第五十五話
「んぅ……」
窓から差し込む光が俺の顔を照らし、半ば強制的に目を覚まさせる。
「なんだ……もう朝か」
昨日、思いっきり警戒したまま眠ったせいか、夜中にリンが侵入して来て抱き付いてくる夢を見たせいか、うなされてまるで眠れなかった。
いや、正確には眠れはしたのが、全然寝た気がしない。
「寝足りない……もう少し、寝よう」
二度寝は基本的にしない主義なのだが、たまにいいだろう。
俺はそう思って寝がえりを打ちながら、柔かく手抱き心地の言い抱き枕に手と足を絡ませて再度眠りに落ち――
「抱き枕だと?」
嫌な予感がする。
だってこの部屋に抱き枕など存在していないのだから。
「は、はははは……読めた、もうオチが読めたぞ」
つまり、昨日見た夢は夢ではなかったのだ。
簡潔に言うのなら、今ここにある……否、ここに居る抱き枕は抱き枕であって抱き枕ではない……これはまず間違いなく奴だ。
「リン、お前いい加減に――」
しろ!
と、絡めた手足を慎重にどかしながら布団を持ち上げるとそこに居たのは、
「んぅ……お兄ちゃん……」
「…………」
ば、ばかな!?
リンでなくミーニャだと!?
「お兄ちゃん……好きぃ……」
「ぶっ!?」
きゅっと胸元に抱き付いてくるミーニャ。
家族的な意味での好きだとはわかってはいるものの、年頃の女の子にこうもくっつかれて平常心で居られるほど、俺は大人ではない。
っていうか、大人でも平常心ではいられないのではないだろうか。
それこそミーニャのように、最近出来た妹ならばなおさら。
「と、とにかく落ち着け……落ち着くんだ俺!」
「おにいちゃ……」
ミーニャの髪から香る優しいに匂いが、俺の頭をクラクラさせる。って、俺は妹に対して何を考えて居るんだ、変態か!
まずはこの状況を何とかしよう。
「そのためにはこの場所からの脱出が最優先事項だ」
よし。
俺は覚悟を決めてゆっくりと、ゆっくりと行動を開始する。
まずは俺の服をきゅっと掴んでいるミーニャの手を外し……、
「んぅ……あれ、もう……朝?」
「…………」
ミーニャの手を握った瞬間、妹様は目覚めてしまいやがったのだった。




