第六十三話
「お兄ちゃん……もう生きていけないよ」
「いや、大丈夫」
「でも」
「大丈夫だ、人生生きてればそれくらいの事ある」
「人の前で壺に……その、あれをするような事が?」
「……あ、あぁ」
「その間がミーニャの胸に突き刺さるんだよ!」
と、何やら古めかしい壺を胸元に抱きながら、地下室の隅っこに座って縮こまっているミーニャ。
まぁ気持ちはわかないでもない。
さっきはミーニャを元気づけるためにああ言ったが、仮に彼女と同じ状況になったことを考えると……うん、すごく鬱だ。
とかなんとか考えていたら、この部屋の空気が凄く息苦しく感じてきた。
よし、ここは大きく深呼吸をしよう。
「すぅううううう~~~~~~はぁぁあああ~~~~~~~~~~~~~っ」
もっと大きく、ゆっくりと!
「すぅうううううう――」
「お、お兄ちゃん!」
と、何やら顔を真っ赤にしたミーニャが半眼――俗に言うジト眼で俺を見ながら言う。
「……エッチ」
「は?」
「そんなに匂いを嗅ぎたいなんて、エッチなんだよ!」
「……は?」
まるで意味がわからない。
どうして俺は今、妹様からエッチと罵られているのだろう。
「ん?」
首を傾げてミーニャの動作を観察していると、壺を大事そうにギュッと抱きしめ、俺から隠そうとする。
「…………」
大きく深呼吸する。
妹にエッチと言われる。
色々と危険な壺を俺から見えないように隠す。
「っ!」
突如、全てのピースがつながった。
「ちがう、断じて違うぞ! 俺はそういうのじゃない! そういうのじゃないんだ!」
勘違いしている。
ミーニャは絶対に何か勘違いしている。
それも大きな勘違いを、確実にとんでもない勘違いをしている。
「いいかミーニャ、俺は――」
言いかけたその時、凄まじい爆発音と共に辺りを閃光が覆った。




