第九十話
「こ、これは……」
「わかる、わかるぞその反応」
俺は俺の向かいに座って驚愕に眼を見開いているリゼット見て思う。
俺も初めてこの城の晩餐に参加した時、それはもう驚いたものだ。
「全てゲアラブア……ですと?」
なんかリゼットの口調が少しおかしくなっている。
それほどまでに驚いたのだろうか。それとも、期待していた料理が、自分の予想を大きく裏切ったために衝撃を受けているだけだろうか。
そう。
俺たちの前に広がっているのは、全てこの世界の特産品であるゲアラブアを使った料理なのだ。
そろそろ説明しておくと。
ゲアラブアとは、元居た世界で言う油揚げに酷似した何かである――酷似した何かであると表現した理由は、これが確実に油揚げではないからである。
何せこのゲアラブア。
どうやら栄養価が半端ないらしいのだ。
「美味しいです……」
「リン! おぬしは何度言えばわかるのじゃ! それは我の分なのじゃ!」
俺の隣の席に座るリン、そしてその向かいに座るマオを見てなおの事思う。
こいつらは毎日毎食ひたすらこの謎食材を食いまくっている。
野菜などはもちろん皆無。
ひたすらにゲアラブアのバリエーション料理だ。
なのにこいつらは病気になったりしない。
そして、ここ最近俺もこの謎料理しか食べて居ないわけだが、体調を崩す様子は見られないどころか、むしろ何だか体調がいい気がする。
まぁこの謎食材の栄養価についての考えは一旦打ち切ってだ。
「予想外だっただろ?」
「は、はい。魔王の城とはいえ一国の主が住まう場所には違いありません……ですからその」
「もっと豪華な料理を予想したか?」
「恥ずかしながら」
「む、聞き捨てならなんな」
と、そこで俺たちの会話を聞きつけたらしいマオが口を挟んで来る。
「この料理のどこが豪華ではないというのじゃ。最高級のゲアラブアを贅沢に使った料理の数々……どこが不満なのじゃ?」
なるほど。
最高級のゲアラブアを贅沢に使った料理のどこが不満か、な。
「…………」
うん。
今までは言わなかったが、聞かれた以上はいってやろう。
「贅沢に使いすぎてるところだよ、それ以外に何もねぇよ!」




