出立(しゅったつ)
周りの冒険者の多くが、俺達をジロジロと見てくる。
あまりにも場違いに映るのだろう。
豪華な装備をまとう冒険者達のなかで、俺が身に着けているのは布の服だ。ラナとアンナが着ている《微風のローブ》は底辺の防具。魔導士が見ればそれが分かるに違いない。
早朝、開門と同時に城門前広場に来た俺は、ここでも会堂で感じた他の冒険者の冷ややかな感情を感じた。
「あなた方は、もうパーティーはお決まりですか?」
不意に声をかけてきた見知らぬ男性に目線が向く。
細長の体型で、長い髪、衣装は華やか。剣は携えているが冒険者というより貴族のような装いだった。
セシルの知り合いなのかもしれない。そんな雰囲気がする。
「知り合い?」
俺の問いかけにセシルは知らないと首を横に振った。
俺達がキョトンとした顔で、その男性を凝視していると、
「これは、唐突な振る舞いで失礼しました。私は冒険者のアントレアと申します」
軽く会釈をしてくる。アントレアはさらに言葉を重ねる。
「お見受けしたところ、四名しかおられないようですが、パーティーはまだでしょうか?」
「パーティー? メンバーはこの四人だけで他はいないけど?」
アントレアはしばらく黙った後、おだやかな口調で話しだす。
「通常、オーク一匹に、冒険者は最低でも三人で戦いを挑みます。しかし、今回の遠征ではオークの群と戦うわけですから、オークと戦った経験のある冒険者は、オークに囲まれないようにパーティの人数を増やそうと、同じレベルの冒険者を探して共闘を申し込んでいるのです。もし、よかったら私を貴方方のパーティに加えてはもらえませんか?」
「アントレアさん一人?」
「仲間がいたのですが、今は、訳あって別行動を取っています」
俺は、ラナをみた。
「いいんじゃない」
セシルをみた。
「かまいません」
アンナは、
「いいよ」と明るく応えた。
アントレアが差し出す右手に気づき、俺はアントレアと握手を交わした。
「それにしても立派な服だな」
「これですか、ただ装飾が派手なだけです」
「精霊の力とかは?」
「いいえまったく」
アントレアは笑う。
俺には《精霊の力》がさっぱり分からない。ラナなら分かる。
「そうなのか?」
「んーー、そうね。精霊の力を感じないわね」
アントレアの服をマジマジと見ながら、ラナは答えた。
「でも、なんで俺達に声を掛けだんだ。強そうな冒険者なら他にいくらでもいるだろ?」
「募集のとき、私の横であなた達が申し込みをしてたのですが、その時の実績の欄にゴブリン討伐数、月間五百匹以上と書いていたのが印象深く記憶に残っていました。ゴブリンは、けして強くはない魔物ですが、月間五百匹というのは尋常ではありません、おそらく前代未聞の数でしょう」
想像を膨らませてアントレアは聞いてくる。
「
弱い冒険者はゴブリンの餌食になり、強い冒険者なら、ゴブリンは近づきません。
ゴブリンを探すのも一苦労しますし、先にゴブリンに見つからないように気配を消すのも一苦労します。
索敵能力に長けているのですか?
それとも広範囲に有効な魔法をお持ちとか、
飛ぶように素早い動きができるとか?
どのような能力をお持ちでしょうか?
」
興味津々に身を乗り出す。
アントレアの気の入れように俺は苦笑いを浮かべながらも、素直に、
「んーー、貴婦人の散歩にみせかけたらゴブリンを騙せた」と答え、
高価そうなトランクを持って森の近くを歩いていたら、ゴブリンの方から寄ってきたことを話した。
キョトンとした顔で聞いていたアントレアは、
「なるほど、確かにゴブリンは倒すより、戦いに持ち込むまでの方が難しいですから」
爽快に笑う。
城門前広場に、ラッパの音が響き、遠征隊の兵は規律正しく整列する。
町人の声援のなか、遠征隊は城外へと進行し始めた。
間隔を広く開けた兵の縦列と平行して荷馬車が進み、冒険者は、思い思いにその列に付いて歩き出す。
行進は徒歩である。一部の兵は馬に乗っているが、兵も冒険者も徒歩で出陣を始めた。
「城としては守りも必要ですから、あまり兵を出したくないとみえます。遠征隊に加わった城兵は、五十というところでしょう。あと、荷馬車は七十。御者を兼ねた土工と飯炊き(おばさん)などが合わせて百、そして冒険者四百ですね」
辺りを見渡したアントレアは目測で遠征隊全体の規模を、口にした。
ラナが興味を示す。
「アントレアって、軍のこと詳しそうね」
「詳しいとまでは言えませんが」
「いろいろと教えてもらえる?」
「ええ、私が教えられることでしたら」
アントレアは憶測だと断って俺達に状況を説明する。
「遠征隊に加わっている五十人の城兵は、警護と監視が任務のはずです。戦いには加わりません。オークと戦うのは、あくまで冒険者四百人です。 オークが城を攻めてきた時、千人の城兵が、城壁を守っても城壁が壊されたのですから、軍としては城兵は使わず冒険者四百人のお手並み拝見といったところでしょう」
「今回の戦い、勝てそう?」
「どうでしょうか。 百二十匹のオークが無秩序に居るだけなら勝算は十分ありますが、攻城の時のように我が身を犠牲にしてまで命令に忠実なら厄介ですね」
ラナは思いつくままに、アントレアに質問する。
アントレアは憶測を交えながら、答える。
俺は、そんな二人の会話に耳を傾けていた。
勇ましく城門を出たものの、昼過ぎともなると、兵は、携えていた剣を荷馬車に置き、防具を外して楽な恰好になり仲間と無駄話をしながら歩く、
冒険者は元から自由気ままに歩いている。
厳格な姿勢で進行を続けているのは、隊長と騎乗の兵だけになっていた。
「お嬢ちゃん達」
荷馬車に乗っている飯炊きのおばさんが手招きする。
それに気づいたアンナは、セシルの顔色を見る。
「うん。行っておいで」
アンナは喜んで荷馬車に走り寄る。ラナも。
「ありがとう、おば様」
ラナは、いつもとは違う可愛らしい声を出して、飯炊きのおばさんにお礼をいって荷馬車に乗せてもらった。
『ラナお前は歩けるだろ』心の中でそう叫ぶ。
「えらいね。お兄ちゃん、お姉ちゃんのお手伝いかい?」
「そうなの。私達が魔法で守ってあげないと、お兄ちゃんダメダメなの」
馬車に乗ったラナは、でたらめな身の上話で、おばさんとの会話を弾ませていた。
「なんで、冒険者は馬車に乗せないんだ。帰りケガしていても歩いて帰らないといけないのか?」
俺が率直な気持ちを口にすると、アントレアは笑みを浮かべながら、
「冒険者は暇ができると酒を飲むのですよ。それに、狭い馬車に大勢の冒険者が乗っていると間違いなくケンカを始めます」
他の冒険者の事は町で見かけるくらいで実際に戦っているとこや素行については知らない。
「そういうものなのか?」
他の冒険者を知り、自分の実力を知るためには今回はいい機会になるだろう。そんなことを考えている俺にアントレアは、
「帰りは、食材や材木が減りますし、必要とあらば、備品なども捨てて帰りますから全員乗せて帰れるだけの荷馬車はありますよ」
軍はそのあたりを弁えていて、帰りの心配はないと、付け加える。




