俺達の家
今日もラナは庭の椅子に座り、朝からぼんやりしている。
俺は、のどかな風景を眺めたり、散歩したり。
他にすることがない、何もすることがない。
宝箱を発見する前の日常に戻っていた。
夕食の材料を買いに町へ。
いつもの店で食材を買う。無意識に隣の雑貨屋の奥に目が向いた。
「おい、ラナ、ボートと釣り竿があるぞ」
「ほんとだわ、めずらしいわね」
飛びつくように購入し、大喜びで俺はボートを頭からかぶるように持ち上げ、小屋へと急ぐ。
食材と釣り竿を持って歩くラナは、急ぎ足になる俺とは対象的に普段と変わらなかった。
早速、使ってみよう。
二人でボートに乗り、釣りを楽しもう。エサは前回と同じパンにした、パンしかエサになりそうなものがない。
喜んで釣りを始めたが一向に釣れない。十分たっても、三十分たっても、ウキはピクリとも動かない。
「私先に帰って夕食の準備するわ」
ラナは飛んで帰ってしまうありさま。
一人ボートに乗って釣れない釣りをしていても面白いはずがない。
ボートを漕ぎ、俺も岸へと向かう。
その日の夕食。
「アンナ、元気だったよな」
「そうね」
「「……」」
「セシル、見違えたよ。人ってあんなに変われるもんなんだなぁ」
「そうね」
「「……」」
俺はいろいろと話題を考えるが、ラナは興味を持たない。まあ、昨日もした話で、もう話は出尽くしているんだから、ムリに同じ話題を持ち出す俺の方がおかしいのかもしれない。
「「……」」
会話の無いまま食事を続ける。
「家を建てないか?」
唐突に口にした俺の言葉に、ラナは一瞬止まったが、何事も無かったように食事を続け、聞き返す。
「また小屋作ってどうするの?」
「そうじゃなく、立派な家だよ。お金もあることだし大工に頼んでアントレアの屋敷に負けないくらい立派な家を建てないか?」
「お金があるんだから、別にいいけど……。でも、そんな大きな家要らないわよ」
冷めた態度、乗り気ではない。
「なら二階は空中庭園と露天風呂にすればいい、一階は俺達の部屋と食堂とリビングと、……そうだ、フリースペースを造ろう。カウンターやステージを作って、いろんな物を飾って、楽団員や劇団員を呼んで、そこで楽しく過ごせるようにするんだ。 空中庭園には、いろんな草花を植えて、そうだ動物園のようにしてもいい。 リビングでは、二人ガウン姿でお酒を楽しむ。床には大きな白い犬が寛いでいる」
放言癖のように夢を話した。お金は十分ある、できないことはないはずだ。
「……そうね、いいかもしれないわ」
俺の身振り手振りの仕草に半分呆れているのかもしれないが、それでも微笑むラナ。ラナの笑顔は好きだ。うれしくなる。
頭に浮かぶ《魔物の洞窟》のことを忘れ去りたい。
俺は誇張を続ける。
「
ジャングルのような露天風呂、水着を着て一日中楽しめるようにしよう。
地上と隔離した空中庭園、小動物の楽園にしよう。
何十人もの使用人を雇い、俺達にかしずく。
クエスト屋は日々、珍しいものを見つけてくる。フリースペースはさながら博物館だ。
」
俺のジェスチャーを混じえた大言壮語にラナがクスクスと笑い出す。
「アントレアの屋敷の風呂場よりは狭くてもいいけど、足が伸ばせる風呂はいいわね。 博物館はムリでも、二階に空中庭園を造るのはおもしろそうよ」
夢のような話をする俺に、ラナは笑いながら現実味のある言葉で応える。
その日の夕食は、空想の家を頭に描き、部屋数や、空中庭園のレイアウト、風呂場の広さと、話が盛り上がった。
そうと決まれば、早いに越したことはない。
翌日、いつもより早く町に向かい、大工の家を訪ねる。
「大工だから家は建てられるが、なんでもって事にはなんねぇよ。 それに、湖の近くは荷馬車が入れねんだから、どうすることもできねえだろ。湖までの道はあんたらが何とかすることだな」
《魔物の洞窟》入り口までは荷馬車が通れる道があるが、そこから先の湖までは、俺達が通ることで出来た獣道しかない。
歩いて五、六分程度だから、木こりを雇って道はなんとかできるだろう。
大工の言い方には困惑するが、理はある、「道は俺がなんとかする」大工と約束を交わした。
仕事の紹介所で、木こりを募集し、その帰り道、クエスト屋の通りに足を運ぶ。
『クエスト屋が居るじゃないか!』
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あれから俺は、一ヶ月近く自分の部屋に籠もっている。
食事もろくに取らず、風呂もろくに入らず、夜昼を問わず作業に没頭していた。
なぜかこれが俺のするべきことで、それも急ぐ必要性を感じる。買い物も風呂の準備もラナに任せっぱなしにしてある。
俺が家事をしなくなると、ラナは文句も言わずにルーチンワークのように家事をこなしていた。
「コウヘイ、食事の準備が出来たわよ」
ラナは無表情のまま、俺の部屋を覗く。
「あ、ラナ、これちょっと舐めてみろよ」
「なに?」
スプーンで渡した白い粉末を人差し指に付けペロリと舐める。
「あ、これ砂糖ね。とても甘いわ」
「だろ。砂糖だろ」
ラナは、机の上にある調合済みの小瓶を見回し、
「ここにある小瓶全部砂糖なの?」
「ためしに、つぎ、これ舐めてみろよ」
同じような白い粉末を渡す。
「すっぱい、 これは酢ね」
顔をしかめる。
「これと、これと、これを混ぜたら砂糖になるし、これと、これだと酢になる。比率が違うとまた違った味になるんだ」
「へぇー。 この瓶、あのクエスト屋が持ってきた物よね。 詐欺師かと思ってたけど、案外まじめな人だったのね」
一ヶ月ほど前、あのクエスト屋に出会うことができた日。
半分諦めてはいたが、クエスト屋を見た瞬間、なんだか怒りが湧いてきた。
『ほとぼりが冷めたと思って、また詐欺でもしにきたのか?』そんな感情が湧いてくる、『それとも、今まで俺のクエストをやってたのか?』という淡い期待も少しある。俺はクエスト屋に近づいた。
「砂糖は見つかったか?」
何も言わずにクエスト屋が袋を差し出す。
その無愛想な態度に、『今まで待たせて』とは思ったが、俺も何も言わずに、無愛想に袋を手に取り中身を確認する。
中身はたくさんの瓶。
「これ全部砂糖なのか?」
「それが、あなたの探していた品物です」
そう言うと、クエスト屋は立ち去ろうとする。
砂糖の代金を要求するわけでもなく、瓶の中味を説明するわけでもなく、ただ瓶の入った袋を手渡して立ち去っていく。
詐欺ならわざわざ、こんな手の込んだマネはしないだろう、他の場所で詐欺をすればいいだけだ。クエスト屋の挙動が気にはなるが、立ち去るクエスト屋に、俺はキョトンとしたまま何も言えなかった。
小屋に帰って、台所のテーブルに瓶をならべた。
その中から一つ手に取り、スプーンに少しすくって舐めてみる。
えぐい味しかしない。
「これ砂糖じゃないぞ」
興味があったのだろう、俺を見ていたラナの顔は俺に合わせて、苦そうなしかめっ面になっている。
「やっばり詐欺だったのね」
「ラナもちょっと舐めてみるか?」
「いらないわよ。そんなの」
しかし、不思議だ。詐欺なら瓶一つでいいはずでは?むしろ、俺と出くわすかもしれないあの通りになぜ現れた?
俺は、全ての瓶を調べてみることにした。
どれもまともな味ではない。が、微かに甘かったり、キツイ甘みだったりする物や、まったく味がない物もある。
ラナは、農園から帰ってきてから、また庭の椅子に座ったままボーとしているし、道を作る作業は木こりに任せてあるから、俺もすることが無い。
俺はこの瓶の粉末をいろいろと混ぜてみることにした、不思議とそうするべきだと感じたからだ。
組み合わせても、ほとんどがマズイ味にしかならないが、まともな味になる組み合わせもある。
その組み合わせを調べるために、俺は自分の部屋に今まで籠もっていた。
俺の部屋の机には、小瓶のラベルに味の種類を書いた何十種類もの味が調合できていた。
そして今日、念願の砂糖だと納得がいくの味がついに見つかった。
俺が調合した砂糖をまた舐めるラナに、うれしくなる。
その気持ちで話しかける。
「なあ、これで何か料理作ってみないか?」
「私、砂糖を使った料理作ったことがないわよ」
『え?』
作れないのなら仕方がない。
いつものパンと塩味のスープと水っぽいサラダで夕食にする。
「ラナ、道どうだった?」
「木こりが切り株も全部取り除いてたわ」
「なら次は大工だな。新しい家が出来たらペットを買おう。大きな白い犬を買おう」
「ペットにできる犬なんてこの辺りに居るのかしら」
ほとんど会話のない夕食を早々と済ませ、また味の研究に取り掛かる。
翌日、久しぶりにラナと二人で町に出かけ、大工の家を訪ねる。
『宝箱に入っていた一万Pがまだまだ残っている。立派な家を建てよう』
道が出来たことを大工に伝え、俺のイメージを大工に話すのだが、
「二階に露天風呂だって?!、無茶言うなよ。 空中庭園?バルコニーなら作れるぞ」
大工との話し合いがうまくいかない。俺にどこまでも妥協を求めてくる。
『俺の考える家は夢物語なのか?』
しかし、大工の言うとおりのただ広いだけの家を建てたところで楽しくない。話を打ち切り、しばらく考えることにした。夕食を買った帰り道、俺はクエスト屋の通りに足を運ぶ。
「なあ、クエスト屋、今度はペットにする大きな白い犬を探してくれないか?」
このクエスト屋は信頼できる。俺は次のクエストを依頼する。




