第六十八話
説明するのが苦手なのか、一向に要領を得なかったエリスの話に、ミーニャの補足説明を加えてわかりやすくまとめると、どうやらこういう事らしい。
本来ならば魔法が使えないはずのこの部屋で召喚魔法が使えた理由は、もともとミーニャの魔力が桁外れだったのに加え、召喚される予定のエリス――即ちアンチマジックなる物を持っているエリスとバイパスのようなものが繋がったため、偶然にも近い奇跡的な確率でこの部屋の結界を打ち破ったらしい。
もっとも、
「偶然じゃないんだからね、あたしの実力なんだからね!」
と、エリス曰く百回やっても百回成功したらしい。
もの凄く胡散臭いが。
何が胡散臭いって、この貧乳娘が言うと余計に胡散臭く見える――そう、こいつが言う言葉自体が胡散臭いのだ。
さて、それはともかくとして、魔法が使えるようになったなら、ここから早々に抜け出させてもらおう。
まだ炬燵を片付けただけで、周囲の整頓などはしていないからな。
「おいミーニャ……と、エリス!」
と、俺はリゼットたちが帰ってきて……特にリンが帰ってきて面倒くさい事になる前にこの部屋から出るため、何だかガールズトークを初めてしまっていた二人に声をかける。
「何、お兄ちゃん?」
「何よ?」
うん、ミーニャはいつも通りのミーニャなのだが。
どうしてエリスはキッとした目つきで、俺を睨みつけてくるのだろう。
特に怒らせるような事はした覚えはないのだが……いやまて、心の中で散々貧乳扱いしたのがばれたのか?
「…………」
エリスが悪魔という存在である以上、可能性は無きにしも非ずだ。
念のために謝っておくか。
「エリス、すまなかった」
「は、はぁ?」
「いや、そんな目で俺を睨んでるってことは怒ってるんだろ? だからすまなかった、謝る。俺が心の中でお前の事を貧乳娘って呼んでいたこと――ぶっ!」
「誰が貧乳か、誰が!?」
声と同時につきだされたのは強烈かつ痛烈なグーパン。
それは鼻に直撃し、俺は思わずその場に鼻を抑えて膝を付く。
「あ、あたしはこう見えてもFカップなんだからね!」
「…………」
「…………」
部屋に渦巻いたのは悲しい沈黙。
思わず俺は涙が出て来てしまった――それが鼻の痛みから来るものなのか、それとも別の事に由来するのかは不明だが。
「う、嘘じゃないんだからね!」
「エリスちゃん……もういいんだよ」
「う、うぅううう! ミーニャのバカァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
この日俺は知った。
時に優しい言葉は、何よりも鋭く心を傷つけるのだと。




