部屋
「わるいが、僕達はここまでだ。コウヘイならきっと指導者を倒せる。僕は信じているよ」
二階への階段にたどり着くと、ジュリオは振り返り、俺を勇気づける。
「いや、ここまで送ってもらって本当に助かった。ありがとう」
「手はず通り、僕達は一階にいるオークを掃討しながら元来た道を戻る。幸運を祈ってる」
俺、ラナ、セシルは二階へ続く階段を登っていく。
『この先に、あの五人が恐れるほど強い魔物が居るのだろうか?』
二階通路が見えてきた。奥には、オークが待ち構えている、手ぶらだ。こん棒も盾も持っていないが、オーク自体が強いのだ、油断はできない。
ジュリオ達の戦いを見ていると自分も強くなった気になってしまう。
オークから近づいてくる気配がない。
通路は、L字型に曲がった一本道、曲がり角の先にどんな魔物が居るのだろうか?
通路の幅はそう広くない。囲まれる心配はいらない、目の前のオークを一匹ずつ倒していけば大丈夫だ。
ラナは、仁王立ちする一番手前のオークに《呪縛魔法》を唱える。
それに気付いたオークだが、床に根が生えたように足を動かせなくなっている。狭い通路が幸いして、後ろのオークが前に進めない。
ラナは《呪縛魔法》を続ける、みるみるとオークの首から下がまったく動かなくなった。
「セシル、もし、危なくなったらラナを連れて一階に逃げてくれ」
意を決して動けなくなったオークに近づく。
俺の頭上より高いオークの首筋目掛けて飛び跳ね、渾身の力で首筋に短剣を突き立てた。
そして、全体重をのせて、オークを切り下ろす。
『あれ、思ったより柔らかい』
鎧のように堅い皮膚とばかり思っていたのだが、そうでもない。柔らかいゴムのように皮膚が切り開く。
オークは絶命の声を上げる。
息つく暇もなく動かなくなったオークを後ろから押し倒し、次のオークが突進してくる。
ラナは、突進してくる一番手前のオークに《呪縛魔法》をかけるが、足が動かなくなったオークはしゃがみ込む。後ろのオークはしゃがみこんだオークをまたぎ、さらに突進してくる。ラナは《呪縛魔法》の対象を変えるが、やはり、足が動かなくなるとしゃがみ込み、後ろのオークに道をゆずる。
ずるずると後退さりするしかない俺は、
「セシル!、ラナをつれて逃げろ」
そう叫んで立ち止まった。
立ち止まった俺に、オークが手を伸ばす、スローモーションのように感じる。愚直までにオークの動作は単調だ。俺は避け、そのオークの腕に短剣を突き立てた。薙払おうとする、もう一方の手が水平に俺に迫ってくる。俺はしゃがみ、オークの股に飛び込む。後ろのオークが俺を見るなり両手で掴みかかろうとするが、捕まる気がしない。
俺の力では、突進するオークを止めることはできないだろうが、オークの動きを読んで、攻撃を躱すことはそう難しくは無いようだ。
『コツを掴んだ』
俺は三匹のオークを相手に、脇をすり抜け、股をくぐり、頭上へ跳ねて、オークに短剣の刃をかすらせた。最後の一匹の首筋に短剣を突き立てるまで、スローモーションのように感じた。
息を切らせながら、
『オークってこんなに弱いのか? 体格がいいだけでゴブリンと大して違わない』
そんなことを感じた。
オークの見た目に騙されていたが、実際戦ってみると、ぜんぜん大したことがない。
二階の部屋全てに目を通したが、もう、魔物は居ないようだ。L字型の通路を曲がると、三階への階段があった。ロベルトが言ったように二階は広くなかった。俺達は長い緩やかな螺旋状の階段を慎重に進む。
三階へ続く階段の最上段は広く作られている。しかし、何も無い、警護の魔物が居るわけでもない。正面に大きな扉が一つあるのみ。ほんと殺風景な扉の正面。
その扉のノブを回す。鍵はかかっていない。俺は、足で蹴破るように扉を開けた。
そこは華やかだった、想像すらしていなかった。宮殿の王女様の部屋のように広くて華やかだった。
壁は暖色系の明るい色で装飾され、絵画が飾られ、花がいけられた花瓶があり、小さな円いテーブルにはカップとポットが置いてある。ベランダに続くと思われる大きな窓の外から聞こえてくる喧騒な世界とは全く違っていた。
部屋の奥には大きなベットがあり、そのベットにアンナが静かに眠っている。
「アンナ」
セシルは駆け寄ろうとしたが、ラナが手を握って止める。
アンナが眠るベットの横には、うつくしい女性が、アンナを介抱してるかのように椅子に座って付き添っている。
『彼女もまた、魔物にされられた娘なのだろうか?』
肌の白さと仕草から、貴族の娘らしいと想像がつく。
「大丈夫ですか?」
遠く離れている扉の外から声を駆けるのだが、俺達を見て驚いた顔をしたあと、無言のまま、うつ向いて悲しそうな表情を浮かべる。
俺は恐る恐る、部屋に入る。どこかから魔物が襲ってくるやもしれない。そう警戒しながら、その娘に近づく。
娘に近づき、手を差し伸べた。
「もう大丈夫ですよ」
「コウヘイ!、そいつ魔物よ」
その娘は、表情を、笑ってるとも睨んでるともとれない魔物の形相に変え、口から長い舌を突き出し、毒矢をおれに吹く。
首筋に毒矢の感触がチクリと伝わる。
その娘はバルコニーへと走って逃げる。
とっさの出来事だった。
毒で、頭がクラクラ回る。俺は平衡感覚を失いよろめきながらも、魔物の襲撃に備えた。
しかし、魔物はいないようだ。室内はシーと静まり返った。
今なお続く、室外の騒ぎが、大きな窓から聞こえてくる。
「もう、コウヘイは、色目なんか使うからやられちゃうのよ」
呆れた口調のラナが俺に《治癒魔法》を掛けてくれた。
天幕付きの大きなベット。
アンナは、お姫様の夢でもみているかのような穏やかな表情で眠っている。ケガは無いようだ。
「アンナ。アンナ」
セシルがアンナを揺する。
「あ、お姉ちゃん」
目を開き、小さな声で応えた。
「アンナ大丈夫。どこも痛くない」
セシルは涙ながらに質問する。
「んーーー」
長い間考えた。
「あ!、うん、大丈夫だけど、ごめんねラナお姉ちゃん」
体を起こしたアンナは、胸元を触り、
「預かってた《身代わりのブローチ》、灰にしちゃった」
気まずそうに、炭のように黒く濁ったプローチをラナに見せる。
ラナは笑顔で、涙をぽろぽろ流しながら、途切れ途切れに、
「
そうね。
灰になっちゃってるわね、……
でも、アンナちゃんのおかげで城から報酬、たっくさんもらえるから、
それで新しいの買えるから。町に戻ったら買おうね。怖い思いさせてごめんね
」
感情に言葉を失いそうになりながら今の気持ちを伝え、アンナの横に座り、体を寄せ抱きしめた。
三人は、体を寄せて再会の喜びに涙する。




