第二十四話
引きこもりを部屋から出す。
それは当人にとっても、その周りに居る人にとってもとても良い事のはずだ――もちろん引きこもりが絶対悪だと言うつもりはない、なにせどうしようもない理由があって引きこもっている人も居るかもしれないから。
だがこいつは違う。
調べたわけはない。
誰から聞いたわけでもない。
だがそれでもわかるのだ。
「お兄さん、お兄さんは鬼畜です」
床に付くほど長く白い髪に相応しい、白と青を基調として作られた巫女服。さらにその上からどこか幻想的な純白のローブを羽織り、頭に生える狐耳に寄り添させるかのように小さな白銀の冠をちょこんと乗せているこいつ。
俺の服の裾を掴んでトボトボ歩いているこいつ。
振り返ると、ひたすらにジト眼を向けてくるこいつ。
「お兄さん、お兄さんは鬼畜です」
さっきから同じ事しか言ってい来ないこいつの名前はリン――この城の城主であるマオの妹であり、一応時期魔王後継者でもあるらしい。
「お兄さんは――」
「何回同じ事言うんだよ、お前は!」
「相変わらずいいツッコミですね、お兄さん。自分にツッコミを入れてくれる人は居なかったので、とても嬉しいです」
「あぁそう、マオの奴はお前のこと甘やかしてそうだしな」
それと俺は断じてツッコミ属性を持ちあわせているわけではない。
よって「いいツッコミ」などと言われても、何も嬉しくない――俺がこうもツッコミを入れたくなるのは、こいつだけなのだから。
「時にお兄さん、今はどこに向かっているんですか? あとゲアラブアの天日干しをもう一つ下さい」
「ん」
服の裾をくいくいとひっぱってくるリンにゲアラブアの天日干しを渡すと、小さい両手でキャッチしてあむあむと食べ始める。
さすがマオと同じ狐っ娘なだけあって、その姿はとても可愛らしい。おもわず足を止めてしばらく眺めて居たくなるほどだ。
だがしかし、俺はそんな気持ちをグッと堪えて、質問の答えを返す。
「とりあえず外に出てみよう」
「…………」
途端に固まるリン。
なんだろう、この魂の抜けた様な目は。
まるで感情の一切が抜け落ちた亡者のような瞳で歩くこいつは何なのだろう。
そんなに外に出るのが嫌なのだろうか――いや、待てよ。
まさかこいつ。
「お前ってさ、ひょっとして雷が苦手だから外に出たくないの?」
可能性はある。
なんせ姉であるマオがああも雷を怖がって――
「いえ、自分はマオ姉さんと違って雷を怖いとは思いません。自分はただ自分の部屋から出るのが……ひいては外という広大な場所に出るのが非常に面倒くさいだけです」
「あぁ、そう」
俺の予想は全くの大外れ、こいつはただの引きこもりだ。
おまけに外どころか部屋からも出たくない、完全な引きこもりだ。
「まぁせっかく着替えたんだ。今日は俺の言う通りにしてもらうぞ」
「言う通りに……自分はお兄さんに言われるがままに脱がされ、着替えさせられ、次はいったいどんな――」
「変な言い方すんな!」
「!」
またも尻尾をピンと伸ばして、プルプル震えだすリン。
どうせこうなるなら、おかしなことを言わなければいいのに。
と、俺は心の中で溜息を吐きながら、目的地目指して歩を進めるのだった。




