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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
変化するラナ
58/68

グリフ王国しかない二

 次の日から人夫にんぷを二人やとい、湖のほとりかよう。人夫にんぷは俺の言うとおりにしか動かない、それでも一週間ほどで木こり小屋を完成させた。

 魔物はいない、窓は大きく作った。ねんため鉄格子てつごうしを付けた。ラナと相談してそうした。

 小屋が完成するまでの間、ラナは一日中木陰こかげでぼんやりと小屋が出来ていくのを見ていた。


 アンナ達と暮らしていた木こり小屋を真似まねて作ったのだが、少々あらが目立つ。

 でも初めて作ったにしては上出来だ。自分ではそう思う。


 ラナと二人、小屋のドアの前に立ち、出来栄できばえをながめる。

 初めて建てた自分の家だ(まあ、小屋だけど)。感動かんどうするものがある。

「明日からここで暮らすの? まあ、よく出来てるほうかしら」

 ラナは見ていただけだし、この小屋に感情移入かんじょういにゅうするところはないのだろう。



 翌朝、執事しつじにお礼を言い、使用人二人と庭師にお礼を言って、アントレアの屋敷をあとにした。

 町でラナと二人買い物をする。ベットを選び、クローゼットを選び、ナベを選んだ。風呂にする大きな寸胴ずんどうナベも二人で選んで買った。湖のほとりに通じる道は途中から狭くなり荷馬車が通れなくなるので、運搬人うんぱんにんやとって運んでもらった。


「寸胴ナベの風呂を作るぞ」

「そうね。コウヘイそういうの得意とくいだから」

 おだやかにラナは笑う。



 二、三日はラナと二人で相談して決めることがあった。ベットの位置、カーテンの色、ナベを置くたななど、それなりに話題があったが、いざ一通りの物がそろってしまうと、また、ラナはベットに腰を掛け、一日中じっとしている。

 食事のとき、風呂のとき、必要最小限しか、そこから動かない。


 朝。

「材料はあるけど、食事どうする?」

「そうね。何か作るわ」

 ごそりとラナは立ち上がり台所に立つ。


まきりてるか?」

「ええ、大丈夫よ」


昼。

「食材買いに行こうか」

「そうね」

 ごぞりと立ち上がる。


夕方。

「風呂が沸いたぞ」

「ありがとう」

 おだやかにラナは笑う。


 毎日が同じことの繰り返しだ。


「何か足りないものがあれば言えよな、まだお金はあるんだから」

「ええ、ないわ。気を使ってくれてありがとう」

 おだやかにラナは笑う。


 俺が話しかけないと、ラナは何も話さない、何もしなくなっていた。


 庭に出ようといえば、庭に出るのだが、無表情にしている。


 きしたラナがいなくなっていた。


  -----


 昼過ぎに食材を町で買うのが日課にっかとなっている。ある日のその帰り道。

「なあ、夕食には、まだ早いけど、庭でバーベキューにしないか?」

「どうして庭で食べるの?」

「え?、えーー、毎日同じだと……、つまらないだろ。気分転換きぶんてんかんだよ」

「そうね。別にいいわよ」

 おだやかにラナは笑う。



 庭でまきを燃やし、串に刺した肉を焼く。

 はたでナベでスープを煮る。


 開放的な景色なのだが、見慣れた景色だ。この大きな湖を見ても、初めてみた感動を感じなくなった。


 ラナに「おいしい?」と聞こうと思ったが、いつもの料理で、いつもの味、いつもの景色。聞くまでもない。何も変わらない。


 ラナは黙々と食べる、俺も黙々と食べる。


 無表情なラナの顔。

 ラナがきとしているのは、魔物と戦う話をしているときだけだ。《魔物の洞窟》に行けば元気になる。また、そんなことが脳裏に浮かぶ。

 心の中でそれを拒否きょひし、無理に話題を作った。

「ラナ、明日、ふね買って湖に出てみないか?」

「船なんか売ってるのかしら?」

「大きな船じゃない、手漕てこぎボートだよ、いくら小さな町でもそれくらいあるだろ」

「そんなことしてどうするの?」

「……、なんか、やってみたいんだよ。ダメか?」

「別にいいけど」

 興味がないと言わんばかりの無表情な顔。



 次の日、二人で町にでかける。

 どこにも船などない。手漕ぎボートもない。

 なら釣り竿ざおはないかと探してみる。釣り竿もない。


 あきらめて、屋台やたいで夕飯の食材を買う。ふと見た隣の雑貨屋に大きなタライが売ってある。

「あれ浮かべてみないか?」

「あのタライを?」

「あの大きさなら一人なら乗れるよ。ラナとなら二人でも乗れるんじゃないか?」

「そんなことしてどうするの?」

「え、……なんとなく、そうしたいんだ」

 俺は好奇心を持つが、ラナは興味なさげにしている。


 湖岸こがんから大きなタライを浮かべる、恐る恐る片足をタライに乗せ、体重をうつす。

 おお浮くじゃないか!

「ラナその板切いたきれ、とってくれないか」

 ラナから手渡された木の板でぐ。

 ぐと、くるりと回るだけで、なかなか前に進めない。

「これ難しいなぁ」

 右をいで、素早く左をぐ、遅いと百八十度回転してしまう。

 すばやくすばやくと集中してぐ。ヨチヨチ歩きのヒナのように後尾こうびを振りながらユラユラ進む。

「見ろよラナ、なんとかなるぞ」

 無邪気にラナに話しかけながら、もっと早く前に進もうと、素早く左右交互こうごに木の板をうつし、水をく。

 いきおあまってバランスをくずし、湖の中にドボンとひっくり返ってしまった。

「ぷ、あははは、なにやってんのよコウヘイ。 ほんとにもう」

 久しぶりのラナの笑い声だった。

「ラナも泳げよ」

「私は見ているだけでいいわ。水着もないし」

 じゃ水着があったら泳ぐのか?と考えてしまう。でも、釣り竿も無いんだあの町には。水着があるとは思えない、でも、明日探してみるか。

 仰向あおむけに水に浮き、ぼんやりと青い空を見上げた。



 防具の店や服の店をまわったが、水着を置いてある店は一つもない。あきらめる。

 なら、釣りばりを作ってもらおうと鍛冶かじ屋に顔を出したが、ことわられる。


 魚を骨で釣り針を作り、馬の尻尾しっぽの毛で糸を作ってみることにした。

 エサがない。

 パンでいいか?


 まったく釣れない。


 こんなにたくさんの小魚が居るのに。


 透き通った水の中で、のどかにむなビレを動かす小魚を見ながら、物思ものおもいにふける。

 ペットがいれば、気がまぎれる気がする。『犬とキャッチボールがしたいな』

 そういえば、この町には犬が居ない。ボールも見たことがない。

 俺が住んでた町には犬が居たはずだが、この町には無いものばかりだ。

 他に作れる物といえば、木のえだにロープをけてブランコとかハンモックくらいか?



 この日も、ラナと二人、ランプのかりで台所のテーブルをらし、夕食をとる。話す話題など何もない、ただ黙々もくもくと食べ物を口に運ぶ。

 毎日ぼんやりとときを過ごし、毎日同じ物を食べる。パンと焼いた肉とジャガイモの入ったスープ、野菜のサラダ。町では、サンドイッチがあったり、紅茶があったりする。でも、何か物足ものたりない。

 塩味のスープと水っぽいサラダ。果物くだものも水っぽい。

 そうだ甘さがないんだ。

「なあ、ラナ」

「なに?」

「砂糖って見ないよな」

「そうね。もう何年も砂糖を見てないわね」

「砂糖って売ってないのか?」

「いくとこにいけばあると思うけど、きっと庶民しょみんの手がとどく値段じゃないと思うわ。 魔物が頻出ひんしゅつするようになってからは、いろんなものが極端きょくたん品不足しなぶそくになったわよね」

 ラナは無関心に食事を続けている。


 砂糖があれば、料理のレパートリが増える。この湿しめっぽい雰囲気の食卓しょくたくが少しは改善かいぜんするかもしれない。



 肉屋、八百屋、パン屋、食堂、いろいろなところで聞いては見たが、砂糖が手に入れられる場所は誰も知らない。

 思い切ってクエストを依頼いらいしよう。

 仕事の紹介所をたずねた。

「たしかに、クエスト依頼も受け付けてはいますが、ここであつかうクエストは、近隣きんりんでの現実味げんじつみがあるクエストだけです」

「砂糖ってそんなに高価なのか?」

「私にはわかりませんが、ここの近隣きんりんに無いことだけはたしかです」

 受け付けてもらえない。


 そういえば、

「城ではいろいろなクエストを取り扱っている人が居るって聞いたんだが。この町にはいないのか?」

「たしかにクエスト屋と言われる人は、この町にも居ますが……、あまり信用できませんよ」

「頼む、その場所を教えてくれ」


 ラナの反対を押し切り、俺達は受付嬢に紹介してもらった町外れの通りにやってきた。


「砂糖を探してくれないか?」

「砂糖を見つけるという依頼……ですか? それなら六十ゴールドになります」

 俺の身なりをジロジロ見ながら意味ありげに考え込んだあと、クエスト屋は料金を提示ていじした。


「探すだけで、六十Gもとるの! お金の無駄よ」

 ラナはおどろき、俺の行動を止める。

「もし見つかっても買えない値段かもしれないけど、それでも探してみたいんだ」

「どうしてそんなことするの?砂糖なんか無くても死なないでしょ。それに今は収入がないのよ」

 たしかにラナの言うことが正しいと思う。いくら遠征隊の報酬が残っているとは言ってもこんな無駄遣いしてれば、すぐに底をつく。

「「……」」

 にらむラナから目線をらし、下を向きかけた、『だまっちゃだめだ』自分に言い聞かす。

「ラナが……、ラナが笑顔になるんじゃないかって気がするんだ」

 真剣しんけんな俺の眼差まなざしに、不機嫌ふきげんだった表情をゆるめ、目線を俺かららす。

「……変なコウヘイ。すきにすれば」

 その後、そっぽを向いたラナは何も言わない。

 俺は、ラナからお金の入った革袋かわぶくろを受け取り、代金としてプラチナコイン一枚をクエスト屋に渡した。


「いつ頃、分かりそうだ?」

「そうですね。一週間後に、またここでお会いましょう」


 ラナは怒っているのだろう、何も話そうとはしない。

 帰り道、ラナは無表情にしている。不満ともちょっと違った雰囲気でラナの気持ちがつかない。



 一週間後、買い物の帰りに、クエスト屋の通りに立ち寄ったが、あのクエスト屋はいない。日をあらためて何度か立ちったが、会うことは無かった。


  -----


 ラナはいつも無表情にベットに座っている。


 一日中部屋に閉じこもっているのは体に良くない。おもてに出ようとしないラナのために、庭に椅子いすを作った。

 俺の呼ぶ声にラナがおもてに顔をだす。俺は『どうだ?』と言わんばかりに満身まんしんみで椅子いすをアピールした。

「これコウヘイが作ったの?」

「町では、俺のイメージしたような椅子いすが無かったから」

 背もたれの付いたれる椅子

「コウヘイこういうの器用きようよね」

 ラナに座るようにすすめると、ラナはゆっくり座り、ゆらゆららす。

「どうだ?」

「悪くないわよ。ありがとう」

 ニコやかに笑う。


 ラナは、興味をしめし椅子をゆらゆらとらしている。


 俺は、ここ数日間でいろいろな物を作った。

 タライのボート、釣り竿、ブランコ、ハンモック。

 しかし、どれも興味をかきたてるものではなかった。

 魚は釣れない、タライのボートには乗れるようになったが、特に乗って何かをしたいわけでもない。

 ブランコとハンモックは一、二度興味本位きょうみほんいで使っただけで今では気にもかけない、そのままの状態で放置ほうちしてある。


 朝起きて、朝食をとり、ボーとする。昼過ぎに町に買い物に行く。クエスト屋の通りに立ち寄ってもあのクエスト屋はいない。他に行くとこがない。小屋に帰る。夕食を作り、風呂に入って、食べて寝る。


 毎日のどかな風景を眺めることしかすることがない。


 することがない。


 俺は、ブラブラと小屋の近くを散歩する習慣しゅうかんがついていた。ラナをさそえば、ラナも一緒に歩くのだが、一緒に歩いても会話がない、無言で歩く、一人でも二人でも変わらない。


 一人で散歩する。


 歩きながら、ときおり《魔物の洞窟》が脳裏をよぎる。あそこに行けば。俺は強いんだ。アントレアやみんなが待っている。頭に再生されるのだが、なぜが『行ってはダメだ』という叫びが、心の奥からこだましてくる。


 悶々(もんもん)とするばかりだ。


 散歩から帰ってくると、ラナは椅子に座り、ボーと一点を見ていた。

 椅子を揺らすこともなく、ただジーと座ったまま、一点を見つめていた。


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