俺達の町
数日後、
なんだか頭がぼんやりとする目覚めの日。
いつものようにラナと町に行く。
道は、荷馬車が通れるように広げたのだが、大工が俺のイメージするような家を建てようとしない。
やはり、ただ広いだけの家では、建てる意味がない。ラナと楽しく過ごすための家が必要なんだ。
俺の指示通りに家を建ててもらおう。人夫のように俺が一つ一つ指示したっていい。俺の家だ。
そう考え、大工の家へと行く。
「ああ、わかった。あんたの言うとおりの家を建ててやろう。二階に空中庭園と、露天風呂だな。なんとかなろう」
あっけない。大工が物柔らかくなっている。あっさり解決して拍子抜けした。
余った時間で雑貨屋を見て廻るが、目新しい商品は入荷されていない。
食材を買った帰り道、クエスト屋の通りに足を運ぶ。すると、さっそくクエスト屋はペットを見つけてきていた。
「それが、あなたの探していた物です」
と言って少し大きめの鉄格子の付いた木箱を俺の手に持たせるのだが、どう見たって、中身は大きな白い犬ではない。
「これ魔物だろ」
クエスト屋は何も答えようとはしない。
「おい!、これ俺が言ってたのと違うだろ。俺は、大きな白い犬って言ったんだ」
俺の話など聞いてはいない。
「あと、これをどうぞ」
次に袋を渡そうとしてくる。
木箱をラナに預けようとしたが、
「いやよ。魔物を飼うなんて!」
ラナは魔物を毛嫌いして、木箱に触れようともしない。
しかたなく木箱を地面に置き、袋を受け取った。
中には液体の入った瓶がいっぱい入っている。
「調味料か?」
「いいえ、匂いです」
匂い?香水か?
「俺、こんなの頼んでないぞ」
「いいえ、これがあなたが求めていた物です」
クエスト屋は瓶の入った袋を手渡すと、どこかに立ち去ろうとする。
奇妙な行動をとるクエスト屋だが、俺をバカにしてるとも思えないし、追加料金を請求することもなく液体の入った瓶を渡す行動も理解できない。俺は何もできずにクエスト屋が立ち去るのを黙って見ていた。
気づくと、隣にいるラナは、ご機嫌斜めだった。
「私ぜったい魔物を飼うなんて反対だから。まだ小さいって言ってもすぐに大きくなるわよ。今のうちに殺してしまいましょ」
帰り道、ずっと怒ったまま、散々(さんざん)ラナは反対する。対象的な俺は鉄格子の向こうの魔物をずっと観察していた。白い犬のような魔物はおびえている。よく見るとかわいい顔をしている。
「これ何の魔物なんだ」
嫌がりながらもラナも鉄格子の向こうの魔物を観察する。
「そうね。ケルベロス……かしら?」
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結局、クエスト屋に渡された匂いの瓶を使って、俺は匂いの研究をしている。
理由はない。なぜか、それが俺のやるべきことのように感じたからだ。
ほとんど自分の部屋に閉じこもって研究しているが、以前よりは表に出る。新しい家のこととか、ペットのこととか、やらないといけないことがあるからだ。
庭に出て息抜きをする。
クエスト屋に渡された魔物はシロと名前をつけ、しばらく飼ってみることにした。殺そうというラナを説得し、俺が面倒をみることにした。
庭の椅子に座っているラナの足に、しがみつくシロ。
ラナは足で蹴り遠ざける。
「ラナ、かわいそうだろ」
「これ、じゃれてるんじゃなくて襲ってきてるのよ。私を獲物だと思ってるのよ」
そうなのか?
「でも、しばらく飼ってみることにしたんだから。別に危害を加えてないんだから、普通に接してみようじゃないか。殺すのはいつだってできる」
ラナは渋々シロの頭を撫でる。
犬小屋を作り、シロを飼っている。
少し離れたところで大工が俺達の新しい家を建てている。
用事がなければ、ラナはいつも庭の椅子に座っている。それでも、周りの環境が少しずつ変わり、話すことが増えてきた。楽しい会話は少ないが以前よりラナと暮らしている実感が持てる。
俺はすることが増えている。
・シロの世話
・味の研究
・匂いの研究
・大工との打ち合わせ
・湖までの道の管理
「ラナ、夕食を買いに行こう」
「そうね」
この道は俺が作った道。俺とラナが歩くことでできた獣道を、木こりを雇って広げた。
『木の枝が邪魔だ、もう少し木を切ろうか?』
『この凹みの激しいところには土を足さないといけない』
『いっそうのこと、石畳を敷こうか』
そんなことを考えながら、この道を歩く。
おや、《魔物の洞窟》の入り口がやけに騒がしい。
足早に歩く鉱夫に声を掛けた。
「どうしたんだ?」
「金の鉱脈が見つかったんだよ」
そう言うと、坑道の中に急ぎ消えていく。
「金が見つかったのか! ラナどうする?」
浮足立つ俺とは裏腹に、
「どうもしないわよ。私達は冒険者でしょ。コウヘイは坑道掘る気なの?」
ラナは冷静だった。
確かにそのとおりだ。金の鉱脈が見つかったところで俺達には関係がない。
夕食の食材を買いに、町へと向かう。
その時は、そう考えていたのだが。
少なからず俺達にも影響があった。
この地域は、ゴールドラッシュに沸いた。ゴールド目当てで各地から人々が押し寄せてきた。
日毎、《魔物の洞窟》入り口付近に人が増えていく。
付近の木が切り倒されたかと思うと、数日後にはその場所に新しい家が建っている。
一軒、二軒と建ち始めると、雨後の筍のように次々と建物が建ち並び、集落の賑わいを見せだす。
人が集まれば、物・サービスが増える、いつからかこの場所は《ニュー・アントレア・シティ》と人々が呼ぶ町になり、豊かで華やかなゴールドラッシュの町へと、成長していく様子が見てとれた。
歩いて一時間ほどかかる《アントレア・シティ》まで行く必要がない、十分も歩けば、新しいこの町に着く……のだが、急激に大きくなったこの町の治安は悪い。暴力、ケンカ、恐喝、盗みと《ニュー・アントレア・シティ》は無法地帯だと錯覚するほどだ。
些細な事件に巻き込まれる事が絶えない。町人など俺の敵ではないと言っても、うんざりしてしまう。
そんなある日、俺の腕をかわれ治安維持の協力を頼まれた。
地元住民が自警団を作り秩序ある町をめざしているという。
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数カ月後。
《ニュー・アントレア・シティ》は、たくさんの観光客で賑わっている。グリフ城の城郭都市にも負けていない。
湖畔も以前とは比べものにならないほど賑やかだ。
俺は都市計画推進委員に選ばれ、その中でも発言力のある一員となり、忙しい毎日を送っている。




