第百三十三話
炬燵騒動から二日後。
俺はみんなが寝静まっている中(といっても朝六時くらいだが)、一人でリビングにやってきてゆっくりと腰を降ろす。
腰を降ろす場所はもちろん、先日苦労して拡張した炬燵である。
「入る度に思うんだが、この炬燵はどうやって温かさを保ってるんだ」
目下最大の謎である。
「まぁ炬燵布団を捲って、中を見てみればいいんだろうが……うん」
俺がそれをしない理由はただ一つ。
何だかとんでもないものを見てしまいそうな、そんな予感がするからである。
昔誰かが言っていた。
深淵を覗くものはどうたらこうたらと……つまり、危うい物は見ない方がいい。
「おっと、別の事に考えが派生し続けて、本題を忘れるのは俺の悪い癖だな」
そう、俺が今日早起きしたのは炬燵について思いをはせるためではないし、大きくなった炬燵を一人で堪能するためでもない。
俺は気分転換も兼ねて、不思議パワーでいつでも暖かい炬燵の中で足を、そして冷たくも気持ちいい空気を味わいながら上半身を伸ばす。
「さてっと」
気持ちを切り替え、部屋から持参した紙を炬燵の上へと乗せ、利き手でしっかりとペンを持つ――今から始めるのは、生半可な気持ちでは出来ない事なのだ。
なぜならば、俺の未来がかかっているから。
面倒くさい前置きをせず率直に、結論だけ言ってしまうと。
「俺はついにニートから完全に抜け出す方法を思いついた」
というか、どうして最初から思いつかなかったのか……疑問に思うほど簡単なことに気が付いた。と言うべきだろう。
その方法とは。
「自分で起業する」
本当に最初からそうすればよかった。
考えてみれば、別に誰かの下で働くことなかったのだ。
自分で店を出すなりなんなり、とにかく自分で仕事を作ればよかったのだ。
「問題はどんな仕事を作るか……だよな」
ふむ。
とりあえず色々な人に聞いて、情報収集してみるか。




