日常のなかで始まる新たな日常の気配
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朝の目覚ましアラームが執拗に鳴り響き、まだ寝ていたい頭は叩き起こされ意識が覚醒した俺はゆっくりとめをあけると、那月がベッドの横で立ち見下ろしていた。
「うぉっ! 那月?」
「お兄ちゃん、おはよ」
「お・・おはよう那月」
なんか不機嫌な那月の目元に少し隈があるようだ。
「・・お兄ちゃん、香苗さんにメッセ送って寝落ちしたでしょ? したよね?」
「な、なんで知ってんだ?」
那月は抗議するかのようにドスンッとベッドに腰掛ける。
「スマホ・・自分のスマホ、お兄ちゃん見た?」
「スマホ? いや、目覚ましで止めただけだけど・・」
「はぁ・・マジサイテー。寝不足の那月の身にもなってよね? お兄ちゃん」
「はぁ? どういうこと?」
「早く見てよ・・男なら、ちゃんと責任とってよね」
枕元にある俺のスマホを手に取る那月は、俺に早く見ろと顔の前に差し出してきた。しかも、スマホより那月の寄る顔の方が近くて吐息を感じるくらい。
「・・わかった。見るから怒るなって」
ほんの少しだけ顔を前に寄せるとキスしてしまうぐらいアブナイ距離感から離れるため、スマホを手にゴロンと姿勢を変え窓側に顔を向けてロックを解除する。
「なんだコレ・・」
香苗さんからの着信やメールが日付が変わる直前まで履歴がたくさん残っていたことに驚きの声を上げる。
「お兄ちゃんが、香苗さんの返事をしないから心配になったんだって。それで日付が変わるまで粘ったけど、夜中は迷惑だからって私に電話してきたんだから」
「那月・・ゴメン」
「あのフルーツ盛り盛りケーキで許してあげる」
「わかりました。那月お嬢様」
「わかれば、よろしい・・・・そうだ、お兄ちゃん。香苗さんが出る講義は10時からみたいだから、それまでに連絡してあげてよ?」
「ありがとう、那月」
那月に言われた俺は香苗さんに謝罪のメッセージを送ろうと思うもスマホの画面を暗くし、まだ朝早い時間のため学校に行って教室に向かう前に駐輪場へと寄り道して周囲を確かめながら電話をかけた。
「・・もしもし、諒太くん?」
「あっ香苗さん、おはようございます。昨日はその・・」
「おはよ〜諒太くん、昨日は寂しかったんだよ?」
謝ろうとする俺の言葉を香苗さんが遮り、最初に言えなくなってしまう。
「ゴメンなさいです。メッセージを送った後に寝落ちしてたみたいで・・」
「うん。那月ちゃんが教えてくれたから、安心したの」
「妹にかなり責められました・・それでですね、香苗さんは今週の土曜日は暇ですか?」
「土曜日? ちょっと待っててね」
「はい、すいません」
「・・・・ん〜と〜土曜日は・・特に予定無いから暇だよ?」
「そうですか。あの・・もしよかったら、俺と会ってくれませんか?」
「良いよ。何時にする?」
「そうですね・・・・あっすいません。生徒指導の先生がいたんで、電話きります。続きはメッセージでいいですか?」
「いいよ。スマホ没収されちゃダメだからね?」
「はい、では・・」
スマホを生徒指導の高倉先生の死角になるよう体の向きを変えて通話を切りズボンのポケットへとしまいながら逃げるように教室へと歩き出す。
「おい! そこの男子!」
「・・は、はい」
教室棟に向かっていた俺は背後から高倉先生に呼び止められ、足を止めてからゆっくり振り返る。スマホを校内で使っていたのがバレて、没収されると放課後まで返してもらえない。
不機嫌そうな顔で近づいて来る高倉先生を見ながら、いろんな言い訳をかんがえていると意外な言葉をかけられてしまった。
「おはよう!」
「・・おは、おはようございます」
「なんだ? 朝から元気がないな? ちゃんと朝飯食べたのか?」
「は、はい・・ちゃんと食べました」
「なら良し朝飯は、1日の始まりだ! これからも抜くことなく毎日食べるように!」
「はい・・」
高倉先生は言いたいことを言い終えたらしく、そのまま校門の方へと歩き去ってくれた。
「はぁ・・なんだよ急に・・焦らすなよまったく・・」
小さく愚痴を溢しながら教室へと向かうと、クラスメイトの太一が今日も笑顔で出迎えてくれる。
「おはよー諒太。今日は、いつも以上に冴えない顔だな? 何かあったのか?」
「・・高倉先生に絡まれた」
「朝から大変だったな? スマホは無事か?」
「あぁ・・でも、あと少しで見つかるとこだったよ」
「マジかー高倉先生は、放課後に行ってもすぐに返してくれない先生で有名だからな〜。没収されたら、面白かったのに」
「一つも面白くねーよ」
太一との朝のウザ絡みがひと段落したところで、担任の三原先生がいつものタイミングで教室に入って来るも、いつもの挨拶は無く教壇で俯いたままだ。
普段ならすぐに喋り出す三原先生が黙っているままだから、教室が違和感に気付きザワつき始めてから先生がは顔を上げる。
「みんな、遅くなってゴメンね?」
長い沈黙を破り冒頭で謝る先生の姿にキョトンとするクラスメイトたちの反応にニヤリとしながら、教壇から茶色い大きな封筒を掲げて告げた」。
「待ちに待った、実力テストの時間だよ?」
静寂な教室から悲鳴が響き渡り絶望に包まれるも、三原先生は笑顔で答案用紙を配り始める。窓際の最後尾の席の俺も答案用紙を受け取ると、実力テストにしては用紙のサイズが小さい気がした。
「次は、問題用紙を配るけどまだ見たらダメだからね〜だから、裏返しのまま後ろの人に渡してね〜」
教室の前を見ると全てを諦めたかのように前の席に座るクラスメイト達は、流れ作業で手を動かす光景を最後尾で座り眺める俺は、ただ前から来た用紙を無条件でうけとるしかできない。
「みんな、答案用紙と問題用紙を手にしたかな?」
・・・・・・
「それでは、始める前に一つだけ教えます! 午前中にある授業毎にきょうは実力テストならぬ小テストになりました。まだまだ休みボケのみんなの頭をフル回転させましょうね? それでは、制限時間は15分・・始め!」
否応なしに始まる小テストに集中し問題を解いて行く中で、教室にはコツコツとヒールの音を鳴らしながら三原先生は歩いている。
「終わった・・・・」
小テストが終わり問題と解答用紙を回収された後は普通に授業が始まり終わると、三原先生は笑顔で帰って行き次の授業が始まるチャイムが鳴った後に国語の幸田先生のつまらない長話しを聞いてから授業が始まり、国語はテストがないのかと期待していると、授業が終わる15分前に突然小テストを始めるという悪行に、皆のヘイトを貯めて用紙を回収し笑いながら教室を出ていった。
「なぁ、諒太・・難しくね?」
「そうか? 休み前の復習れべるだったぞ?」
「へっ?」
「太一? 大丈夫か?」
「たぶん、とりあえず、全部埋めたから」
「そっか・・」
落胆している太一の横顔をみながら、きっと彼は赤点ギリギリでこの障害を乗り越えていけるだろうと思いながら優しい視線で頭を抱える彼を黙って見守った。
小テストが続く今日の授業が終わり来週の授業で返却されることを知ってから、家に帰って香苗さんと土曜日の待ち合わせを決めるため、メッセージを送ってから自分の部屋のベッドの上で電話をしてみる。
「もしもし?」
「もしもし? 諒太くんだ。先生にスマホ没収されなかったみたいだね?」
「はい、無事です。俺のスマホ」
「よかったね。今も放課後に返してくれるの?」
「そうですね。先生によっては、小言を1時間ぐらい言われてから返してくれます」
「あはは・・私がいた時と、変わってないねー」
「そうみたいですね。あの、香苗さん・・」
「なぁに?」
「今週の土曜日のことなんですけど・・」
「うん、どうしよっか?」
「少し遠いですけど、遊園地に行きませんか?」
「遊園地? うん、良いよ。大学入ってから行ってないなぁ〜」
行き場所を香苗さんに子供っぽいと否定されるかと緊張しながら伝えるも、喜んでくれた反応を聞いてホッとする。
「よかった・・ありがとうございます。そしたら、御坂駅で待ち合わせしませんか?」
「電車で行くの?」
「はい、ダメでしたか?」
遊びに行く移動手段で電車を利用すると思っていた俺は、香苗さんの反応が違い戸惑う。
「ん〜ダメじゃないんだけど・・・・」
「けど?」
「車で行こうよ? 私の車で!」
「か、香苗さんの車でですか?」
「そうだよー。そしたら、電車の時間を気にせず遊べちゃうよ?」
「でも、香苗さん・・運転疲れるじゃないですか」
「平気だよー電車の方が家から駅遠いから、車の方が楽なの・・ね? 私の車で行こ?」
「・・はい。お願いします」
「うん。そしたら待ち合わせは、諒太くんの家がわからないからコンフォタブルにしない?」
「そうですね。コンフォタブルでお願いします」
「じゃー決まりだね。開園と同時に入りたいから、朝の9時にコンフォタブルで会おうね?」
「はい、お願いします」
週末の土曜日に香苗さんと遊ぶ約束をした俺は通話を終わらせてから久しぶりにテンションが上がるも、初めて年上の女性と遊ぶという高レベルな現実にどうして良いかわからなくなり、とりあえず寝て明日の朝に決めようと答えを導き出し眠りについたのだった。
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