第二十七話
「こ、これは!?」
と、俺が謎の動力で動いている炬燵を調べ出そうとしたまさにその時、ミーニャと入れ替わるようにして戻ってきた金髪碧眼の騎士、リゼットが炬燵でまるまるリンを見て何やら驚いた表情をしながら後ずさる――いったいどうしたのだろうか、まさかリンの可愛さに当てられたりしたのだろうか。
俺がそんな問いを発すると彼女は、さっと俺に近づいて来て腰にさしてある剣に手をやる。
「凄まじい魔力と穢れ……何者ですか、こいつは!?」
凄まじい魔力?
凄まじい穢れ?
何だそれ?
などと思ったのはつかの間、俺はすぐにその答えを察する事が出来た――なんせここには、この部屋には俺を除けばもう一人しかいないのだから。
おまけにそのもう一人の血筋が血筋なだけに。
「うるさいですね……お兄さん」
眠たげにそう口にしたのは魔王の妹、リン。
こいつならば確かに凄まじい魔力と穢れを放っていそうだが、俺は何も感じない。
むしろ無害で可愛らしいただの狐っ娘にしか見えない。
というか穢れって……引きこもりが放つ穢れってなんだが笑えるな。
そんなリンはあくびを一回した後、のそのそと炬燵から這いだすように上半身を出し、起き上って方向転換、そしてちょこんと座ってリゼットと俺を交互に見た後続ける。
「ところでお菓子はありますか? 自分は少しお腹がすきま――」
「言う事それ!? 散々俺とリゼットの顔を見比べて、何を言うのかと思えばそれ!? 言う事それじゃないだろ! まずはリゼットの事を聞けよ、そうしろよ!」
「っ!」
いかん、また突っ込んでしまった。
おまけにリンもプルプル震え始めてしまったし。
「あ~、取りあえず座ってくれ、リゼット」
「しかしっ」
「ちゃんと説明するからお前も説明してくれ」
とりあえずプルプル震えながら固まっているリンを俺は放置し、やや警戒した様子で炬燵に入るリゼットに話かける――なお、ここでリンを放置したのは彼女が喋れる状態ではなさそうという理由のほかにも、彼女に話されると何だか面倒くさい事になる予感がしたからだ。
「とりあえず先に言っておくけど、こいつはリン。別に危害を加えるような存在じゃないから、それだけは覚えておいてくれ」
「この魔力と穢れでですか……にわかに信じられません」
「あのさ、さっきから言ってるその穢れって」
「無駄ですよ、お兄さん」
問いかけようとした俺の耳に聞こえてきたのは、さっきまで尻尾をピンと伸ばしてプルプル震えていたリン。
引きこもりとは思えないほどに強靭かつ、凄まじい回復力を持った精神力だ。まぁすぐ治る分、打たれ弱いらしいが。
っと、それはともかく。
「無駄ってどういうことだ?」
「魔力と穢れを感じ取れるのは修練を積んだ者か、生まれてから清く正しい生き方をしてきた人だけです。おそらくリゼットさん……でしたか、彼女も直感的に感じているだけで、説明は難しいでしょう」
「…………」
なんだろう。
暗に清く正しい生き方をしてきていないと言われた気がした。
ま、まぁいい。
なんだかリンが思いのほかしっかりと説明してくれそうだから、ここは二人に会話を任せてしまってもいいかもしれない。
そんな事を思いながら俺は二人の会話に耳を傾ける。
「では話しましょうか、リゼットさん――自分が何者かを聞きたいのでしたね」
言って彼女は顔を片手で覆いながら、くふふと笑った後告げる、
「自分はこの町を滅ぼすためにやってきた魔王の先兵、四天王筆頭ことリンです」
「っ……魔王!」
リンの平坦でやる気のない言葉を聞いた後、バッとその場から飛び退るリゼット。
俺はそれを見て思った。
やはりこいつを信じた俺がバカだった。




