表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
グリフ王国
12/68

引越し

 新しい家が決まった。

 木こり小屋。

 城からそう遠くない森の近くに位置いちする。


「本当にここでいいんですか?」

 家主が、同じ質問を繰り返す。

「ええいいわ。ゴブリンが襲ってきても、大丈夫だいじょうぶそうだし」

 ラナは、小屋の外壁がいへきを叩きながら、同じ答えを返した。

 土の上に丸太を組み合わせただけの簡単な小屋だが、丸太で出来た外壁は、ゴブリンがおので叩いてもビクともしない頑丈がんじょうさがある。


『ほんとうにここにするのか?』

 俺は内心、ためらった。

 三人がいいって言うんだから、俺一人反対するわけにはいかない。

 が、窓は小さく、昼でも室内は薄暗い。

 台所に、大きな切り株で作られたテーブルがあるだけで、他に家具はなにもない。

 床板もっていない、つちむき出しの小屋でしかない。


 俺は台所を見渡し、かまどの上の細い煙突の中を見上げた。

 台所はあるといっても、こんなところで肉を焼いたら部屋中けむりだらけだ。


 風呂が無い。毎日、城まで大衆浴場に通うのか?そう遠くはないといっても、宿の風呂場のように部屋着姿でぶらり、とはいかない。


 城内の宿に連泊しながら外食していた今までの快適な生活がみ付いてしまったのか、なんとも、いやな箇所かしょしか、目に入らない。


 台所には外への出入口がある。

 ドアは、丈夫じょうぶな木で出来できていて、かんぬきを掛ければ、簡単にはやぶれない。


 ラナとアンナが部屋に入り、セシルがついていく、俺もついて部屋に入ってみた。

 「ここが一番広い部屋ね」

 中は、六じょうほどの広さ、室内には何も置いていない、

 台所同様、窓は小さく、薄暗い。

「窓にも、ちゃんとかぎが掛けられるのね」

 窓もしっかり戸締まりできる。ゴブリン対策は万全のようだ。

「私とアンナはこの部屋にしようと思うのですが」

「そうね。その方が私達も助かるわ」

 床板もなく、土がむき出しの部屋。俺は土を触ってみた。粘土のような粘り気があり、つまむと砂のようにさらさらと細かいつぶになる。ほこりっぽくもない。

『不思議な土だな』

 どう不思議なのかはわからないが、なんとなく違和感がある。


 俺のはたを通りぬけ、三人が、次の部屋に向かった。俺もついていく。

 三じょうほどの部屋。

 小さな窓が一つあるだけの何も置いていない部屋。

「私、この部屋にする」

 中に入ってはみたが、特に見るものもない。

 最後の部屋。

「さっきの部屋と同じね」

 そういって、ドアを開けて中を見ただけで、中には入らなかった。

 必然的に俺の部屋と決まった。


「台所もあるし、私たちで食事つくれば、その分お金使わないから、いいわね」

 ラナが台所のかまどの中を覗き込む。


「本当にここでいんですか? いえ、私は家賃が入ればいいんですけど」

 困惑こんわくする家主とは正反対に、

「もちろんよ」

 といって、ラナは前払いの家賃三十Gを手渡す。


 なんともになれない俺は、

「そうだ、水はどうするんだよ?」

 素っ頓狂すっとんきょうな声を出してしまった。

「ああ、水でしたら、すぐそこに小さな川がありますから。飲料水にも使えるはずです」

 家主は、川の方向を指差し、「くれぐれも戸締まりには気をつけてくださいね」と言い残し、一人で城の方へと帰っていく。



「まずは、ベットが必要ね。今から町に行きましょ」

「そうですね。このさい、日用品も買ってきませんか?荷馬車を借りて、一緒に運んでもらえば楽ですし」

 ラナとセシルが段取りを決め、アンナはいつもラナのそばにいる。


 俺達は、城内の町に買い物に出かける。

 小屋の近くの道は、丸太まるたを運ぶ荷馬車が通るだけあって道幅は広い。森に近いといっても木が邪魔をしなければ、城から小屋が見える距離である。


 アンナと手を繋いでいるラナか心配そうに言う。

「しかし、お風呂がないのは困るわね」

「そうですね。今までよりも早く狩りを切り上げなくてはいけなくなりましたね。大衆浴場に入って、閉門前に門の外にでないといけないのですから」

「最終手段は、近くの川で水浴びよ」

「川で水浴びですか!?」

 セシルは少し困った顔を見せる。

「今日の帰り、食材買って帰りましょ。今日から自炊じすいにしましょ」


 三人のたわいない会話を聞きながら、俺は三人の後ろを歩いて行った。


 町で、日用雑貨を見て回る。

 お金がないから、必要最小限と決めていたが、ラナ達は次々と必需品を口にする。

煮炊にたきするナベや食器類が必要でしょ。それに、川で水くみするバケツも必要だし」

「部屋着も必要ですよね。洗濯せんたくようのタライも、このさい買っておきましょう」

「部屋のランプも」

 げだすと切りがない、一度、店で買い、あとで荷馬車で取りに来ることにした。


 その日の内にベットを購入し荷馬車で運んでもらった。

 今日の出費は、前払いの家賃を含めて合計九十五G。後々(あとあと)のことを考えれば安い出費だろうが、狩りが不調の今としては、痛い出費になった。


 先のことを考えていても仕方がない。

 ベットを部屋に入れ、夕食の準備に取り掛かる。

「コウヘイ、川から水をんできて」

 渋々、ラナの言うことを聞く。

「わたしも行きます」

「セシル、料理できるの?」

「いいえ」

「じゃぁ、私の見てなさい。料理当番は交代だから」

「じゃ、私が水くみにいく」

「だめよ。アンナちゃんは。かわいい手に豆ができちゃうじゃない」

 なんとも俺の扱いがひどい。しかし、力仕事は男の仕事と割りきって水をみに行く。


 幅三メートルほどの小さな川。

『水ってこんなに軽かったけ?』

 バケツ一杯にんだ水を片手で持ち、小屋に戻る。

『バケツもう一個買ってくればよかった』


 水を汲んだバケツをラナの横に置く。

「あと、三往復おうふくお願いね」

「水どうするんだよ」

「そうね。水瓶みずがめ買うの忘れたわね。とりあえず洗濯タライにでもうつしておいて」

 呆れる俺をよそに、かまどのれ枝に、指を近づけ《炎の魔法》をとなえる。

 ラナの指先の小さな炎が、すぐに枯れ枝に移り、またたく間にまきを燃やす。

「炎の魔法便利ですね」

 そう、驚くセシルに、

「そうでしょう。威力は弱いし、ほとんど飛ばないから攻撃には使えないんだけど、火をつけたり、少しの間なら照明にだって使えるから、まあまあ便利なんだよね」


 俺は、言われたとおり残りバケツ三杯の水を洗濯タライに移しえ、台所のテーブルに着いて、料理が出来るのを待つ。アンナが俺のそばに来るのだが、何を話していいか分からない。アンナも特に何をするわけでもなく、椅子に座って、しばらくして、また、料理するアンナのそばに寄っていった。

 三人の姿は、ほのぼのとした風景だが、俺一人が浮いている。


「さあ、夕食の準備もできたし、みんなでお風呂いくわよ」

「えーー、俺、今日汗かいてないからいいよ」

「なにいってんのよ。汚いでしょ」

「ゆっくり入って来ても一時間も掛からないでしょ」

「じゃ食べてから」

「それだと、城門閉まっちゃうじゃない」


 風呂あがりのさっぱりした体に気持ちい風を感じながら、大衆浴場から小屋に帰ると、空はだいぶ暗くなった。

 小屋の出入口を開けると、中は真っ暗でほとんど見えない。

 ランプをつけた。

 町では街灯がいとうあかるさに当たりまえのようにれていたせいか、小さなランプのきらめきは、なんだかはかなさみしく感じる。

 ふくろうの鳴き声、おおかみの遠吠えが、時折ときおり聞こえる。


 町の中だと、人のにぎわいで気づかなかった。


 その日、ほのかに光るランプの中、俺達は食事をする。

 今日もパンとジャガイモのスープで夕食を済ませた。


 食器を洗いえたラナが、

「まだ、早いけど今日は、もう寝ましょ」

 明日は、早起きして、一匹でも多くのゴブリンを見つけましょう。という。

 いつもなら、町の食堂で、まだ飲み食いしている時間帯だろうが、ここでは、芸人の余興よきょうもなければ、目を引く出来事もない。することもないから、ベットに向かうことにした。


 台所の出入口のドアをしっかり閉める。

「おやすみなさい」

「おやすみぃ」

「はい、おやすみ」

「……おやすみ」

 各自ランプを手に持ち、自分の部屋に入ろうとする。

「ちゃんと、窓の戸締まりするのよ」

 部屋に入ろうとした俺にラナが言う。立ち止まってラナを見る俺に、

「あと、火事になっちゃうから、ちゃんとランプの火を消すのよ」

 と付け加える。

「あ、あとそれと」

「なんだよ」

 口やかましくいうラナに思わず苛立いらだたしさが口から出た。

 そんな俺を見ているラナは、

「今日はありがとう、いつも一緒だから」と、やさしい笑顔で「おやすみ」と一言ひとこと付け加えて部屋に入る。

「お、おやすみ」

 微笑むラナを見て、今までのモヤモヤした気持ちが晴れた。


 部屋に入り、窓の戸締まりだけはしっかりして、寝床につく。

 ラナの気配けはいを感じない部屋。

 そういえば、ずっと同じ部屋だったから、一人で寝るのは久しぶりだなぁ。


 今日一日のことを考えてみると、

 俺が、ラナを避けていたのかもしれない。


 俺が、ラナと話そうとしなかったのかもしれない。

 ラナに雑に扱われていることがいやだったのではなく、俺は、アンナやセシルと楽しく話すラナをきらっていたのかもしれない。

 俺は、この小屋がいやではない。この小屋で四人で生活するのがいやだったのだろう。けしてセシルやアンナがきらというわけではなく、心の奥で、ラナが俺のことをないがしろにすることを恐れていた。でも、ラナは俺のことを見ていた。


 明日は、もっとラナと話してみよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ