第七十八話
「……鬼畜です」
「だから悪かったって!」
「お兄さんは鬼畜です」
「まさかあんな事になるとは思わなかったんだよ」
「……鬼畜です」
はぁ、どうしたものか。
俺は眼の前の狐っ娘――青を基調とした巫女服に白いローブを羽織り、冠をちょこんと乗せている白髪青目の少女こと、リンを見ながら先ほど起きた一連の出来事を思う。
こいつがさっきから俺に向けて鬼畜鬼畜言っている理由はただ一つ。
どうやらこいつが俺にかけていた拘束魔法(手足が動かなくなったり、目が見えなくなっていたあれだ)を、俺が力技で強引に解いた事によって、ノックバック起きてすっとんだのを原因としている。
何がって……あの時、俺の体の上に乗かって、身動きの取れないこちらをただ見ていたらしいリンが吹っ飛んだのだ。
その吹っ飛び方を実際に見ることは出来なかったが、気が付いたらかなり離れた壁にビタンと張り付いていたところを見るに、本人の言う通り相当素晴らしい吹っ飛び方をしたのだろう。
「鬼畜です」
よってこの発言だ。
時は壁ビタン事件から数分後、場所は相変わらず中二病グッズが大量にあるリンの部屋。
俺が腰掛けるベッドにちょこんと座り、相変わらず眠たそうな目でこちらを見ているリンは、飽きずに「鬼畜です」と思いだしたように呟いている。
だがしかし。
だがしかしである……ここでよく考えてみたい。
先にしかけてきたのはどちらかという事を。
こいつである。
このダメ狐ことリンである。
そもそもこいつがあの廊下に魔法陣を展開し、俺をこの場に転移させ、その上で俺を拘束したのだ。
本人曰く、
『お兄さんがマオ姉さんに鬼畜な事をしようとしていると聞いて、駆けつけてきました』
『少し驚かそうとしただけですよ、お兄さん』
ということらしいが。
こいつはしょっちゅう適当な事うぃうので、本心はどうかわからない。
ただ一つわかる事は、
「お兄さん……マオ姉さんに続いて、自分まで犯す気ですか、鬼畜です」
「…………」
ただ一つわかる事は、こいつが何も反省していないという事だ。
よって、口では悪いとは言っているが、俺も内心反省する気ゼロである。
というか……はたして俺は悪い事をしただろうか。
「なんですか、お兄さん……自分をそんなに見つめて……身の危険を感じます」
「……はぁ」
こいつは本当にいつまでたっても、
「はぁはぁ……ですか、そんなに欲情されても困りますよ、お兄さん」
全く変わらずダメ狐だな。




