旅支度
【= 武器の店 =】
店にある剣はどれもセシルが今使っている剣よりランクが落ちる。しかし、使い心地を考えて、ラナは剣を探す。
「今までセシルが使ってた剣は、一撃で魔物を倒すタイプだったけど、この剣は魔物の急所を狙って少しづつダメージを与えるタイプよ。セシルにピッタリだわ」
カミソリのように細くしなやかな《ステンレスの撓る剣》。軽く乗馬ムチのようにしなり、堅い皮膚でもカミソリを滑られるように切れる。力の弱いセシルには最適と思われる。
セシルは《ステンレスの撓る剣》を振り、感覚を確かめる。剣は、不規則な軌道を描き縦横無尽に太刀筋を変える。
「少々慣れるのに苦労しそうですが、慣れれば今使っている剣より扱いやすそうです」
三百G。
武器を物色していた俺にラナが聞いてくる。
「コウヘイは、武器どうする?」
オークと戦うのだ。もう少し刀身の長い剣が欲しいところだが、
「いや、特に欲しい剣がないや。ラナは?」
「そうね。私、《微増の杖》が欲しいかしら。 《治癒魔法》って結構魔力使うのよね。少しでも魔力増やしたいから」
《微増の杖》
百二十G。
次の店に向かう。
【= 服の店 =】
今まで散々揉めたラナとアンナの防具だが、オークが振り下ろす棍棒を喰らえば《微風のローブ》も《突風のロープ》も薄い布と変わりがない。
他にも買わないといけない物がある、防具だけに大金を掛けられない。
「矢が防げたらいいのよ。矢が」
ラナの一言で、あっさり《微風のローブ》に決まった。
《微風のローブ》
二着で二百八十G。
「本当にこんな生地で飛んでくる矢が防げるのか?」
少し厚手の生地ではあるが、とても鋭い矢先が防げるようには見えない。
「生地は関係ないわよ。あくまで精霊の力が矢を防ぐんだから」
値段的に高い防御力は期待できないが、精霊の力が見えない俺には安全の目安がつかない。
「どれくらい離れてたら大丈夫なんだ?」
「んー、矢の威力にもよるけど、三十米も離れれば、矢がローブを貫通することは無いわね。でも、当たれば痛いし、アザにもなるわよ」
ラナは自分に矢が当たった時のことを想像したのか、痛そうに顔をしかめて身震いする。
「コウヘイも何か矢を防ぐものが必要ね。《微風のローブ》買う?」
「いや、裾がまとわりついて動きにくそうだから今のままでいい」
「なら、防具屋で盾買いましょ。きっと矢が雨のように飛んでくるから矢を防ぐものがないと困るわよ」
【= 防具の店 =】
《鋼の盾》
三百G。
「これにする?」
「それゴブリン狩りじゃ使わないだろ」
「そうね。ゴブリン相手にこんな大げさな盾持っていると、笑われちゃうわね」
「今回はオークの矢が防げたらいいから、安いのでいいよ。その分、他の装備にお金使えばいいよ」
「ならこれで十分だわ」
《木製の大盾》
二十G。
盾の使い心地を確かめてみる。装飾は施されているが、風呂場を作った時の木の板でも同じものが作れそうだ。
「コウヘイ、他に必要なもの無い?」
「そうだな……、いや、これだけでいいよ。それより、ラナは大丈夫なのか?」
「そうね。私とアンナちゃんはもう防具は必要ないし、セシルも今の鎧が一番だから。なら、これで必要な物は一通り買ったわね」
防具の店を出た。
買った装備品を確認する。
《ステンレスの撓る剣》
三百G。
《微増の杖》
百二十G。
《微風のローブ》
二着で二百八十G。
《木製の大盾》
二十G。
合計七百二十G。
金貨の入っている麻袋が七つ(四百二十G)残った。
「結構余ったな」
「コウヘイが何も買わないからよ。コウヘイ、剣でも買いなさい」
『たしかに、《武器の店》で気に入った長剣があった。《騎士の剣》。値段は三百Gだったから買えるのだが、それを買ってしまうと鎧も欲しくなる。なにより片手で持てる短剣と比べて《騎士の剣》は長くて重い、今とは戦闘スタイルも変えないといけなくなるだろう』
俺が考えているとラナが言葉を付け足す、
「もしくは盾ね。《鋼の盾》に変えるってのもありだと思うわ」
盾も欲しい。考えれば欲しい物だらけになる、四百二十Gでは全然足りない。
「いや、それより、《微風のローブ》を《突風のローブ》に交換してもらうべきだよ」
「コウヘイ、《突風のローブ》にこだわるわね」
「《突風のローブ》がいいという訳じゃなく、《微風のローブ》より安全だろ」
「だから、オーク相手なら、両方大して違わないわよ」
「またゴブリン狩りに戻るかもしれないだろ。報酬が必ず貰えるという訳じゃないんだから」
ラナは呆れて、計算をしだす。
「《突風のローブ》に交換してもらうには二十G足りないわよ」
「なら、《木製の大盾》返品すればいい」
「盾が無いとコウヘイ、矢が防げないでしょ。ケガしたら誰が治療すると思ってるの?《治癒魔法》って結構疲れるし、魔力もかなり消費するのよ」
「木で作った盾なんて自分で作ればいいじゃないか、なんでこんなのに二十Gも掛かるんだよ」
また、俺とラナがケンカになりだした。
「そうだ、いいものがあったわ。ついてきて」
思い出したようにラナが話題を変え、別の店に入った。
【= 護符の店 =】
「ねえ、《身代わりのブローチ》っておいてある?」
「はい、ございます。四百二十Gになります」
店員がブローチを取り出す。青く神秘的に輝く宝石。ラナは店員から受け取ると、持っていた麻袋を全て、店のショウケースの上に置いた。
「これならオークの渾身の一撃だって防げるわ。これアンナちゃんに」
手に取った《身代わりのブローチ》をアンナの首にかける。
「それでは、私とアンナで、ほとんどのお金を使うことになってしまいます。そのプローチはアンナではなく、ラナさんが身につけて下さい」
戦地に赴くのだ、最善の装備で望みたいのは皆一緒だろう。
お互いに気を使いながら少ない予算で最小限の装備を揃えているなか、身内だけ贔屓されるのは気が引ける気持ちは分かる。
戸惑うセシルをしばらく見詰めていたラナは目線を戻す。
「じゃぁ、アンナちゃん遠征が終わるまで預かってて、遠征が終わったら返してね」
アンナはうれしそうな表情で、《身代わりのブローチ》を興味深く見入る。プローチは自ら淡い光を放ち、繊細な色彩でアンナに話しかけてるような協調の取れた輝きをする。
「効果があるのは一回限りだからね。《身代わりのブローチ》があるからって無茶したらダメよ。必ず、私かセシルの後ろにいるのよ」
宝物を手渡されたかのようにアンナは目を輝かせ《身代わりのブローチ》を眺めている。そんなアンナを見るセシルは母性愛に満ちた柔らかい表情をみせる。俺は何も言えなかった。




