第百三十九話
俺は大変なことを忘れているのではないだろうか。
例えば元の世界ならば勝手にお店を開いて商売を始めるのは、色々とまずかったりする――やる事によっては、免許なども必要になるだろうし。
そう。
それなのだ。
「この世界って、勝手に商売始めていいのか?」
目下最大の問題である。
もし何らかの資格が必要であり、それに戸籍のようなものが必要だとしたら、最初から詰んでいる。
ここまで考えてきた色々なことが、全てパーになる可能性が非常に高いのである。
よって。
「その質問を我にするか……」
俺は今、先ほどの問いかけを眼の前の狐っ娘――マオにしているのだ。
「我は仮にも魔王なのじゃ! そういう質問を受け付ける役柄じゃないのじゃ!」
などと尻尾をピンと立てているマオ。
機嫌が悪いのだろうが、全く怖くない……むしろ和む。
「いや、でもお前暇だろ?」
「うぐっ……なのじゃ」
「暇なんだから、これくらい教えてくれてもいいだろ?」
「い、いや! 我だって色々と忙しいのじゃ! 暴れまわっている魔物を沈めたり、色々としているのじゃ!」
「…………」
沈める?
鎮めるではなくて?
うむ。
なんだかものすごく物騒なことを聞いた気がする。
「その沈黙はなんじゃ! 我はリンと違って本当に忙しいのじゃ!」
「まぁそんな怒るなって! お前がやや忙しめなのは知ってるけど、教える時間がないほどじゃないだろ?」
「や、やや? ややじゃないのじゃ!」
「だから悪かったって」
「むぅ……まぁよい。おぬしにはリンの件で世話になっているしの……特別に教えてやるのじゃ」
あぁ、やはりリンと違ってマオだと話がスムーズに進む。
同じ狐っ娘でも大違いだな。
そう俺が思った瞬間だった。
「こっちにお兄さんが来ていませんか?」
ひょこりと、リンが姿を見せたのは。




