帰路
帰り、十人前後が一つの荷馬車に乗り城へと向かう。徒歩に比べれば速い。
「帰りってどれくらい掛かるんだ」
「そうですね。明後日の昼過ぎには城に着くはずです」
荷馬車には、俺達四人とアントレア、そしてロベルト達のパーティー五人が乗っている。
荷馬車に乗る時、ロベルト達を見たセシルは、何度も丁寧に礼を言った。アンナもラナも、そして俺もロベルト達に礼を言った。
セシルの礼儀正しい態度に、
「そんなことはない、むしろこちらが礼を言うべきだ。なんせオークを殲滅させることが出来たんだから」
「私達はできることをしたまでよ。むしろあなた達の方が凄いわ。なんだって魔王の幹部が居るかもしれない部屋に乗り込んで行ったのですから」
ロベルトの仲間は、セシルの功績を賞賛していた。
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長い道中、ただ荷馬車に揺られるだけの時間になる。
会話が道中の慰みなのだが、ロベルト達は口数が少ない、俺もセシルもしゃべるのは苦手である。
ラナはよくしゃべるが、アンナと二人で景色を楽しんでいる。場を盛り上げようという気持ちは微塵も感じさせない。
アントレアが話題を作るように話しかけてくる。
「結局、あの神殿のどこにも魔王の幹部の物と思われる宝石は発見できませんでした」
そういえば、魔王の幹部クラスともなると、部屋に飾るほど大きな宝石を持っているんだったなぁ。
そんなことを思い出しながら視線を向けると、アントレアは話を続ける。
「
城を攻めるのに必要な武器も一切発見できず、結論として、バルコニーから逃げ去ったサキュバスが私利私欲のためにオークを操っていたと断定したのですが、今までに事例が無い出来事で隊長も困惑していました。
本来、サキュバスは醜いものを忌み嫌い、狡猾と権力を好みます。
サキュバスは権力者に媚び、オークやゴブリンのような野蛮で知恵の回らない魔物とは目も合わせませんが、今回のサキュバスは違っていたようです。自らが地位につき、《魅惑の魔法》でオーク達を操っていたのでしょう。
アンナさんを誘拐したのも、生け贄のためではなく、単に自分のペットとして飼いたかったから、生け捕りにするようオークに命じたのでしょう。
」
検分の結果をそう結論づけたと話してくれた。
ラナとアンナは楽しそうに流れ行く景色を楽しんでいる。
俺は、ぼんやりと流れる景色を見つめながらも、三階の部屋に入った時の、悲しそうにしたサキュバスの顔を思い出していた。
『俺達が来なければ、あのサキュバスは静かに、神殿で暮らしていたのだろうか?』
ふと思い出した。
「そういえばアントレアさん、除隊したはずでは?」
「ああ、そうでしたね。除隊したはずです」
「なんで、除隊したのに隊長たちと神殿の検分してんだ」
アントレアは少し考えたあと、
「城に戻ってから、ゆっくり話そうと思ってたのですが、……そうですね。話を聞いてもらえますか?」
頷く。
アントレアは別の話を始めた。
「以前、《魔物の洞窟》の話をしたと思います。そして洞窟の奥深くには《魔界へのゲート》が開かれていると。 実は、その土地と言うのが、私の領地なのです。 厳密にはまだ父の領地ですが、将来必ず私の領地にしようとしている土地なのです」
「領地を持っているってことはアントレアさんは貴族なんだよなぁ。貴族も冒険者になるのか?」
「冒険者は身分や出生を問われませんから、誰でもなれます。それでも貴族が冒険者になるのは珍しいでしょうね。 ただ、私は五男ですから父が亡くなったあとは平民になります。一度平民になってしまうとなかなか貴族へとは戻れません。将来を見据えれば今できることをやっておきたいのです」
真剣な眼差しを緩め、
「平民になったとしても、それなりの役職が割り当てられるので、生活に困ることはありません」
と付け加え、話を休めた。
ガタガタと鳴る車輪の音にかき消され、アントレアの声は、俺と、アントレアの隣に座っているロベルトくらいにしかはっきりとは聞こえないだろう。
ロベルトが口を開く様子はなく、俺も話すことが思い当たらなかった。
アントレアが再び話を始める。
「
《魔物の洞窟》にある《魔界へのゲート》からは、日々魔物が送り出されています。しかし、まだ出入り口が小さいため、送れる魔物の数は限られているようです。
大量の魔物を送り出すためには《魔界へのゲート》を一度通行止めにしなければいけません。
ひとたび、《魔界へのゲート》を広げようとすれば、洞窟内の気候が急変するのですぐに分かります。我々は、そのタイミングを見計らって一斉に攻撃するのですが、工事を中断してすぐに《魔界へのゲート》から魔物が送り出されます。
魔物はゲートを広げることができず、かと言って私達も日々送り出される魔物を倒すのが精一杯で、《魔界へのゲート》を破壊するには至っていません。
私が、この遠征隊に参加したのは、強い冒険者を探すためです。
そして、私はその人物として、コウヘイさん、あなたに目をつけました、私の目に狂いがなかったようです。
コウヘイさんは強くなるはずです。魔王を倒す勇者になるかもしれません。私はそう感じています。
コウヘイさんには実力があります。
どうでしょうか?《魔物の洞窟》に来てはもらえませんか?
」
どうも、実感が湧かない。
たしかに、オーク三匹を目の前にした時、恐怖とは別に何とも言えない興奮で心が躍った。
オークの攻撃を紙一重でよけ、オークを切り裂く。
肉踊り、血騒ぐ戦闘だった。体中から生へのこだわりが漲った。
負ける気がしなかった。
『俺の実力を知りたい!強い敵と戦いたい!』
戦闘を思い出すと、そんな感覚に包まれる。
この感覚を味わいたくて、みんな冒険者になるのだろうか?
でも、しかし……、初めて他の冒険者と過ごしてみたが、正直なところ、わいわい言って、暴れて、酒飲んでるだけの陽気な連中としか思えない。
遠征隊での出来事を思い出し、兵が言うがままに動いていた冒険者達のイメージは。
なんとなく抱いていた憧れとは違っていた。
「冒険者って、軍隊の下請けなのか?」
突拍子もなかったのか、アントレアはしばらく間をおき、質問に答える。
「単身で魔界に乗り込み、名のある魔物を倒せるのは、極一部の冒険者だけです。大抵の冒険者は軍の傭兵として、または、町人の護衛、警備として魔物と戦っている者がほとんどでしょう」
俺は流れる景色に目をやった。
『《魔物の洞窟》に魅力を感じない』
「「……」」
再びアントレアが話を続ける。
「《魔物の洞窟》では、軍隊が関与していないので、誰かの指図に従うという事はありません。冒険者の判断で行動ができますし、いろいろと領主からのサポートがあります。領主が個人的に財を投げ出し、冒険者たちを支援しています。洞窟から持ち出した魔物の宝石は、他よりも高く買い取る仕組みもあります。村は町に変わり、城よりも良い武器や防具が揃っていますので、きっとコウヘイさんたちは気にいると思います」
流れる景色を見ていた俺は、ふと、思い出した。
「アントレアさんって、除隊したんだから報酬はもらえないよなぁ」
忘れていたが俺としては、そっちの方が気がかりだった。
「ああ、あれは私が指導者の部屋に入らないための建前ですから、隊長がもみ消してくれるでしょう。だから私も報酬に与かれますからご心配なく」
『そうだ、アントレアはアンナを見捨てたんだった』
信頼はできるが、冷血な鉄仮面のような一面もある。
「しばらく考えさせてもらえないか?」
そう答えたが、俺の中では、やはり、セシルの農園で平和に暮らしたいという気持ちが強い。




