第七十五話
「何であたしがそんな事しなきゃならないのよ、このバーカ!」
「は、放すのじゃ! 我の尻尾が抜けてしまうのじゃ!」
「うっさい、あんたが悪いんだからね!」
「くっ、黙っておれば! おぬしも同意の上だったじゃろうが!」
「身体測定する必要なんてないでしょ! だ、だいたい何で胸のサイズまで測らなきゃならないのよ!」
「一応じゃといっているのじゃ!」
「ふんっ! わかってるんだからね! 自分の胸もあんまり大きくないからって、あたしの胸のサイズを測って安心しようとしてるんでしょ!」
「だから違うといっているのじゃ!」
……さわがしい。
マオの部屋という名のとんでもない広い空間――よく中世ヨーロッパの城とかで玉座の間とか言われちゃいそうなそんな空間の端、俺は騒がしくじゃれあう?二人を見る。
「とにかくじゃ、我は後学のために調べたいのじゃ!」
「いや!」
「おぬしだってさっき自分の魔力を調べさせると了承したのじゃ!」
ぐだぐだだ。
というかこれ……はたして俺がついてくる必要があったのだろうか。
「…………」
俺はしばらくの間、額に手をあててここにいる理由を考えてみる。
「……うん」
ないな。
俺がここに居る理由はまるでない。
「なぁ、二人とも」
「早くするのじゃ!」
「あたしに命令しないでよね!」
……これ、無視されてないか。
ここに来てようやく理解した。
どうやら俺はしばらく前から、新手の放置プレイをされていたらしい。
念のためにその後、何度か声をかけ続けてみるが、ヒートアップしている二人にはまるで届かない。
俺はいよいよもって本格的にここに居る理由がわからなくなってくる――そもそも、ミーニャは一人でエリスを泊まらせるのが心配なのであって、何も付きっきりで行動しろと言われたわけでもない。
「俺、ちょっと出かけてくるわ」
未だ白熱する二人に一応声をかけ、俺は一人玉座の間を後にするのだった。




