ているだけでも気持ちがわくわくする。
「この服、ラナに似合うんじゃないか?」
「えーー、なんか子供っぽくない?」
「まあ、店の中に入ってみよう」
「そうね」
家具屋、インテリア屋、洋服屋、おもちゃ屋、飲食店。種類も軒数も数え切れないほど建ち並ぶ。
「玄関に置く置物買わないか?」
「そうね。この店に入ってみましょ」
観光客が増えたせいか、《ニュー・アントレア・シティ》には、今まで見たことが無かった店が多くできた。そしてどの店も贅沢で趣向を凝らしている。町を歩いているだけで、なんだかウキウキしてくる。
一日があっという間に過ぎていく。
夕暮れ前、湖に通じる道を、我が家へと向かい歩く。
ここは以前、けもの道だったが、家を建てるにあたって荷馬車が通れるように、俺が広げた。その後、観光客が増えるに伴い、観光スポットとなった湖に通じる道として、舗装され、目を惹くオブジェが、あちらこちらに飾られている。
町で買った球根とタネを見ながら、ラナはうれしそうに歩く。
「どんな花が咲くのかしら、たのしみだわ」
真新しい我が家の二階には空中庭園がある。そこはラナのお気に入りの場所。町で買ったタネを育てて楽しんでいる。
最初は、あんなに嫌っていた魔物の犬シロも空中庭園で飼い、ラナが世話をしている。
「ラナ、今日は空中庭園で夕食にしないか?」
「どうしたの急に?」
俺は含みのある笑みを浮かべ、
「ラナを驚かせることがあるんだ」
「なに?もったいぶって。 最近帰りが遅かったのと関係がある?」
「まあ、あるといえばあるが……、あとのお楽しみだよ」
意地悪するが、柔らかな表情でラナは無邪気に考え込む。
「でも、私がいつも空中庭園に居たんだから、何か仕掛けを作ってたらわかるはずよね、それにコウヘイ最近、あまり家に居なかったでしょ?」
あれでもない、これでもないと、ぶつぶつ言ってたラナは、
「全然わからないわ。降参よ。教えて」
とせがむ。
「ひと目で分かることだから」
「ひと目で分かること? ってなにかしら?」
さらに考え込むラナのしぐさを、俺は楽しむ。
俺は、《ニュー・アントレア・シティ》の都市計画推進委員の一員となっていた。
だからラナといつも一緒というわけにはいかない。
それでも、夕食は必ずラナと食べるように心がけている。
食事のときのラナは、その日一日の出来事をよく話してくれた。
「調理人からケーキの作り方習ったわ、今度ケーキ作ってあげる」
「使用人に編み物習っているの、なにか作って欲しいものない?」
「空中庭園だいぶ良くなってきたわよ。あと、遊歩道作りたいんだけどコウヘイも一緒に考えて」
「シロが飛びついてきて大変なの。きっと運動不足よ。コウヘイがシロの散歩疎かにしているせいよ」
俺がしゃべらなくても、ラナが一人でしゃべっている。ラナの笑顔は、夕食の時間を幸せな気持ちで満たしてくれる。
いつも幸せな気持ちにさせてくれる。そんなラナに、今日は、とびきり豪華な夕食にしようと、ラナに内緒でいろいろと準備をしてきた。
我が家に着いた。
「おかえりなさいませ」
使用人が声を掛けてくる。
できたてのマイホーム。時間があれば、ラナと一緒に、町で買った家具や置物を馬車で持ち帰り、使用人に指示をして模様替えをした。もちろんラナと相談して決めた。
やっと、しっくりくるように、だいぶ落ち着いた。
「私、着替えてくるわね」
ラナは自分の部屋に入り、今日買ったばかりの服に着替えてくるという。
俺は、空中庭園に出てラナが来るのを待つ。
シロがじゃれついてくる。
予め使用人に言っておいたとおり、空中庭園には素朴な飾り付けができている、俺が呼んでおいた三人の楽団員が楽器をもって待機している。
水辺の涼しい風を感じながら、ラナが着替えてくるまでの一時、夜の帳が降りていく景色を楽しむ。
少し前までは、湖には俺が作った小屋しかなかったのだが、今では、湖の周りは、歩道、公園、展望台が整備され人で賑わっている。
貸しボートや釣具屋ができ、多くの人が湖を楽しんでいる。
水鳥が泳ぎ、観光客の乗るボートが浮いている。釣りを楽しんでいる。
キャンプ場では、バーベキューを楽しんでいる。
俺も、散歩したり、馬車で走ったり、ボートから眺めたり、なんどもラナと一緒に楽しんだ。
俺の目には、広い湖の周りにぽつぽつと建つ複数の邸宅から、次第に、明かりが灯っていく光景が映る。
ラナが今日買った服を着て現れた。
「浴衣っていうのよねこれ、私、浴衣着るのはじめて、どう似合う」
「ほんとうにきれいだ」
ラナに見惚れた。本当にきれいだと思った。喜ぶ俺を見てラナはうれしそうにする。
提灯でライトアップされた空中庭園。
料理人と使用人が屋台で、焼きとうもろこし、焼きそば、焼きイカ、お好み焼きと作っている。
焦げた醤油の匂いがする。焼いたイカの匂いがする。目新しいメニューだが、今では普通に《ニュー・アントレア・シティ》でも売られている、ごく当たり前な軽食でしかない。
それでも、ここには、俺とラナしかいない。
「俺の趣味でこうしたんだが?ダメだったか?」
「そんなことないわ。私、こういう雰囲気、好きよ。それに美味しそうな匂い。何から食べる?」
屋台で手渡された食べ物を持ち、丸いテーブルに座って、二人で食べる。しゅわしゅわ酒を飲む。
「ほんと、最近料理が美味しくなったわよね。金の鉱脈がみつかるとこんなに町が賑やかになるものなのね。人も物もあふれるように集まってきたわ」
楽団員が奏でるメロディのなか、二人で食事をする。
「コウヘイ、私がおどろくことって、この事?」
見慣れない小物はあるが、普通の屋台と、今となっては普通の料理、そして提灯を吊り下げただけの飾り付け。楽団員は今までにも何度も呼んでいる。驚くほどのことではない。
「いいや、別だよ」
もうそろそろだ。
「ラナ、湖の真ん中の方を見てごらん」
二人して、暗い湖に目を向ける。
一筋の光が天に昇ったかと思うと、湖の上空で大きく炸裂した。
パーン という音と共に、火の玉が大きく広がり、大きな光の花を咲かせる。
続いて、何発もの花火が夜空を彩る。
「これ花火ね。きれい」
ラナは花火に目を輝かせている。
「私、花火見るの初めて」
ラナは、空中庭園の柵に近づく、俺もラナの傍へと近づき隣り合う。
《ニュー・アントレア・シティ》で初めて打ち上げる花火。
大きな音と光に惹きつけられてか、多くの町人が湖岸に集まりだした。
しばらくすると《ニュー・アントレア・シティ》の住人すべてが集まったのかと思うほど、湖岸は人で埋め尽くされている。
言葉もなく見入っていたラナは、我に返ったかのように、俺に話しかける。
「私、こんな気持ちになったの初めて、そうだ、今日を私達の記念日にしましょ。来年も再来年もここで一緒に花火をみましょ」
「……」
「どうしたの? なんで、コウヘイ泣いてるの?」
「え、あれ、おかしいな」
俺にも分からなかった。しかし、自然と涙がでた。
なぜがラナに『おかえり』と言いたい気分だった。
「「………………」」
二人で花火を観ていた。
無言で見ていた。
言葉など要らなかった。
無心に興味深く花火を見るラナの姿は、いつか見たラナの幻想的な姿だった。(大きな箱型3Dディスプレイを無邪気に覗き込むラナ)
一点だった光が、夜空いっぱいに広がる。
突如現れた光に、大空から俺とラナが包まれるような、非現実な幻覚にとらわれる。
「なあ、ラナ」
「ん?」
隣り合うラナの、和やかな瞳が俺に注がれる。
「ラナどこにも行くな。ずっと俺とここで暮らしてくれ」
「変なコウヘイね。私がコウヘイの傍から離れたことなんか一度もないでしょ。 ……うん。コウヘイがここで暮らしたいのなら私もそうするわ」
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あれから二年の歳月が過ぎ、更に三年の歳月が過ぎた。
そう、もう五年も前の出来事になる。 俺とラナがそんな会話をしたのは。
……今でも覚えている。




