宝の地図
今日も何もすることがない。
ラナは一日中、庭にある椅子に座っている。
一人でブラブラと小屋の近くを散歩する、気晴らしにもならないが、じっとしてるよりはマシだ。
おや?木の根元に何か埋めてある、いかにも発見してくださいと言わんばかりの少し土をかけた程度に埋めてある。
「おい、ラナこれ見てみろよ」
声が裏返らんばかりの興奮が隠しきれない。俺は、ラナのもとに駆けつけ、木の根元に埋めてあった地図を見せた。
「ほら『宝の地図』って書いてあるだろ」
ラナが怒り出す。
「コウヘイ、私のことバカにしてるの?」
「どうしてだよ」
呆れた口調で、
「この『宝の地図』って字、どう見たって活版印刷でしょ。なんで宝の地図が印刷物だったりするの?」
言われてみれば、手書きの文字ではない。どうして俺はこれが本物の宝の地図と思ったのだろうか?
どうして俺はこんなにうれしい気持ちになったのだろうか?
睡魔に襲われたかのように一瞬ぼんやりしたが、気持ちを切り替える。
「なあ、行くだけでも行ってみないか?」
ふくれっ面で俺を見ていたラナ。
「そうね。坑道に入りたがらなかったコウヘイがその気になったのだから、『宝の地図』は別としていいことだわ。 そのかわり、何も無かったらドームに行くのよ」
機嫌を直し《魔物の洞窟》へと俺を誘う。
嫌な顔をする俺に、
「行くだけでいいからアントレアに会ってみましょ。様子が気になるでしょ」
久しぶりのイキイキとした笑顔を見せた。
「それにしても分かりにくい地図だな」
坑道内のめぼしい場所には着いたのだが、地図に『ココ』と書いて矢印している場所が何処なのか見当がつかない。
「ホント、子供が書いたような地図よね。もう、あきらめてアントレアに会いに行きましょ」
「いや、もうちょっと」
ところかまわず剣で壁をコンコンと叩いて痕跡を探す。コンコンと音がする壁が、一箇所「ゴボ」と、あきらかに違う音で響いた。
「おいここだよ」
剣を突き立てて壁を掘る。
壁が崩れ、壁の中から宝箱が出てきた。
本格的な宝箱にラナも真剣な眼差しに変わり、
「子供のいたずらじゃぁなさそうね」
二人で宝箱を開けた。
「ねえ、これどう見たってプラチナコインよね。何枚あるのかしら。 それに、このローブ。こんな凄いローブ見たことがないわ」
宝箱いっぱいのプラチナコインと、七色に光り輝くローブが入っていた。
「コウヘイ大丈夫」
「ああ、なんとか」
俺は宝箱を担ぎ歩く、宝箱いっぱいに入っているプラチラコインは重い。
ローブはラナが持っている。
ラナが手に持つローブは、異質だった。俺でも暗闇の中で七色に淡く光るオーラが見える。
二時間ほどかけて、やっと俺達の小屋に戻り、台所のテーブルに座る。さすがに疲れた。
ラナは、ローブに釘付けだ。
「そのローブ使えそうか?」
「手の込んだ刺繍よね。それに生地の艶も違うわ。なにより《精霊の力》が強すぎて……」
俺との会話をなおざりにする。
七色の発光は、俺にはもう見えなくなっていたが、ラナには俺には見えない《精霊の力》が見える。生地をさわり隅々まで目を通している。
「私気に入ったわ、これ『ラナのローブ』って呼んでもいい?だって私ぜったい手放さないから」
ローブを頬に当て、生地の感触を味わっている。
宝物を手に入れたと喜ぶラナを見ていると、俺自身の宝物のようにうれしくなる。
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「コウヘイ、お願いだから手、放さないでよ」
「ああ」
俺はグッとラナの手を握る。
「お、おい、ラナ!ラナってば」
「今話しかけないで、気が散るわ」
「いや、浮いてんだよ。高すぎるだろ」
「え?、」
ラナが目を開けた途端、あまりの高さに動揺し、俺を道連れに湖にドボンと水しぶきを立てて落ちた。
ばちゃばちゃと水面を叩くラナを抱え、俺はタライにつかまる。
「ラナ、大丈夫か?」
「ええ、なんともないわ」
そう言って髪をかきあげるラナ、幾分か落ち着いたようだ。
あの後、ラナはローブを試着し俺に披露した。
「なにこれ?強い力を感じるわ。 怖いくらい強い力よ」
「どんな?」
「そうね。風系の属性!?だとは思うんだけど。 物理攻撃や魔法攻撃どんな攻撃も防げそうで……よくは分からないわ。 でも空に浮ける……いいえ空が飛べそうな気がするの」
庭に出て、試してみることにしたが、感じる強い力がどの程度のものなのか見当がつかない、コントロールできず木にぶつかったり地面に叩きつけられたりするかもしれないと言う。安全を考え、俺はタライにラナを乗せ、湖の真ん中にやってきていた。
「どうする。もうやめるか?」
「いいえ、これからよ」
ラナらしい前向きさを見せる。
何度となく飛行に挑戦し、その度に不意に空高く舞い上がったり、つまずいたかのように水中に潜ったりしたが、だんだんとコツを掴んできたようだ。日暮れ近くになると、俺を乗せたタライを引っ張って水面上を縦横無尽に飛べるようになっていた。
俺も半分宙に浮いている、ラナの手を右手で、タライを左手で掴んでる。引っ張ってというより引きずられていた。
濡れた《ラナのローブ》と俺の装備を庭に干し、ラナは夕食の準備をする。
ラナはごきげんだった。
その日の夕食のラナはよくしゃべった。
「城にだって一っ飛びだわ」
「どんな攻撃でも防げる気がするわ、魔王だって倒せるかもしれない。本当に凄いローブよ」
「見たことも聞いたこともないローブだわ。最上級……、いいえ、きっと伝説級のローブよ」
「ホント、なんのローブなのかしら?、そうよ《ラナのローブ》に決めたんだから、これは《ラナのローブ》よ」
「聞いてる?コウヘイ」
一方的にしゃべるラナを見ながら、俺は終始リラックスして相槌を打つ。
「コウヘイ、明日も練習付き合ってね」
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「いいからおもいきり、その木の棒で叩いて」
「い、いくぞ」
ラナの二の腕めがけて叩く、
トン、
「痛いわね」
「ご、ごめん。大丈夫か?」
「思いっきりって言ったでしょ。無駄に手加減しないでよ」
俺が打った二の腕の場所をラナがさすっている。
気を取り直して、ラナが「さあ来て!」と身構えるが、拳にした両手を胸元で合わせ、怯えるようにギュッと目を閉じている。
ラナに向かって木の棒を振り上げた。
「「……」」
「ごめん、やっぱりムリだよ」
「もう!、《ラナのローブ》の性能が解らなかったら、魔物と戦うとき困るでしょ」
「いくらラナが大丈夫だと言っても、ラナを叩くのは俺にはムリだよ」
困り顔でラナを見つめると、
「しょうがないわね」
ラナも困った顔をする。
「じゃ、つぎ攻撃力ね。恐らくだけど、ゴーレムも一撃で溶かすような《ファイヤーボール》が撃てると思うわ」
俺を見る。
さすがに、灼熱地獄に放り込まれるような状況は避けたい。
「大丈夫よ。コウヘイに向かって使ったりしないから」
一歩引き、怖気づいていた俺に愛想よくする。
「木に向かって使って山火事になったら困るから、そうね。湖に向かって使うわ」
ラナは湖岸に立ち、大きな湖の中央に向けて《ファイヤーボール》を唱えた。
現れた炎の玉は小さく、ゆらゆらと揺れて進み、一米ほど進んだところでポンと音をたてて消滅する。以前と全く同じだ。
「あれ?おかしいわね」
ラナは、その後も《ファイヤーボール》を唱えたが、なんど試しても結果は同じだった。
「おかしいわね。これだけ強力な力を感じるんだから、攻撃力が上がっていても不思議じゃないのに。私って才能ないのかしら」
その後、ラナは使ったことがない攻撃系の魔法を唱える。
「こんなに力を感じるローブなのに、何か秘められた力があるはずよ」
《かまいたち》《竜巻》《稲妻魔法》しかしどれも、何も起きない。
俺を実験台に《呪縛魔法》を使ってみたが、《烈火のローブ》のときよりも弱くなったという。
空は飛べるようになったが、それ以外はまったくダメだ。思ったより大したローブではないのかもしれない。
使える魔法は増えてないし、唯一の攻撃系魔法だった《呪縛魔法》は、威力が弱まっている。火を起こすくらいにした使えなかった《ファイヤーボール》はそのままだ。
《治癒魔法》はまだ試せてない。防御力もまだ試せてない。
「ねえ《魔物の洞窟》に行ってみましょ」
「《魔物の洞窟》には行かない」
間髪入れずに俺は断言した。
「えー、どうして、 これがあれば、溶岩の溝だって越えられるし、頭上で旋回しているヴァンパイアを牽制したりもできるわ」
俺も驚いた。『《魔物の洞窟》には行かない』揺らぎない決意だが、なぜそこまで断言できるのか分からない。説明のしようがない。
「……」
考え込んでいると、
「ごめん、コウヘイがその気になるまで、魔物の話はしないって約束だったわね」
今まで楽しそうに話していたラナが、暗い顔に変わる。
「「……」」
沈黙が続く。
『せっかくの雰囲気が台無しだ』
何か話さないと、
「そ、それより、アンナに会いに行かないか?」




