第六十六話
「それで?」
俺は先ほど起きた現象について問いかけるため、ミーニャへと近付いて言う。
「悪魔って何?」
すると彼女は、何故か中身が空になった壺を脇にどけ、どこか安心したような顔をしながら俺に答える――余談だが、ミーニャが安心したような顔をしているのは何故だろう。まさか俺に中身をどうにかされる心配をしなくて済んだ……みたいな事を考えて居るのではあるまいな。
「えっとね……悪魔っていうのは、召喚魔法を使える魔法使いが、自分の体の一部を触媒にしてこの世界に呼び出す使い魔――その最上位に位置する存在の事なんだよ」
「へぇ、最上位……ねぇ」
言って、俺が流し目で背後を見ると、
「何よ! こそこそしないでよね!」
言いかえしてくるのは、取りあえずその辺に落ちていた布をひっかけた貧乳娘……確か名前はエリスだったか。
うん、どう考えてもこいつがそんなすごい存在には見えない。
「何とか言いなさいよね!」
……今はスルーしよう。
こいつに関わると、リンとは違うベクトルで面倒くさくなる気がする。
「で、話を戻すけど」
背後から「無視するな~っ!」などと言う声が聞こえてくるが、対応はすでに決めた通りである。
よって、俺はミーニャとの会話を続行する。
「召喚魔法で召喚されたんだよな、あれ?」
「そうだよ。本人も言ってたけど、魔力の感じと流れ的に使い魔……それにミーニャが主で間違いないんだよ!」
言った後、「触媒が消えてるし」と、何やら意味深な視線を壺へと送るミーニャ。
「と、とにかく! 召喚された悪魔なのは間違いないんだよ!」
何だろう。
どうしてミーニャが一人で首を横に振り、明らかに慌てて……いや、テンパっているのだろう。
とか言って、本当はおおよその予想は出来ている。
おそらくあの壺は召喚アイテム的な物であり、その中にミーニャが触媒を入れたのだろう。
「…………」
そう、つまり触媒的なアレを入れたのだ。
っと、また話が逸れそうになった。
正確に言うなら、逸れそうになっているのは俺の思考だけなのだが。
「えっと、単刀直入に聞くけどさ……どうして魔法が使えないこの部屋で、召喚魔法を使えたんだ?」
「それは――」
「それはあたしが説明してあげるわ! 感謝しなさいよね!」
ようやく出番が来たとでも言うかのように、答えに詰まったミーニャの後を次いで喋りだしたのは貧乳娘エリス。
「…………」
俺はげんなりしながら背後へと向きなおるのだった。




