住まい
一日かけて、二匹のゴブリンしか狩れなかった。
今日は仕方がないとあきらめ、四人は閉門までに城に戻ろうと、うかない顔で帰路につく。
昨日は三匹、今日は二匹、ノルマの一日六匹には程遠い。
二人でパーティーを組んでいた時は、一日の生活に必要な数、三匹のゴブリンを倒せていた。
しかし、四人のパーティーになったことで、六匹のゴブリンを倒さないといけないのだが、昨日も今日もその数の半分以下しか倒せていない。
四人になったことで、より安全にはなったのだが、その分ゴブリンが近づいてこなくなった。ゴブリンも我が身の危険を感じてまで襲って来たりはしない。二人より、四人の方がゴブリン狩りが難しいと、今日確信した。
宿に戻り、
風呂に入り、
四人で食事に出かける。
肉としゅわしゅわ酒が恋しいが、今日の夕食はパンとジャガイモのスープで済ませることにした。
食堂のテーブル。
四人は暗い顔で、明日のゴブリン狩りについて考えながら、ひっそりと食事を進めている。
「明日は、もっと森の奥に行ってみないか?」
コウヘイが口を開く。
森の奥に行けば、行くほどゴブリンの数が多くなる。この町の人なら誰でも知っていることである。
ラナとセシルは返事に困っている様子だったが、ラナがしゃべりだす。
「今、狩ってるゴブリンって、はぐれ者なの。集団生活に馴染めなくて人里近い森で暮らして、人間に悪さしてるのよ。あれ以上森の奥に入ると、指揮系統がとれたゴブリンが居たりするから、今の装備ではちょっと無理ね」
そう言いながらラナはうつ向いたまま、スプーンでスープをかき混ぜている。
「もし、アンナが邪魔なようでしたら、留守番させます」
「いえ、違うのよ。アンナちゃんのことだけじゃなく。私もこんな服だから」
「「……」」
不満そうな顔をするコウヘイ。
コウヘイは、ゴブリン十匹でも大丈夫というだろう。セシルも、もう少しならゴブリンが増えても大丈夫だろう。しかし、ラナは、一匹のゴブリンとなら魔法で戦えるが、それ以上になるとまず勝てない。アンナは誰かに守ってもらわないとどうすることもできない。
これが、ここにいる四人の共通の認識かもしれない。
『じゃぁ、俺一人でいく』と考えて、身を乗り出しかけたが、『やはり、治癒魔法がないと怖い』と心の中で感じ、言うのをやめるコウヘイ。
『アンナが邪魔なのはわかっている。私は邪魔にはならないかもしれないけど、居なくても、コウヘイさんとラナさんだけでやっていける。そもそも四人のパーティにしたことに無理があったのでは?』と疑問を抱きながらも口には出せないセシル。
『アンナちゃんと遊びたい』と考えているラナ。
『ラナお姉ちゃんと遊びたいけど、今、難しい話してるから大人しくしないと』と考えているアンナ。
こんな思惑のなかで、この四人は深々(しんしん)と食事を取っていた。
そんな沈黙をコウヘイが破った。
「やはり、森の奥に行くしかないって」
「あぶないでしょ」
「このままじゃ、ジリ貧じゃない」
コウヘイが断言し、ラナが怒ったように反論する。
いつしか、コウヘイとラナは激しい議論になり、怒鳴り合う。
そんな二人を、アンナは目を丸くして見つめる。
「それより、住まいをなんとかしませんか?」
冷静にセシルは別の緒を口にし、話す。
「今、宿代に一日四G使ってます。多分、コウヘイさんたちも四Gだと思うのですが。 私達は一日八G、三十日で二百四十Gもの大金を使ってます」
「それもそうね。セシル頭いい」
ラナは一人合点し、
「じゃぁ明日は、家探ししましょ」
と一人で結論を出し、
アンナに話しかける。
「アンナちゃん、どんな家がいい」
「庭のある大きな家。それとメイドが居るのがいい」
「そうよね。メイドが居る家がいいよね。でも、ちょっと無理かな」
「うん。知ってる」
些細なことをしゃべって、笑っていた。
翌朝。
いつものように、宿の玄関前に集まったが、今日はゴブリン狩りを一休みする。
仕事の紹介所なら、空き家の情報もあるのではないかと考え、紹介所に向かう。
何件かの情報を教えてもらい、家主に会いに行く。
「最近は冒険者が多くて、どこも空いてないんですよ。ここは、昨日まで他の冒険者が使ってた家ですが、……」
丁度、四室ある空き家があるということで、中を見せてもらったが、
酒瓶が転がり、壁にはタバコのヤニがぎっしり付いている。
「くさいね」
「うん、くさい」
ラナが部屋の臭いに顔を曲げ、アンナは鼻をつまむ。
まだ室内には、アルコールとヤニの臭いと、生活臭が漂う。
「もし、引っ越されるのなら急いで、掃除しますが、壁のヤニは取れませんよ」
宿の部屋と比べるとはるかに汚い。そのうえ家賃も三十日で百二十Gと、思ったより安くはない。
このあと、何件か回ってはみたけど、どこも大して変わらない。
昼食を取りながら相談する。
四人でオープンカフェに入り、肉やら野菜やら詰めたパンを頬張る。
「どうしてあんなに汚いのかしら?」
今日見た貸家の感想をラナが口にする。
「宿暮らしに慣れて、自分で洗濯や掃除をしないからではないですか?」
「言われてみればそうよね」
この町に来て、食事は外食、冒険着はクリーニング。自分で家事をしたことがない。
「アンナちゃんの宿の部屋、タバコくさい?」
「ううん」
「そうよね。私達の部屋もタバコくさくないわよ」
「多分、宿が喫煙者とそうでない冒険者の部屋を分けているのだと思います」
「貸家も喫煙者と分けてくれたらいいのにね」
「ねー」
アンナもラナの意見に賛成する。
「しかたがないから、最初の家にする?」
ラナが渋々、みんなの意見を取りまとめるが、
セシルもアンナも、あまりノリ気にはなれない様子でいる。
「どうでしょう。城郭の外の家を見てみるのは?」
「んんん……そうね。見るのはタダだし。そうしましょ」
三人は、その後も楽しそうに話題をはずませた。
コウヘイは黙々と食べて、三人の話を聞いていた。
城壁の外はあぶないからオススメできないという家主に、それでもお願いして、案内してもらった。
使われなくなった農家の空き家。
四人で住むには広すぎる、必要のない広い畑まで付いている。それでも城壁の外ということで、家賃は九十Gと安い。それにタバコ臭くない。しかし無駄に広すぎる。
他にないかと聞いたところ、森の近くに木こり小屋があるという。森に近すぎてあぶないし、家ではなく小屋なので生活するには不向きと言わけたが、お願いして案内してもらった。
森に近い木こり小屋。
小屋と言っても、個室が三部屋あり、台所もある。
なによりタバコ臭くない。
家賃が三十日で三十Gと安い。
「ここでいいんじゃない?」
ラナは、満更でもない様子。
「そうですね。特に問題ないと思います」
「うんいいよ」
セシルもアンナも、ここがいいと言う。
「コウヘイは?」
「あ?、ああ、俺もここでいいよ」
全員一致で、この小屋にした。




