第四十六話
「懲りないですね、お兄さん」
「舐めるなよリン、俺を以前の俺と思うな」
以前、俺がこの引きこもりを外に出そうとしたとき、俺は食べ物で釣るという安易な手段しか思いつかなかった。
結果として、こいつはダメ狐度を一気に加速させてしまった。
「自分は遊戯施設なんて行かなくても、この部屋にあるゲームで十分です」
言って彼女が取りだしたのはボードゲームの様な何か。
「っ!」
バカな!
こいつはたった一人でボードゲームをしていたというのか?
おまけに顔を見るにそれを全く苦と思っていない……まさかここまでレベルが高いとは思わなかった。
「どうしたんですか、お兄さん……もう降参するんですか?」
「くっ」
心なしか、リンの顔がいつもより邪悪に見える。
これこそが持って生まれた魔王の血というやつか。
「でも待て、お前さっき寝てたよな?」
「はい、それがどうかしたんですか?」
「ゲーム関係ないよな?」
「…………」
「…………」
うん、やはりこいつはゲームで満足どうのではなく、ただ単に外に出るのが嫌なだけらしい。
ならばこいつを動かす手段はなくもない。
「前言ったよな? どうしてもあれだったらおぶってやるからって」
「言われました。どうしても自分を抱きたいので、お兄さんに抱き付いてくれと」
「それは言ってねぇ!」
そんな変態臭いことは絶対に言ってない。
断じて言ってない。
「とにかく、動くのが面倒くさいなら俺が連れていってやるから、ほれ」
と、俺がかがんで背中をリンに向けると、何やらノソノソと背後で動く気配。
おそらくは起き上って、俺の背中に上ろうとしているのだろ――
「くぅ……」
「…………」
くぅ?
「って、寝るなよ!」
「っ!」
こうなればもう容赦はしない。
俺は放っておくといつまでもボケまくるダメ狐を肩に担ぐようにして抱き上げ、部屋の目指して歩き出す。
「降ろしてください、鬼畜です……誘拐です」
バタバタとやる気がない尻尾が俺の頬をペシペシと叩くが、完全無視。
俺はリンが落ちないように気を使いながら、ミーニャとリゼットが待つロビーまで歩いて行くのだった。




