不満
瓦礫の撤去を初めて五日が過ぎた。
八割ほど進んだといってもまだまだ瓦礫は多い、それに今まで以上にオークが行く手を阻む。
「あそこ」
ラナの一言で、兵が、最前線に居る警護の冒険者と瓦礫を除く冒険者に大声を掛ける。
「おーい、一度引け」
瓦礫を除いていた俺は、その声に反応して、後方に下がった。
ラナが指差した屋根を、《稲妻魔法》でアンナが攻撃する。
姿は見えないが、アンナが攻撃した屋根からガタガタと音をたて反対側の道にドスンと大きな何かが落ちる物音が聞こえた。
「いやぁ、ラナさんのおかげで作業が捗ります」
兵は、オークを発見したラナに感謝の気持ちを伝える。
「いいえ、私よりアンナちゃんが凄いのよ。こんなに離れていても《稲妻魔法》が届くんだから」
警護の兵の中に交わり、ラナ、アンナ、セシルが、オークを見つける任に就いていた。
ラナの表情は、なんとも生き生きしている。
『なんで、俺を呼ばないんだ』
戦闘にならなくてもオークを相手にしているんだ、同じパーティーなんだから俺がラナ達を守るのが筋じゃないのか?
そんな鬱憤が溜まってくる。
土木作業をしながら、離れたラナ達の様子を見ていることしか俺にはできない。
他の冒険者に混じり土木作業をする俺のすぐ前には、警護の冒険者が瓦礫の上に立ち怪しいとこは無いかと探索している。俺より十米ほど後方に、ラナを含む兵が周りを警戒している。
アンナは時折、警護の冒険者よりもさらに先の建物に向かって《稲妻魔法》を発している。オークが隠れていそうな場所を予めつぶしているのだろう。
「ラナさん達には感謝しています。ケガの治療をお願いしているのに、その上、危険な警護の任までしてもらってるのですから」
「危険なんて思わないわ、だって兵隊さんが守ってくてるんですから、安心だわ」
明るいラナの声。
俺の存在意義を否定するような発言に聞こえる。
兵の生き生きとした話し声が時折聞こえてくる。
「ラナさんなら、いくらでも仕事があるはずですが、」
「え、軍が発行する冒険者資格持ってないのですか?」
そんな言葉が、耳に入ってくる。
ラナは、上級の治癒魔法が使える。
アンナの魔法は、魔物にダメージは与えられないが、一瞬だけ完全に身動きが取れなく出来る。
俺が、ラナやアンナを守っていたのではなく、俺と居るからラナとアンナの才能が生かせなかったのかもしれない。
「どうしたのですか?浮かない顔をして」
「なあー、ラナとアンナどう思う?」
「どうとは?」
よく考えていなかった。『俺は何が聞きたいんだ?』「……。他の魔道士と比べて実力が上かってことなんだけど」
「ああ、そういうことですか。ラナさんは間違いなく上級の魔道士ですし、アンナさんはまだ幼いから何とも言えませんが才能は十分あります」
「俺なんかとパーティーを組んでるより、他の冒険者……、んー、例えばこの前の《大風のマント》を使ってたジュリオみたいな凄いパーティーに入った方が良いと思うか?」
「何をいいますか。 コウヘイさんは恐らくですがジュリオよりも優秀ですよ」
真面目な顔でそう言うアントレアに、一瞬思考が停止したが、
『女々しく相談したところで始まらない』
「アントレアさんに相談してよかった」
とまじめに受け取った素振りで笑い、気持ちを切り替え、作業を続けた。
その夜。
しゅわしゅわ酒を飲みながら、ラナが上機嫌でいる。
「労働のあとの一杯はたまらないわね」
「それはようございましたね」
不機嫌にしゅわしゅわ酒をがぶ飲みする俺。
「なに怒ってんの?」
ラナと兵が昼間、楽しそうに話してたのが何とも腹立たしい。が口には出さない。
「いや別に」
そっぽを向く。
「コウヘイさんは、昼間ラナさん達が兵と和やかな雰囲気だったのが不服みたいですよ」
そうバラすアントレアを俺は睨んだが、アントレアは、
「わだかまりは早めに取り除いた方が良いですよ」
と笑顔を見せる。
「何も兵となんか和んでいないわよ」
「いや、和んでた。『兵の皆さんが守ってくれるから安心です』とか嬉しそうに言ってただろ」
「そんなこと言ってたかしら私?」
しらばくれてるのか、ラナは惚けた顔をする。腹立たしい。
「間違いなく、言ってた!」
ラナは怒り出す。
「言ったかどうかは忘れたけど、コウヘイ、社交辞令って言葉しらないの?私の方からお願いして兵隊さんと一緒にいるんだからお世辞の一つや二つは言うでしょ」
「救護班なんだから、軍隊の魔道士と一緒にテントに居ればいいだろ。わざわざ、警護の兵と一緒にいなくても」
「コウヘイは、あのテントの中を知らないからそんな事が言えるのよ。とても居れたもんじゃぁないわよ。ねえ、セシルもアンナちゃんもそう思うでしょ」
「はい、私もあそこは、ちょっと無理ですね」
セシルはそう言い、アンナは無言で落ち込んだ顔をした。
「どういうことだ?」
「まず、テントが狭いの、その狭いテントで六人の魔道士が顔を付きあわせて向かいあって座ってるのよ。その時点で異様な光景でしょ。 その上、無表情で何も喋らないのよ。話しかけると『勤務中は私語禁止です』っていうし、私とアンナちゃんが喋っていても叱るわけでもなく、聞いている様子もなく何考えてるかまったくわからないわ」
「うん。あのおじさん達怖い」
「物静かなのは嫌いではないのですが、あの雰囲気は物静かとも違いますね」
「セシルなんか『私は、ラナさんの警護ですから、表で警備しています』ってテントの外に出て行っちゃうのよ。こんなとこまでオークが来るわけがないのによ」
その光景を見てないから何とも言えないが、三人とも嫌がってるのだから、よほど異様な光景なのだろう。
黙り込むしかない俺に、ラナが話を続ける。
「それで、気分転換に三人で散歩してたら、兵に『ラナさん達は救護の任務中ですからテントで休んでいて下さい』って、散歩もさせてくれないの。それで、私の目が良いのと、アンナちゃんの魔法の射程範囲が広いのを理由に警護の兵に交ぜてもらってんだから」
だから、『兵に愛想を振りまいていた』というラナの言い分も分かる。
納得はできるが何ともムシャクシャする。俺はしゅわしゅわ酒を一気飲みした。
「わだかまりは取れたようですね。 ここ数日の単純労働で気が滅入っているのでしょう、気分転換になるかどうか分かりませんが《魔物の洞窟》の話をしようと思うのですが、いかかです?」
「いいわね」
ラナは興味を示す。
「
《魔物の洞窟》は、城から馬車で十日ほど行った場所にあるというのは前にお話ししたと思います。
その場所は、石炭の採掘を生業にしている小さな村があるだけの辺境でした、城から遠く、運送費が高く付くので大規模な採掘は行われていませんでした。ある日鉱夫が、ドワーフが掘ったとみられる通路を発見したのです。かなり古いもののようでドワーフの姿はなく、迷路のように入り組んだ通路だけが存在していました。
その通路を進んで見ると微量ですが、銅や銀などの鉱石を発見したようです。
村に戻り、鉱夫たちを集め、喜んで坑道を下へ下へと掘り進めていたのですが、ある日、岩を砕いたツルハシが、新しい空間を発見したのです。その空間はとても広く、村がすっぽり入るくらいの広さで天井はビックリするくらい高く、そして何よりも驚いたのが光苔で洞窟が満たされてあり、満月の夜よりも周りは明るかったそうです。
まるで人工的に作られたドームのような構造だと思いながらも、鉱夫たちはその空間に入ろうとしたそうですが、得体の知れない動く物体に気づき、身を隠したそうです。
動く物体は、ゴブリンやオークでした。
ツルハシでドームを広げ、土砂を運び、光苔を栽培する作業をしていたということでした。
そこは、紛れもなく魔物軍の重要拠点として整備されていたのです。
」
口が乾いたのかアントレアは話を中断して、しゅわしゅわ酒をゴクリと飲む。
興味を示してラナが聞く。
「私達がそのドームに気付いたことは、魔物は知ってるの?」
「はい、幾度となく多くの冒険者たちが死闘を繰り広げていますから、今では、ドームの半分は人間側の領地になっています」
「軍隊は?」
「軍は他の戦地が忙しく手が回らないと言い、さして重要な土地ではないから、奪われたら奪い返すと言っています」
ふと頭に『何でアントレアはそんなに詳しいんだろうか?』そんなことが、浮かんだ。
ウトウトと眠たくなり、目を擦る。うさ晴らしにガブ飲みしたせいだろうか?
いつものことだがアンナは先に寝ている。
なんだか毛布が恋しい。
「すみません、長話してしまって。 明日は神殿にたどり着くはずです。いざ戦いになったときに寝不足で力がでないと困りますから、今日はもう寝ましょうか」




