第八十六話
「よし」
なんやかんやと色々あったけれど、俺はようやく職を得ることに成功した。
まさか一度クビになった場所で、また働くことにはならなかったが、とにかく俺は再びニートからの脱却を果たした。
「よし……って言ったのはいいんだけどさ」
そう、脱却を果たし他のはいいのだけれど。
「何でお前もついて来てるんだよ」
「だって、あんたの本職はあたしと一緒に居る事でしょ?」
「いやそうだけどさ」
俺は俺の隣に並んで立っているエリスを見て思う。
確かにこいつと一緒に居る事は俺に与えられた本来の仕事ではあるのだが。
「なんだろうな」
こいつと一緒にいると、何かとんでもないことが起きる気がしてならない。
俺の中でのエリスのポジションは、某ダメ狐ことリンと同じなのだ。
「まぁあいつと違って、やばい発言こそしないけれど……うん」
本当になんだろうな。
何と言葉にしていいのかわからない不穏な雰囲気がこいつからはしてくるのだ。
だがしかし、今はまだ騒動を起こしていない以上、ただ何もしでかしませんようにとお祈りする以外、俺に出来る事はない。
「なによ?」
「別に」
「あっそ」
「うん」
なんだか俺の視線を感じ取ったらしいエリスとの会話ともいえない会話を簡潔に打ち切り、俺は改めて新しい職場を見回す。
「にしても、ここを何とかしてほしいって……どうすればいいんだよ」
眼の前に広がるのは、どこもかしこもオークだらけの訓練場のような場所。
おそらくはこの城の兵舎の一つなのだろうが……。
「こいつら全員寝てるか遊んでるかだけじゃない」
エリスの言う通りだ。
誰一人として訓練らしきものをしていない。
「マオから問題のある部隊を何とかしてくれって頼まれた時は、まさかここまで酷いとは思っても見なかった」
まぁいい。
プラスに捉えれば、かなりやりがいがあるとも言えなくもないのだから。




