ホブゴブリンとの対決
ホブゴブリンは幌馬車の前に堂々とした態度で立った。スラリと背が高く、筋肉質な体型。他のゴブリンとは比べ物にならない堂々とした風格がある。
対決の場所を作るためかゴブリンらは森の中にぞろぞろとさがった。そして、こちらの様子を覗っている。
「どうやら、ホブゴブリンは一対一の決闘を挑んでいるようです。 私は武術はまるっきりなのですが……」
そう言うアントレアが俺を見る。
ジュリオの顔が浮かんだ。
「もしもだけど、ジュリオだったら、あのホブゴブリンに勝てるか?」
「おそらく、ジュリオなら勝てます」
ラナを見て、問う。
「俺なら勝てると思うか?」
「コウヘイなら勝てるわ」
自信に満ちた顔を見せる。
意を決する。
御者台に立ち上がった俺をホブゴブリンがマジマジと見ている。俺も無遠慮に見返す、臆することなく、激高しているわけでもなく、心は至って冷静、無心であった。
新鮮な空気の流れで、《真空の壁》が開いたことがわかった。
地面へと飛び降りる。
ゴブリンより何倍も大きいが、オークよりは背が低い。しかし、オークのようなデブではない、筋肉質の体型が武道家の雰囲気を醸し出している。
盗賊が持つような先のそった剣を持ち、体格に似合わない小さな盾を持っている。
ホブゴブリンの前まで進み立ち止まる。
ゴブリンやオークのような野蛮さを感じさせない。いかにも正々堂々とした一騎討ちを望んでいる目だ。
『ゴブリン同様、言葉は通じないのだろか? まあ、話すことなど何も無いが』
次の瞬間、ホブゴブリンが突進し、剣を振り下ろす。
『早い』
オークが振り下ろす棍棒より早い。が避けられない速さではなかった。
また、襲ってくる、剣を躱す、躱した剣が地面スレスレで向きを変え、『レ』の字型に俺を襲う。
とっさに地面を蹴り上げ、剣の上を舞う。
『(オークのような)単調な攻撃ではない』
俺は、死角に入り短剣をお見舞いする。が、うまい具合に盾で防がれてしまった。『オークならこれで仕留めれたのに』
幾度となく剣を避け、スキを見つけ短剣で斬りつける。しかし、絶妙に小さな盾で防がれる、すぐに剣が襲ってくる。剣を躱し、俺もカウンターで攻撃するのだが、やはり、小さな盾に攻撃が防がれてしまう。ホブゴブリンの死角のはずなのだが、まるで小さな盾に目が付いているかのように俺の攻撃する位置にピッタリ、盾がくる。
互いに数十回と斬りかかったが、ホブゴブリンの攻撃を俺は全て避け、俺の攻撃は全て盾で受け止められてしまった。
だいぶ息が上がってきだした。
神経を研ぎ澄まし、全身で剣を避けるのは、かなり疲れる。
段々と体力を消耗していく俺を見兼ねたのだろう、アントレアが叫ぶ。
「コウヘイさん! あなたなら相手の剣先に短剣を当て、太刀筋を変えることができるはずです」
このままでは分が悪い。受け止めることは無理でも剣筋を変えることなら、なんとかできるのかもしれない。
俺は襲ってくるホブゴブリンの剣を、短剣の刃先で合わせて刃の軌道を変えた。
『あれ、軽い』
ホブゴブリンの剣を簡単に往なすことができた。
思わぬ俺の剣さばきに、戸惑うホブゴブリン。
だが、まぐれだと思ったのか、また襲ってくる。しかし、結果は同じだ刃先を合わせ、体をずらし軽くホブゴブリンの剣を往なす。
何度となく繰り返し、コツをつかんだ。
『(ホブゴブリンって)あまり力がないのか? まてよ。オークの棍棒もすべて躱していた。もしかするとオークも大した力ではなかったのかもしれない』
全身を使って剣を避けなくてもよいことに気づいた俺は、優位にたった。短剣を軽く相手の刃に当てて往なす。そして懐に入って攻撃する。この動作を体で習得した。
しかし、この小さな盾が、まるで意思があるかのように、俺が攻撃する場所場所に来て攻撃を防ぎ邪魔をする。
鍔迫り合いでも俺のほうが有利なようだ、今となっては俺のほうが強いと確信できる。だが体格差がある、押し倒すことまではできない。
短剣を力任せに振る。が盾を貫通することはない。そして、盾が俺の攻撃を全て受け止めてしまう。
ホブゴブリンは怯むこと無く俺に剣を浴びせる。しかし、もう俺は避けること無く、短剣を強く合わせて応戦する。
何十回と火花が散るような鍔迫り合いを繰り返した。そして次の瞬間、ホブゴブリンの剣が折れた、折れた刃先がホブゴブリンを襲う。盾はその折れた刃先を防ぐように動いた。
『今だ』
懐に飛び込み、腹に深く短剣を突き刺す。そして、水平に短剣を走らせた。
ホブゴブリンは折れた剣でなおも、俺に襲いかかろうとするが、俺の左手がそれを自由にさせない。ホブゴブリンの力が段々と弱くなり最後には、ホブゴブリンの体から意思を感じなくなった。
組み合う俺とホブゴブリンの動きは完全に止まった。
ホブゴブリンは立ったまま死んでいた。
ゴブリンら。茫然自失と立ちすくんでいたが、気力なく、ぞろぞろと森の奥へと歩いていく。
サキュバスはいつの間にか居ない、あとにはホブゴブリンと折れた剣と盾が残っている。
手綱を握っていたアントレアが幌馬車をゆっくりと動かす、俺は、ホブゴブリンの盾をひらい、幌馬車に乗った。
「やるわね。コウヘイ」
ラナが笑顔を振りまく。
「やはり、コウヘイさんは期待を裏切りません」
運転するアントレアが前を向いたまま、満足そうな顔を浮かべている。
初めこそ戸惑ったが、終わってみれば快勝だった。俺は強かったのだ、魔物の見た目に騙されていた。ホブゴブリンとの戦いが脳裏に焼き付いて離れない、気持ちが高ぶり武者震いしそうになるのを必死で堪え、何気ない態度を装った。
「コウヘイさんは実践不足のようです。今度、他の冒険者と練習試合をしてみるといいですよ」
「私、お城の町で噂を聞いたんだけど、年に一度、盛大な武道大会があるって」
「はい、王様が臨席される武道大会があります。その大会で入賞した冒険者は優位に魔物と戦えるように国からいろいろな支援が受けられます」
「コウヘイ出てみなさいよ」
「そうですね。《魔物の洞窟》もコウヘイさんが居てくれれば、そう日にちは掛からないと考えていますから、武道大会までには城に戻れると思います。コウヘイさんは武道大会に出てみるのがいいでしょう」
「そのときアンナちゃんたちの様子も見に行ってみましょ」
その後、ゴブリンらは鳴りを潜めた。軽やかに幌馬車は旅路を進む。
書くのが遅いと実感しています。次の投稿は、また日数(一ヶ月程度)が空きます。




