第八十一話
「という訳で、こっちはリン……」
「よろしくお願いします」
「それでこっちがエリス……」
「ふんっ、よろしく!」
うん、おかしい。
どうしてまた自己紹介しているのだろう。
しかも、俺が間に入るという形で……いや、理由ならばわかっている。
こいつらがお互いの話を全く聞いていなかったようなので、俺が間に入ったのだ。これ以上こいつらに任せると、完全に時間の無駄になるから。
それが全てだ。
「それで?」
「それで、とは?」
俺は腕を組みながらこちらをきっと睨みつけてくる悪魔っ娘に目を向ける。
「言われる前に謝りなさいよね!」
「だから、何をだよ!?」
「あたしを置いて行ったことよ!」
置いて言った事?
あぁ、そういえばマオと二人で楽しそうにしてるから、俺だけで散歩に出たんだったな。
あの時、俺は完全に無視されていたため、悪いとは思わないが一応謝っておくか。こいつうるさそうだし……と、そんな事を考えた瞬間。
「置いて行かれた……なるほど、エリスさんはお兄さんに捨てられたんですね」
「ど、どういう意味よ!」
「そのままの意味ですよ」
言ってリンは狡そうな笑みを浮かべて続ける。
「お兄さんに犯り逃げされ――もごっ」
「はい、お前はそろそろ黙ろうか」
「もごもご」
うん、やはりリンに喋らせるのは危険だ。
こいつは俺が居るとやたらと性格が悪く……というか、妙な事を口走り始めるからな。
「…………」
俺がリンの口を押えて拘束していると、前方から妙な視線を感じる。
まず間違いなくその視線の持ち主はエリスなのだが。
「何見てるんだよ?」
「え? ……べ、別に何でもないんだからね! 仲よさそうでいいな、とか思ってないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「…………」
「ふ、ふん! あたしはもう疲れたから寝るわ!」
「寝るって、もう!?」
「うっさい!」
バタンっとドアの閉まる音。
行ってしまった。
「ぷはっ……フラれましたね、お兄さん」
「どこをどう見ればそう見える?」
俺はその後、リンと会話を少しの間してから、自室へと引き換えすのだった。




