第九十一話
翌日早朝。
「お兄様……聞きたいのですが、この恰好には意味があるのですか?」
「ある、大きな意味がある」
俺は教わったオーク対策を実行するべく、リゼットに貸し出された部屋の前に立ち、彼女が出てくるのをひたすらに待っていた。
「疑問が出てくるのは当然だし、意味がわからないと思うリゼットの気持ちも理解しているつもりだ……つもりだがしかし、俺を信じてその恰好のまま出てきてくれ」
「い、いえ……お兄様を疑ってはいませんが」
リゼットのそんな声が聞こえた数秒後、躊躇いがちに扉が開き、ついに彼女が姿を現す。
「っ」
心構えはしていたけど、やっぱりこういうのは恥ずかしいというか――。
「お、お兄様が照れると……その、私も……」
「す、すまん!」
と、俺は改めて眼の前の少女を見る。
即ち、体の大事なところのみを最低限隠したエロゲ―によく出てきそうな、ギリギリな鎧を身にまとった少女――リゼット(キャストオフバージョン)を。
さて、リゼットがどうしてこんな恰好をしているかだが、別に俺の趣味というわけではない。まぁこういう恰好にまるで興味がないかというと、男である以上そういうわけでもないのだが、これには大きな理由があるのだ。
『オークはエロい女騎士の言葉なら通じるらしいよ、お兄ちゃん!』
「…………」
そう、俺はミーニャが言った言葉を信じ、実行した。
もしもこれであいつが、口から出まかせを言っていたら、俺はどう考えても変態のそしりを免れないだろう。
「あいつに限って、そんなことはないと信じたいが……」
「お兄様……いつまでもここに立っていると、その」
「あ、あぁ! そうだな、早く行こう」
この時、俺はどうしても言えなかった。
『リゼットにはその恰好でオーク達と会話してもらう』
言えない。
ただでさえ恥ずかしがっているリゼットに、そんなことを言えるわけがない。
言えるわけがないのに……。
「とにかくついて来てくれ」
とか、言っている俺は結構なクソ野郎なのかもしれない。




