第二十九話
「つまり、お兄様は魔王であるマオ様という方のところで、その妹であるリン様の面倒を見るバイトをしていると?」
「そう、その通りだよ」
先ほどまでの騒ぎはどこへやら。
俺、リゼット、リンの三人は炬燵へと座って静かに説明会と言う名の会話を行っていた。
なおこの場が静かなのは、リンが再び眠りだしたからかもしれない。
「ついでにいうと、俺が知っている限りではマオもリンも悪い奴ではないよ」
「魔王なのに、ですか?」
「あぁそう、魔王なのにだ」
と、俺はそんな事を言いながら、時折尻尾を激しくビチビチ振りながらピクピクと体を揺らすリンを見る――可愛い。
こうして黙っていれば普段の性格はどうであれ、狐耳と狐尻尾を持つ狐っ娘様なだけあって、やはり俺の心に綺麗に刺さるものがある。
本当に、黙っていればだが。
それにしても眠っているのに、千切れそうなほど激しく尻尾を振って……こいつはいったいどんな夢を見ているのだろうか。
なんにせよ、なんだか心がホッコリする事には変わりな――。
「むにゃ……ダメですよ、お兄さん……そんな、自分……んっ」
「…………」
うん。
本当に黙っていて欲しい。
こいつは何だろうか。
口を開ければトラブルばかり巻き起こし、精神的に俺を殺しにかかっているのだろうか。
黙らなくてもいい、もうそこまでは期待しない。
だからおかしなことを口にするのだけはやめてくれ。
と、俺が先ほどリンが寝ぼけて発した妄言を、リゼットが聞き取っていないかどうかハラハラしていながら彼女の方を見ると、
「念のため確認ですが、お兄様は安全なんですね?」
「あ、あぁ……安全だよ、安全――は、はは、ははははっ」
「?」
危ない……というかよかった、聞こえて居なかったらしい。
純粋すぎて若干あれなリゼットならば、リンが話すこと全てをいちいち信じてしまいかねない危うさがある。
俺が居る時ならともかく、リゼットとリンを二人だけで合わせるのはよした方がいいかもな。
色々な意味で心配で胃が痛くなりそうだ。
「とにかくリゼット、これからはたまにこうしてこいつが遊びに来ると思うから、あくまで適度に相手してやってくれ……警戒する必要はないから」
「はい、お兄様がそう言うのならば」
笑顔で言うリゼット。
順々な上に純粋、本当に危うい性格だよな。
俺はそんな事を考えながらゆっくりと炬燵から出て、その場で立ち上がる。
「どこかへ行くのですか?」
「ん、そろそろこいつを魔王の城に戻そうと思ってな。初日からあんまり外に居て、体調崩されたら元も子もないし」
「なるほど、さすがはお兄様です。勉強になります!」
「そ、そう」
それは例の師事する話の件だろうか。
いったい今の会話から、何を学び取ったのだろう。
気になるところだが、今はとにかくリンを起こそう――どうせ中々起きないのだから。




