第8話 それぞれの愛機
コスモギャラクシーはブラスター・ウイングのビームジャベリンをかわし、足払いでバランスを崩させる。
そのまま追撃に移ろうとするが、空中へ飛び上がったブラスター・ウイングに攻撃を空振りにされ、その一瞬の隙にビームジャベリンに胴体を斬りつけられて、ダウンフェイズしてしまう。
「あーっ、駄目だったか」
「でも動きは良かったよ。後はスピードだけだね」
悔しがるセイカにヤマトはアドバイスをする。それを聞いたセイカは、またヤマトに練習を頼み込んだ。
特訓が始まって3日が過ぎ、セイカは手応えを感じ始めていた。最初は全く付いていけそうになかったヤマトの攻撃に、少しずつだが対処出来るようになったからだ。
ビームブーメランとビームジャベリンが激しくぶつかり合い、コスモギャラクシーがブラスター・ウイングを追い詰めていく。
ビームイーザーのアッパーを蹴り返し、空中で一回転して着地すると、すかさず接近する。
ブラスター・ウイングが変形して距離を取ると、コスモギャラクシーは牽制に手のひらからビームを放とうとする。
その瞬間、変形を解除したブラスター・ウイングがコスモギャラクシーにビームジャベリンを投擲し、コスモギャラクシーは直撃してしまう。
空中に跳ね返ったビームジャベリンを掴んだブラスター・ウイングが、そのままコスモギャラクシーを一閃する。
コスモギャラクシーはダウンフェイズし、セイカは頭を抱えた。
「あっ、れー」
「相手が距離を取ると牽制しようとする癖があるみたいだね。自分の意思で出来るようにしないと逆手に取られるよ」
ヤマトのアドバイスに、セイカは静かに頷く。
そこへ、アムとカジオが弁当を持ってやって来た。
「はい、そろそろお昼にしたら?」
アムからおにぎりを受け取ったセイカは、そのままがぶりと口に加える。
ヤマトはおにぎりを一口食べると、セイカに次の予定を話した。
「次だけど、アムとカジオの二人を相手してもらうよ」
「えー、それなら散々やったことある……ますよ」
思わずタメ口になりかけた所を、慌てて言い直す。
ヤマトはそんなセイカを見て思わずクスッと笑ってしまうが、話を続ける。
「でも、ブラスター・ウイングとの特訓だけじゃ多数の敵との戦闘の特訓にならないんだ。大会で勝とうとしたら、こういうのも大事になるからね」
「大会かー」
セイカは思わず呟いた。
ヤマトは一週間後に開催されるマリンカップへの参加を進めてきた。なんでもその大会に天海レインが出るというからだ。
「ヤマトさん。何でレインがマリンカップに出るって分かるんですか?」
「えっと、僕も知り合いに聞いただけなんだ」
ヤマトは自信なさげに答えた。
恐らく本当だとは思うが、あまり情報源が信用出来ないといえたからだ。
エクレールは館の主人と軽く挨拶を交わすと、ある部屋に入った。
そこに、シャボン玉を出して遊んでいるレインがいた。レインはエクレールに気付くと椅子から降りてエクレールに近寄る。
「何の用だ、エクレール。来るのは分かっていたが、そこまでは分からなくてな」
レインは瞳を虹色に輝かせながらそう語る。
エクレールはクスクス笑いながら質問に答えた。
「別に、ちょっと様子を見に来ただけよ。大事な教え子だもの」
「お前の教え子になった覚えはない」
「あらつめたーい。しくしく」
あからさまな嘘泣きをするエクレールに、レインはイライラしながら問い詰める。
「まさか、そんな冗談を言うためだけに来たのか?」
「どうだった、暦セイカちゃんは」
その名を聞いて、レインは僅かながら反応を示す。だが、すぐに不適な笑みを浮かべて返事をする。
「弱くて話にならないな。あれが私の敵になるとは思えない」
「人は変わるものよ。この短い間にも、彼女は強くなっている」
そんなエクレールの言葉をレインは一蹴した。本気にしてあないのだろう。
その話題を切り上げ、エクレールはレインに話し掛けた。
「ジ・オーシャンの調子はどう? 気に入って貰えてるかしら」
「ああ、最高だよ。私の力を最大限発揮させてくれる」
レインはジ・オーシャンのマントをひらひらとはためかせながら答えた。
そんな様子を見て、エクレールは静かに笑みを浮かべた。
どうやら、この機体をレインに託したのは正解だったようだ。
アヤはドライバーでマジシャンズ・ブラスターの駆動系をいじっていた。それが終わると、ニコニコ笑いながらアスカに機体を見せつけた。
「お母さん、出来たよ!!」
「ん、どれどれ」
アスカはマジシャンズ・ブラスターを手にとって細部を確認する。すると左腕の関節が若干緩んでいることに気づき、指摘する。
「ほら、ここが出来てないわよ」
「あ、ホントだ」
「……本当に、カスタムソルジャーが好きなのね」
一生懸命メンテナンスをする娘の姿を見ながら、思わず呟いた。それを聞いて、アヤは満面の笑みを浮かべて答えた。
「うん! お母さん達も大好きなんでしょ?」
「ええ、そうよ」
以前とは違い、仕事としてカスタムソルジャーに関わるようになったが、カスタムソルジャーが好きということに変わりはない。それはプロになったヤマトも同じだろう。
「私、前からカスタムソルジャーのこと好きだったけど、お母さんがコレをくれた時から、もっと好きになったの」
マジシャンズ・ブラスターを眺めながら、アヤがそう語った。
ブラスターの機体を誰に託すか。そうなった時、真っ先に浮かんだのは愛娘であるアヤだった。
高いGサイトの才能を感じたアヤにこの機体を渡すことを躊躇したりしたが、結果的には上手くいったようだ。
「次のマリンカップも頑張るよ。私、もっともっと強くなるから!」
ぴょんぴょん跳び跳ねながら意気込むアヤを見て、アスカは静かに微笑んだ。
コスモギャラクシーに自由に攻撃させないよう、遠くから狙撃を続けるシグマ。
ライフルの銃弾をビームブーメランで弾き、ブーメランを投げてシグマにぶつける。
手ぶらになった所をイカロスXが大型剣で斬りつけるが、コスモギャラクシーは手のひらにビームを発生させて白羽取りをして受け止める。
「ええ!?」
「貰った!」
ビームの出力をあげ、剣を爆破すると、そのままビームを纏った拳でイカロスXをぶん殴る。戻ってきたビームブーメランをキャッチすると、イカロスXに接近して叩き付けた。
イカロスXがダウンフェイズしたのを確認すると、セイカは一息ついた。
「こ、これで5連勝」
「よくそんなに集中出来るわね」
アムはイカロスXを回収しながらセイカに感心した様子で話し掛けた。
セイカは疲れきった顔でヤマトを見た。
さすがに休みたいのだろうと察したヤマトは、セイカに明日の予定を告げて終わることにした。
「じゃあ、明日もここに来てね。最高のコーチを呼んでくるから」
翌日、セイカは指定の場所に行き、ヤマトを待った。
コスモギャラクシーを見ながら、セイカは今までのことを思い出していた。
最初は市販のソルジャーをカスタムして戦っていた。でも、ヤマトから託されたコスモギャラクシーを使うことになったおかげで、専用機に対する構えが大分分かりやすくなった。
コスモギャラクシーのおかげで、セイカのカスタムソルジャーに対する気持ちはグッと高まったのだ。
暫くすると、ヤマトが人を連れてやって来た。
「じゃあセイカちゃん。今日からこの人が君のコーチだよ」
セイカはヤマトが連れて来た人物の顔を見た。その人物は……
「き、キリュウさん!」




