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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
変化するラナ
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セシルの農園

「それより、アンナに会いに行かないか?」

 咄嗟とっさには、それくらいしか思いつかなかった。


「会いに行ってどうするの?」

「会いに行くだけだよ。《ラナのローブ》があれば、すぐだろう」

「そうね。半日とかからないと思うわ」

「ご近所みたいなもんじゃないか。どうしてるか気になるだろ?行ってみないか」

「私も気にはなっているけど、……、そうね、練習もねて長距離飛行に挑戦するのもいいかもしれないわね」


 思ったより素直にラナが賛成さんせいしてくれた。

 ホッする俺にラナが真剣な顔で付け足す。

「でも、アンナちゃんの前で『魔王討伐はめた』とか『一緒に住もう』とか言ったらダメよ」

 まじまじと念を押す。


  -----


「ラナ、速くないか?」

「ゆっくり飛ぶのむずかしいのよ。それに日が暮れちゃうでしょ」

「ラナ、もう少し低く飛べよ」

「低く飛んだら木の枝にぶつかっちゃうでしょ。同じ高さで飛ぶのなかなかむずかしいんだから」


 ラナにれていると俺の体もふわりと浮き、まるで水の中にるかのように快適かいてきなのだが、時折ときおり予兆よちょうもなく急降下する。重力が消えたような浮遊感に見舞みまわれ、そのときばかりはあまり気持ちのいものではない。

 落ちないのか?と心配する俺に「だいじょうぶよ」と言うラナの言葉は信用しんようしているが、湖の上で散々さんざん落ちていたラナを思い出すと、つまづいたように、この高さから地面にたたきつけられたときのことを考えてしまい生きた心地がしない。


 城が見えてきた。

「北東って行ってたからこっちかしら」

 遠くに見えてきた城を右に旋回せんかいし、森がつづく上空を飛行する。


 広い耕地こうちが見えてきた、大きな建物が見えてきた。

「あそこかもしれないわ。 近づいて誰かに聞いてみましょ」


 近づくと人が集まっているのが見えた。

 飛んでいる俺達に気づきこっちを見ている。


 その中にセシルがた。

 セシルの前に降り立つ。

「コウヘイさん、ラナさん。どうしたのですか?」

「ちょっと様子ようす見に来ちゃった。何か取り込み中なの?」

 おどろくセシルにラナは愛想よく答えた。

「いいえ、打ち合わせしていただけですから……、立ち話もなんです、お茶でもどうですか?」

 突然のことで動揺どうようが隠せないようだ。

「あとは頼みましたよ」と言葉を残し、大きな建物の中に俺達をさそう。


 農家にしては立派りっぱな客室だ。

「あの人たち全員、セシルの使用人なの」

「はい、農夫や使用人です」

すごいわね」

「いいえ、まだ、まだ人手が足りませんし、しないといけないことが山ほど残ってます」

「へぇーー、ホント凄いわね」

 使用人が紅茶を入れる。

「《魔物の洞窟》は苦戦しているのでしようか?」

 俺はだまり込み、ラナも言葉をにごす。

「えー、まあ……」

 ラナも『俺が《魔物の洞窟》に入りたがらない』とは言えない。


 とびらひらけ、アンナが入ってきた。

 スカートをつまみ、軽くお辞儀じぎをする。


「コウヘイお兄様、ラナお姉様、ご無沙汰ぶさたしています」

「あ、アンナちゃん元気にしていた」

「はい、おかげさまで、つつがなく暮らしています」

「少し見ないうちに急に大きくなったわね」

「そうですか?」

 ニコリとするアンナ。衣装いしょうがやや大人みているせいか、やけに大人っぽくみえる。

 見違みちがえたアンナに釘付けの俺とラナに、セシルが、

「そうだわ、コウヘイさん、ラナさん、今日はゆっくりできますか?すこし農園を案内します、そのあと一緒に夕食はどうでしょうか?」

 ラナは俺の顔を見たあと、

「悪いわね。急に押しかけたのに」

 提案ていあんにのる。

「いいえ、いいんですよ。アンナも喜びますし」

 セシルは席を立ち農園へと、さそう。


「あれ、アンナちゃんは?一緒に来ないの?」

「アンナは明日の準備がありますから、夕食まではご一緒できません」

「アンナちゃんどうかしたの?」

「アンナは寄宿きしゅく学校に通わせることにしました。ここでは十分な教育が受けられませんし、なによりお城の方が安全ですから」

「そうなの、アンナちゃんも大変ね。それにセシルさみしくなるわね」

「いいえ、私もやらないといけないことが山積みです、さみしんでる時間などありません」


 セシルみずから荷馬車をあやつり、麦畑、野菜畑、果実園を次々と案内してくれた。そして、ここで働く農夫は百人を超え、生前の父の農園の状態に戻す目処めどがついたと話してくれた。


 セシルの顔色が深刻しんこくそうだとは感じていたが、あまり表情を顔に出さないセシルだから、そう見えるのだと気にしていなかった。そのセシルが困惑こんわくした表情を前面ぜんめんにだし、ラナの手をとり話し出す。

 ラナさん、以前、一緒に戦ってもいいと発言したのは覚えています。


 しかし、いま思えば軽はずみな発言でした。

 アンナはまだ小さいです。

 仕方がなかったとはいえ、戦いに巻き込んだことを後悔こうかいしています。……。もう戦いに巻き込みたくはありません。

 私一人だけでも、とは思うのですが、まだまだ農園の再建には時間もお金もかかります。このままアンナを残して私だけ戦いに行くのは、アンナのことを考えるとつらいです。


 それでも、私一人なら……なんとか。


 俺とラナが、二人を魔物との戦いに巻き込みにきたのだと、誤解ごかいしているようだ。


「違うのよ。コウヘイがどうしてもセシルとアンナちゃんに会いたいって言ったから来たのよ。けしてセシルとアンナちゃんを戦争に巻き込もうとしてるわけじゃないんだから、誤解しないで」


 ラナの顔を見つめてたセシルは、俺に目線を向ける。

 俺は、首をたてに何度もり、セシルの勘違かんちがいだとアピールした。


 ホッと胸をろすセシル。


 ラナが俺の横腹をひじつつく。

「ごめん、どうしても会いたくなって来ただけなんだ。おどろかしてホントごめん」

「いいえ、私も、コウヘイさん、ラナさんのことは気になっていたので、一度お会いしたいと思っていました。よくいらしてくださいました」

 今までずっと冷たく感じていた清楚せいそな顔が、一変いっぺんして表情をゆるめる。


 そのは、以前のセシルとは人が変わったかのように表情ゆたかに、そしてよくしゃべった。

 なんでも、農園の作業より、領主への謁見えっけん、取引先との交渉や、農業組合での話し合い、冒険者ギルドと警護けいご契約など、事務作業と面会めんかいで日々をわれていると近況きんきょうを話してくれた。最初はれない事の連続で、冒険者の次は金の亡者もうじゃ達との交渉をするはめになった自分の運命をのろったが、アンナのためにも両親にむくいるためにもと自分に言い聞かせ、嫌悪感けんおかんを覚えるほどの強欲な交渉相手にも笑顔でせっしたり、わがままな利権者たちにびたりと、最近では自分でも驚くほど、感情をおもてにだし、時には強気で、時には同情を誘って会話するようになったと、ユーモアをじえて話してくれた。



 夕食のテーブルの席。


「ゆっくりしていってもらいたいのですが、アンナは明日の朝、寄宿学校に向かいます。私も明日からしばらくお城で面談めんだん商談しょうだんが続きますから、明日の朝早くにここをたないといけません」

「そうなの、セシル大変ね。 そのぶん今日はいろいろ話しましょアンナちゃん」

「はい、ラナお姉様」


 ラナとアンナの会話は、段々とはずみ、アンナは以前のような振る舞いで、学校の話をラナにする。

「それで、私が怒るとその男子泣き出して」

「そうね。アンナちゃん強いから」

「でしょ」

 二人して大笑いする。

 アンナは、飲まないスープをスプーンでかき混ぜながら、ラナに話す次の出来事を考えているみたいだった。


 突然、アンナの胸から《ビジュアル》が顔を出し、ラナがビックリする。

「あ、ピピ」

「そうなの、いつの間にか戻ってきてたの。朝とか夜とか、ときどき顔を出すんだけど、話しかけても言葉は通じないみたい。普段は人前に顔出さないんだけど、多分ラナお姉ちゃんの声が聞こえたから出てきたんだと思う」

 アンナは席を立ち、飛び回るピピを手に戻した。手に戻ったピピをラナに見せようと、元気に走って広いテーブルを迂回うかいする。


「アンナ。 羽目はめはずしてますよ」

 言葉遣いが乱暴になり、食事のマナーをおろそかにするアンナをしかる。

「はい、お姉様。 ごめんなさい」

 セシルの厳しい口調にアンナは黙り込んだ。


 雰囲気が一気いっきめた。

「すみません。 しかしアンナには幸せになってもらいたいと思っています。両親りょうしんの意志をいで貴族きぞくの家にとついでもらいたいと思っています。私は時期じきのがしてしまいましたがアンナはまだに合います。 どんなときも冷静さをうしなった言動は貴族の家では、最悪さいあく命取りになったり、一生いっしょう、いえ末代まつだいまでもが人生を棒に振ることになりますから」


  -----


 翌朝。

 暗いうちから起き、朝食をとり、空がしらみはじめると共に、

 アンナとセシルは馬車で城へ、俺とラナは《ラナのローブ》で《魔物の洞窟》へ。それぞれの向かうべき場所へった。


 空を飛んでいると、からだに当たるまだけきらぬ夜風が冷たく感じる。なな後方こうほうからす光、日光があたたかいのだとよく分かる。ラナの体温があたたかいのだとよく分かる。

「なあ、ラナ」

「なあに?」

「アンナ大人びてたよな」

「そうね見違みちがえちゃったわよね。 セシルの言うとおりアンナちゃんは冒険者じゃないんだから、立派な家にとついで、旦那だんな様を助け、家を守り、子供を育てないと行けないわね。冒険者をしていたときのことなんか忘れて勉学に専念せんねんするのがアンナちゃんのするべきことだわ」


 アンナとセシルと会っていろいろ考えさせられることがあった。


『するべきことか』


 飛行するラナにいながら、俺が物思ものおもいにふけっていると、ラナが何気なにげなく言葉にする。

「私達も魔王を倒して、セシルとアンナちゃんが平和に暮らせる国を作らないといけないわね」

「……」

「あ、ごめん。言わない約束だったわね。うん、コウヘイが何を考えているかわからないけど、私はコウヘイを信じてるわ」


 セシルも自分の今するべきことを頑張がんばっていた。なのに俺ときたら……。


  -----


 小屋に着き、しばらくして気がつくと、ラナはまた庭の椅子に座り、一点を見つめたまま黙り込むようになっていた。


次の投稿は、また日数(一ヶ月程度)が空きます。


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