第七十九話
「なるほど……」
ダメ狐と向かい合って、俺がこの城に来た理由を懇切丁寧に喋ってから三十分が過ぎた。
……わかるだろうか。
三十分が過ぎたのだ。
エリスに付き合ってこの城に来た。
それだけを説明するのに三十分も使ったのだ。
俺は思わず叫びたくなる。
エクセレント!
とな……。
まぁ実際そんな意味の分からん叫びをしたりはしないが。
とにかくそれくらい驚きだ。
リンの理解能力の低さに驚いたのではない、こいつの話をぶつ切りにしやがる特殊スキルに驚いたのだ。
何度説明してもまるで話を聞こうとしない。
否……それならばまだいいかもしれない。こいつの場合は、聞いているようで全く聞いていないのだ。
だが、様子を見るに今回こそようやく俺の話を理解して――
「お兄さんはマオ姉さんを凌辱しにきたんですね……鬼畜です」
「…………」
うん、もういいや。
何も聞かなかった事にしょう。
「ところでお兄さん……あの拘束魔法、よく破れましたね」
「ん、なんだよいきなり真面目な話し――」
「あのランクの魔法……勇者クラスでもそうそう破れませんよ」
「…………」
うん。
とりあえず、そんな強烈な魔法?を俺にかけるのはよしてほしい。
そんな事を思う今日この頃であった。
「あとお兄さ――」
リンが何かを言いかけたその瞬間。
扉の部屋がバンっと音を立てて開き、第三の人物が侵入してくる。
「ちょっとあんた! 何で勝手にどっかいってるのよ! ちゃんと傍にいなさいよね!」
その人物ことエリスは、ずかずかと我が物顔でリンの部屋に侵入。
俺たちが座っているベッドの前までやってくると、ずびしっとこちらを指さして言う。
「し、心配したんだからね……じゃなくて、心細……でもなくて、とにかくそうなんだからね!」
なるほど。
とにかくどういう事なんだ?
俺が益体もない事を考えて居ると、エリスの視線が俺の横へシフトし、リンに向けられるのを感じる。
「…………」
同時に俺は、更なる災難が訪れる予感がした。




