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上級

 汗水あせみずらして、瓦礫がれき撤去てっきょする冒険者たち。

 重い防具を脱ぎ、剣を置き土木作業にはげむ。


 突然、家の壁がくずれた。五軒、六軒と次々と家の壁がくずれ、中からオークが。

「オークが出たぞ」


 ぞろぞろと出てきた十匹のオークが、逃げ場を失った冒険者を取り囲む。

 冒険者は応戦できる身なりではない。


 近くの冒険者たちが仲間を助けようと駆け寄ってくる。

 駈けつけた魔導士達が魔法の詠唱えいしょうを始める。

 《火の魔法》の詠唱

 《稲妻魔法》の詠唱

 《突風魔法》の詠唱

 近くに置いていた剣、槍、鉄球チェーンをそれぞれ手に取り、駆けつけた剣士達がオークに立ち向かう。


 続々と冒険者が集まる。すると、オークはそれ以上何もせずに逃げて神殿の方へと走りった。

 何もせず逃げ去るオークに物足りなさを感じながらも、蛮勇ばんゆうかたまりとまで言われるオークが一戦もまじえず逃げる姿に不信感をいだく。


 崩れた壁の下敷きになった冒険者が居た。

「おい、けが人がいるぞ」

 その知らせを聞き軍隊所属の魔導士が駆けつける。


 路肩ろかたの家の中から突然壁を壊し襲いかかってきたオークに受身うけみをとる間もなく押しつぶされたのだろう。その冒険者は瀕死ひんしの重傷だ。

 軍隊所属の魔導士が三人がかりで《治癒魔法ちゆまほう》をほどこしてはいるが、状態は良くない。

「だれか、上級の治癒魔法が使えるものはいないか?」

 兵が、群がる冒険者達に呼びかける。

「私、治療できるわよ」

 そう言って給水係きゅうすいがかりをしていたラナが群がる冒険者達の隙間すきまの中に消えていった。


「おい、子供にまかせていいのか?」

そんな冒険者達のざわめきとは裏腹に、軍隊所属の魔導士はすすべがないという面持ちで、ラナに場所をゆずっている。


「おおー、すばらしい」

 魔導士は驚きの声をあげ、見守る冒険者からは歓声が湧く。冒険者達はラナを囲み、賞賛しょうさんの声をかける。

 人の多さでラナに近づけず、俺はセシルとアントレアと一緒に成り行きを見守ることしかできない。

「ラナってすごかったんだな」

 今まで、比べる相手がいなかったが、今日、身なりの整った軍隊所属の魔導士より、ラナの方が実力がうえだと知り、おどろいた。

「そうですね。あれほどの傷が治せるのは、私の知る限りですがそう多くは居ません」


 ラナを取り囲む冒険者。兵は、

「けが人が通れない、道を開けろ。持ち場に戻れ、作業を再開しろ」

 と命令する。


 その命令に従い俺も、自分の作業場へと足を向ける。


「あ、ラナさん、治療班ちりょうはんのテントで休んでいて下さい」

 そんな兵の声が俺の耳に入った。軍隊所属の魔導士よりも上級の治癒魔法が使えることを知った兵は、急にラナへの態度を変えていた。

 ラナとアンナは隊長から給水係のにんが割り当てられ、土木作業をする冒険者の間を行ったり来たりしていた。そんなラナに、兵は軍隊所属の魔導士と一緒に休んでいて下さいという。


 ラナはアンナの手をとりテントに向かう。

「お姉ちゃん。セシルお姉ちゃん」

 アンナのそんな大声で、再びラナの方を振り向くと、

 アンナに呼ばれたセシルが駆け寄り、何か兵とめだす。しかし、何事も無かったかのようにテントの方に三人で歩いて行く。

 まあ、トラブルがあってもセシルがいれば安心だと考え、作業に戻る。


 瓦礫がれきを運ぶ俺のかたわらで隊長と数人の冒険者がめている。

「こんな場所で土方なんかできねぇだろ」

「そうだな。時間と手間はかかるが、安全を確保しながら進むしかあるまい」

 何かにつけて冒険者は文句もんくをいうなぁ。いつも凄い剣幕けんまくだ。


 そのは順調に土木作業が進むのだが、ラナ達三人はひまなのか、散歩している姿をちょくちょく目にする。

 こっちは汗水たらして瓦礫をけているのに。



 その夜。

 五人で食事を取るなか、俺はしゅわしゅわ酒をゴクゴクと飲み。

「なんで、俺には声かけなかったんだよ」

 うらめしそうにラナに問いかけた。

「バカね。アンナちゃんとセシルだけでも図々ずうずうしいと思われていたのよ、その上、コウヘイとアントレアも一緒に魔道士のテントで待機たいきしたいって言えば、ダメって言われるに決まってるでしょ」

「軍隊はパーティー全員で行動するんじゃぁ無かったのかよ」

 のんびりくつろいでいるようにしか見えなかったラナ達三人を思い出し、一日中瓦礫を運ぶ自分の境遇きょうぐう愚痴ぐちる。

 ふくれっつらになる俺を見て、アントレアは、

「土木作業は、従属業務じゅうぞくぎょうむで戦闘が目的ではないですし、それにラナさんやアンナさんに瓦礫を運ばせるのはしのびないという配慮なのでしょう」

 ラナ達への待遇たいぐうは、隊長からのさり気ない気遣きづかいだと、苦笑いを浮かべて俺をなだめる。


 汗をきながら一日中瓦礫を運んでいる。愚痴の一つや二つくらいこぼしたくなる。

「以外だよな。初め見た時、もっとお高いヤツかと思ってたんだけど」

 正直、アントレアに感心した。俺と同じように土木作業をしていて愚痴一つこぼさない、嫌な顔一つせずにアントレアは黙々と瓦礫を運んでいた。

「そうですか?一生続くことではないのですから、四、五日の辛抱しんぼうだと割り切ってしまえばそうではありませんよ」

「それにその服勿体無もったいないよな。せっかく綺麗だったのに」

 ドロが付き、布がれてホツレが見えるようになったアントレアの服。

「まあ、そうですが。……大したことではありません。おそらく今回の作戦ではそれ以上の収穫しゅうかくがあるはずですからね」



 次の日。

 いつものように冒険者は、兵が吹き鳴らすラッパの合図で朝食を取り。隊長の前に集まり、今日の方針を話し合う。

 隊長も、昨日オークに襲われあやうく命を落としかけた冒険者の一件を重く受け止めていた。


 神殿に近づくにつれ、オークの出没しゅつぼつ回数は増え、一度に現れるオークの数も多くなった。

 今までも、潜伏せんぷくしていたオークが突如とつじょ冒険者を襲うことが幾度いくどもあったが、たいしたケガにならず、軍隊所属の魔導士が治療してきた。危険を感じながらも対応がなおざりになっていた。


 オーク討伐ということで、冒険者の多くが物理攻撃に強い重装備で今回の遠征に望んでいる。

 しかし、瓦礫の撤去となると重い装備は邪魔にしかならない、冒険者は装備を外し軽装で作業する、そこをオークに襲われてしまうと、防御の取りようがない。


 今まで危険をかえりみず、神殿に向かっての近道を選んで瓦礫を退かしてきたのは、土木作業をいやがる冒険者達の意向いこうを組み入れたからである。

 しかし、こうオークに待ち伏せされては、いつ死人がでてもおかしくない。話し合いの結果、土木作業をする冒険者と警護けいごをする冒険者とに分かれ、担当を交互にわりながら、安全な道を選び、不審な物は取り除き、オークが隠れていそうな場所は迂回うかいする方針で土木作業を進めることに決定した。

 そう決まったものの、冒険者の中にはまだ不平を漏れす者もいる。

「そんなチンタラやってられるかよ」 

「同じ冒険者といっても実力差があるんだ。弱い冒険者に守られながら土方なんができないだろ」

「交互にわるのじゃなく、実力のある者が警護けいごすりゃいいだろ」

「いや、やっはり先に偵察して近道探すのが一番効率的じゃないか?」

 隊長は、憂鬱ゆううつそうな顔で黙って、それら冒険者の放言ほうげんを聞いている。冒険者は好き勝手言うが、他の冒険者を説得せっとくできるだけの根拠こんきょがない。結局、最初に隊長が決めた方針に落ち着いた。


 土木作業の日数が増えることに不平を言いながら、冒険者達はぞろぞろと解散していく、アントレアの顔色も隊長と同じくらい憂鬱ゆううつそうで重たい顔色が表れていた。


「意見と愚痴の違いが分かってないやつ多いよな」

 アントレアは隊長と同じことを考えているのだろうと思い、思ったことを口にしてみた。

「そうなんですね。冒険者は、勝手な意見ばかり言ってなかなかまとまりませんね。しかし、まとめる力もないですから、こういう時は黙って聞いているふりをするのが一番です」

「じゃ、隊長の憂鬱ゆううつそうな顔は演技えんぎなのか?」

「恐らく次の事を考えて、憂鬱な気持ちになっていたのでしょう」

「次の事?」

「蛮勇なオークが一丸となって神殿を守っているように見えます。よほど実力のある指導者が神殿内に居るのでしょう。そして、今まで一匹のオークも倒していませんから、神殿では総力をあげた決戦が準備されているはずです」

 しばらく考えたあと、アントレアが、

「我々冒険者よりオークの方が団結力だんけつりょくがあるように見て取れます。 今回の遠征は徒労とろうに終わるかもしれません」

 憶測おくそくを口にした。


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