第八十三話
「なんじゃその反応は? リンでは不服だとでも言うのか?」
「いや、不服とかそういうんじゃないんだよ」
別にリンが嫌いだから、結婚したくないとかではない。
かといってリンと結婚したいわけでもない点には要注意だが。
「というか、どうしていきなりそんな話し始めたんだよ?」
マオはどちらかというとまともな人間……まともな狐であるため、今までトンデモ発言はしてこなかった。それなのにどうして今日に限ってこんな発現をいきなりし始めるのか。
「っ!」
そうか、わかったぞ。
「お前、マオじゃなくてリンだな!」
マオが、こんなおかしな発言をいきなりするのはやはりおかしい。
俺の眼の前に居るこいつはどうせ、リンが魔法で化けてるとか、そういう落ちの――。
「……なーにを言ってっているじゃ、おぬしは」
「…………」
まずい。
これは恥ずかしい。
とにかく先ほどの出来事は全力でなかったことにしよう。
「ともあれ、我も少々いきなりすぎたようじゃな」
言って、マオはどこからともなく取りだした……というか、完全に魔法らしきもので取りだしたと思われる飲み物を俺にすすめながら続ける。
「我は思ったのじゃ。おぬしと会ってからというもの、リンの引きこもりは確実に治りつつある。昨日なんて自分からこの城までやってきたのじゃからな……誰に促されるわけでもなく、自分の意思でじゃ」
「…………」
うん。
俺は当初のあいつを知っているから、それがいかに素晴らしい変化がわかるが、事情を知らない人が聞いたら、全くたいした事に聞こえないだろうな。
「つまり、おぬしとリンをくっつければ、あやつの引きこもりは治るのではないか?」
「……えーっと、どうしてそうなった?」
「だからじゃな。おぬしにいい意味で影響されて脱引きこもりをしかけているのじゃから、これから先ずっと一緒に居れば必然――」
「完全に引きこもりが治るのではないか。と?」
「その通りじゃ」
それで結婚というワードが出てきた訳だ。
マオはやはりリンの将来を心配しているのだろう。
だがしかし――。
「ないな」
「なんじゃと!?」
「何でそんな驚い顔してるんだよ!」
「う、うむ……いや、おぬしはロリ狐好きの変態じゃとリンから聞いて――」
「そこ信じるなよ! 他のところは嘘だって見抜いてたのに、何でそこ信じちゃうんだよ!?」
こうして二人きりでマオと話す機会は少なかったが。
こいつはこいつで、少しアホなのかもしれない。
そんな事を思う今日この頃であった。




