表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/54

M国の動乱

読んで頂いてありがとうございます。

 その日、僕はアジャーラとテレビを見ながら彼女の部屋で食事をしていた。アジャーラは母と住んでいたアパートに今一人で住んでいる。これは一つには、母のベジータさんが結婚して夫の家に住んでいて、その家が高校や浅香家に行くのに少し不便ということでのアパート暮らしだ。


 彼女は高校をすでに卒業しているが、村山市に居るときは浅香家に日参するのは変わっていないので嘘ではない。だが、実際のところは僕は彼女と一緒に居たいし、彼女もそうであり、その場合には親と一緒ではちょっと具合が悪いことに加えて、別に暮らすお金にも困っていないとうのが真実だ。


 僕らは旅先では一緒に泊まることはあるが、村山市では一緒に住んではおらず、原則としてお互いに自分の家に帰っている。でも大体週に2~3回は一緒に食事をしていて、その場合には外食が半分ほどで、後は彼女の手料理である。その場所は彼女のアパートなので、そのままの流れで抱き合って……、ということになる。


 その晩はテレビを見ていてアジャーラが言う。

「オサム、あの人たちかわいそうね」

 そのテレビの画面は、通りを埋める人々とそれに向かって銃を持つ制服の連中である。


「ああ、あの銃火に晒されている人たちは可哀そうではあるよ。そもそも、それぞれの国の軍というのは外から侵略されるのを阻止するための存在だ。それが自分らの欲のために、クーデターを起こして、さらには抗議する丸腰の人々に向かって発砲するのだからね。

 M国の軍、それも上層部は歴史に残る最低さだ。でも、結局そんな軍を生みだしたのは誰でもないM国の社会であり人々だよ。そして、上官から命令されたからって、それに従って実際に人々に向けて発泡いているのも同じくM国の国民だ。

 その軍に向けて、外から軍を派遣すれば、軍は侵略だというよね。だから、この場合、軍の内部から上に背くものが出なきゃいけないんだ」


「でも、あのデモに加わっている人たちは危険を承知で抗議活動をやって、殺されたりしているのよ。どうしようもないのかな?国連も何もできないようだし」


「ああ、国連自体がもはやどうしようもないね。あれは国々が我を通そうとするだけの場を作っているという存在だ。その問題の根源があの常任理事国という奴で、その中に他の国と異質で、世界の嫌われ者であるロシアと中国が入っている。

 彼らにとっては、今回のようなことは、自分から目が逸らされるので都合がいい話なんだと思うよ。彼らが常任理事国で強力な拒否権を持つ限り、国連はまともな行動は取れない。日本は国連では“敵国条項”の対象国だからそこでの影響力はほとんどない」


「敵国条項?」


「ああ、アジャーラは知らなかったか。国連は第2次世界大戦の後に生まれたもので、その大戦の戦勝国が集まって作ったものだ。そしてその大戦の敗戦国である日本とドイツは敵国として位置づけられていて、成立から70年経つ今もそれは変わっていない。

 それは、中国やロシアが変えるのに反対するのもあるけれど、基本的にはアメリカの意向も大きいはずだよ。『お前らは自分に敗れたことを永遠に認識しろってね』経済力と影響力から言えばどちらも常任理事国なってもおかしくはないのだけどね」


「ええ!そんなのがあるの。第2次世界大戦の結果がまだ残っているのね。それはひどいわ」


「ああ、国連は全体としては有効に機能していない。そしてその傘下に沢山の機関があるけど、実質的にはそのスタッフの生活の手段になっていることも否めない。だから、大きな組織改編が必要だと思う。まあ、今回のようなM国の問題だったら、国連に常設の武装部隊がいれば簡単に片が付くのにね」


「でも、国連ではそういう部隊を作っても少人数では何もできないでしょう?」


「いや、M国軍のような兵器が精々無反動砲までの軍だったら、身体強化ができるメンバーがいれば10倍の敵でもなんとかなる。火薬を使った銃火器は無効化できるからね」


「ええ!銃を無効化できるって?」


「ああ、銃の炸薬を検知し、さらにそれを燃焼させるWPCは前に開発している。でも日本では使い道がないからね。外に出していない」


「え、ええ!もし、それがあれば、あの人たちは……。でもM国まで行けないわね」


「いや、行こうと思えば行けるよ。言ったろう。空間収納が出来たって、あれは空間魔法で異空間を扱う技術なんだよ。ということは……」


「え、ええ!空間ジャンプができるの?わ、私も空間収納はようやくできるようになったわ。では私も空間ジャンプができるということ?」


「うーん、多分。練習すればね。でも検知できないところには跳べないからね」


「じゃあ、跳べるのはほんの1km足らずしょう?それじゃあ、余り意味がないわ」


「いや、グーグルマップに同調すれば地球の裏側まででも探査できるよ。空間ジャンプというのはジャンプと言っているけど、実際は空間を繋ぐものだからね。だからM国だって行けるよ」


「じゃあ、オサム。ヤンとムセラを国に帰してやってよ。その銃を無効化できるWPCを渡して……」彼女がそう言う。


 彼女が言うのは、ヤン・ジュラスとムセラ・ミューライというM国人であり、意心館に上階に住んでいる練習生である。彼女も意心館の練習生だが、日本への留学生や働きに来ている練習生の世話役めいたことをしている。中でもM国の練習生については、M国軍のクーデター以来何かできることがないかと、帰りたがっている。


「ああ、あの2人か。なるほど、うーん。面白い、やってみるか」

 ニヤリと笑った僕にからかわれたと思った、アジャーラが口を尖らせて言う。


「やってみるって、なにをよ?」


「ああ、M国の軍など僕もああいうことをやっている連中を放って置くのは面白くない。だから、意心館だけでなくヤンとムセラの仲間のM国人を募って、そうだなあ、30人位ほど身体強化ができる連中があっちに行けは面白いことが出来ると思うぞ。

 銃を無力化すれば、バリヤーのWPCもあるし危険はさほどないはずだ」


 僕が真面目な顔で言うと彼女は手をバシッと打ち合わせて叫ぶ。

「そうよ、そう来なくちゃ。流石に愛するオサムね!そうと決まったら人を集めなきゃあ」


「人もだけど、まずは必要なWPCを作らなきゃあ。でも30人分くらいだったら1週間あれば準備は出来るかな」

 そういうことで、その夜はテンションが高い彼女と一緒に部屋に泊まってしまった。勿論やることはやったよ。


 翌日から僕らは大車輪で頑張った。今では、医療用のWPCも少しノルマが下がっていて、僕とアジャーラの活性化の能力がさらに上がっているので、1日分は2時間くらいでこなせる。

 だから、夜に頑張ってその作り置きを始めたほかに、銃火器の炸薬の燃やすことができるWPCの回路図を描いた。


 また、このWPCはそれなりの距離で機能する必要があるので、検知と発火を遠くに飛ばせる回路も合わせたものになっている。そして、このWPCの実用化のためには、活性化は自分でやるとして、回路を刻み込んだ素材と実際の試験が必要なので、WPC製造㈱の僕の担当の小串女史に連絡を取った。


 僕はやってきた彼女に、わが家の製作小屋で作図をしたWD(Weapon Disempowering)-WPCの図を見せて説明した。今日はアジャーラはM国関係の連中に会いに行って居ない。


「ええ!これで、銃器の炸薬の発火させることができるわけですか?」


 30歳代後半の、ふっくらして色白の小串絵里奈は元々キャリアの国家公務員だった女性だ。彼女は子育てのためにいったん仕事を辞めて、下の子が小学校4年生になったところで、WPC製造㈱に職を得た出来る女だ。


「うん。乾電池サイズの1㎾のバッテリーを使えば、300m位は有効範囲になるよ。結局火薬とか炸薬を感知してその中に温度千度位の微小な熱源を発生させる。だから、酸化剤を持っている炸薬は燃焼するというか、多分爆発するよ。小銃とか拳銃くらいだったら、あまり炸薬は入っていないから、そう危険でもないけど、無反動砲などの爆裂弾は結構危ないだろうね」


「え、ええ!それは大変なものじゃないですか。世界の軍隊は全て欲しがりますよ」


「だけど、銃器を大量に持っている軍がこれを買ってどうするんだよ。自らの存在価値を無くすということじゃないか?」


「だけど、敵が持ってなきゃあ一方的にやっつけることができるでしょうに。それに敵が持っていれば、自分達が持たないという選択肢はないですよ。ところで、これを防ぐことのできるWPCは出来るの?」


「うーん。出来る……な。でも、WD-WPCの効果を打ち消すためのWPCが要るわけだよね。なにか切りがないなあ。だけど、炸薬を使わない銃というのは、初速千m以下で数グラムの弾を飛ばせばいいんだろうからWPCで出来るよ。そっちの方がいいんじゃないかな。静かだしね」


「ええ、ええ!そんなのが出来るのだったら……、いずれにせよちょっと防衛省と話をしていいですか?」


「うん、いいけど、取りあえずこのWD-WPCの素材を制作に回すよ。急ぐんだから」

 僕が開発したWPCについては、経費はWPC製造㈱持ちで指定した数を作ってくれるのだが、小串女史に話は通しておく必要があるのだ。


「ええ、それはどうぞ正式に依頼してください。じゃあ、防衛省の知り合いに連絡しますから、すぐにやって来ると思います」


 彼女はすぐにスマホで連絡をとっている。僕のスマホもそうだけど、彼女のスマホも、読み取れないようにWPCで発信電波にスクランブルをかけ、受信時にはそれを読み取れる秘話機能がついている。スマホでの電話を終えて小串女史が僕の方を向いて言った。


「連絡しました。どうもすぐに来るようなことを言っていましたよ。ところで、急ぐって何で急ぐんですか?」


「うーん。これは秘密だよ。こんどM国でね。丸腰の市民を撃っている腐った軍だったら、WD-WPCがあれば、何とか処理できると思うんだ。意心館に何人かM国人がいるからね」


「ええ!オサム君もM国に行くつもり?」


「うん、僕が行かないと空間転移が出来ないものね」


「ダメよ。万が一のことがあったらどうするの。オサム君はかけがえのない人なのよ。国家の重要人物よ。多分じゃなくて、実際に首相なんかよりずっと大事なの。解ってる?」


「ええ……。いやだよ。そんなに不自由なのは。僕は身体強化ができるし、魔法は使えるし、バリヤーのWPCはあるし、空間転移はできるし、個人としては恐らく最も安全だよ。それに、医療用WPCがあれば、即死しなければ治るしね。行くよ、僕は、絶対!」


 僕は行くのがダメと言われて頭にきて言い募った。最近では、僕の護衛はいなくなったが、これは僕をいきなり殺そうというものはあり得ないという判断からである。

 そうなると、誘拐するしかないわけだが、身体強化ができて魔法を使える僕を誘拐するのは事実上不可能に近いのと、僕の居場所を探査ができるものは数人いるので仮に誘拐されたとしても、行方は探せるということだ。


「うーん。だったら、こっちで護衛の要員を揃えますので連れて行ってください」

「ああ、うーん、しかたがないな。ビザがないからダメとかは無しね」

「え、ええ。何とかやってみましょう」


 そういう会話をやっているうちに、防衛省から人が来たのは午後の2時頃だった。小串女史の連絡から2時間すこしで来たことになる。

「防衛施設庁、装備課長の園山です。こちらは部下の武儀係長です」


「火器研究班の増田です。こちらは部下の西野です」


 防衛省からやってきたのは全員が男の4人であった。彼らにWD-WPCの回路図を見せて説明し、その機能の話をして、火薬を使わない銃弾発射のWPCの話もした。見るからに彼らは興奮してきた。


「いやあ、素晴らしい。なにより当面我々がその技術というかノウハウを独占しているということです。よく呼んで頂きました。小串君感謝するよ」

 園山課長が言って、小串に頭を下げる。彼らは大学の同窓らしいが、園山氏はその年齢で本省の課長だからエリートだね。


「それで、当面WD-WPCの試験をしたいので、協力してください。銃がないと試験のやりようがありませんが、自衛隊だと廃棄していいような銃器もたくさんあると思いますしね」


「もちろん協力します。我々も是非そのWD-WPCの機能を掴んでおきたいですから。それと、そのWD-WPCは相手の武器を爆発させるという意味では、実質的に武器になると思いますので、一般人には持たせられません」


 園山から言われて僕もそのことに気付いた。

「ゲ!そういえばそうだよね。テロリストの手に渡ったら、警官とか軍の銃を発火できるなあ。M国の軍に抵抗している人に渡そうと思ったけどそうもいかんな。参ったな」


「ただ、雷管を爆発させるわけではないので、意外に燃料はゆっくりかもしれないですね。ただ、爆裂弾については弾頭がやはり爆発するでしょうな。だから、WD-WPCを扱うのは、少なくとも国内では我々自衛隊か、警察になりますね」

 今度は増田班長が言うのに、アジャーラががっかりするだろうなと僕は頭を抱えた。。



よろしかったら並行して“なろう”で連載中の「俺の冒険」及び“カクヨム”の以下のURLのRevolutionも読んでください。後者は前に書いたものの途中から、ストーリーを変えて書いているもので、私の小説の原点です。https://kakuyomu.jp/works/16816452219050653749

作者のモチベーションアップのためにブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ