第百二十二話
「という感じで虐められたんです……鬼畜ですよね?」
わかりやすく結論から言うと、俺は無事に件の戦いに勝利を収め、目的物であるゲアラブアを無事に入手する事に成功した。
「自分の魔法を自分のプライドと共に素手で粉砕するお兄さん……おまけに最後は自分の尻尾を掴んで、ブラブラ揺らしながら場外に落とす鬼畜さ加減」
「何回同じ説明をするのじゃ……おぬしは」
「マオ姉さんは鬼畜だと思わないんですか? 妹が虐められたんですよ……あと少しで犯されるところでした……鬼畜です」
「どうせ話を盛っているだけじゃろ?」
「盛っていません……本当に虐められました。尻尾をニギニギされて……自分は貞操の危機を感じました……もうお嫁に行けません」
「尻尾を握られたくらいでなんじゃ」
「尻尾をニギニギされてブラブラされました……鬼畜です」
「試合だったのだからしかなかろう? むしろ我はあっさりやられたおぬしにビックリじゃ」
「じ、自分のせいじゃないです……お兄さんが凄まじく俺TUEEEEEEEしてただけです」
「おれ……なんじゃ? 今なんて言ったのじゃ?」
「マオ姉さんはわからなくても大丈夫です……とにかく強かったんです」
「おぬしは時々わけのわからない事を……まぁいいのじゃ」
さんざん姉妹で話し合って満足したのか、マオはリンの後ろに控えて居た俺に振り返り続けて言う。
「それで例の物、ゲアラブアは手に入れたんじゃな?」
「あぁ、安心しろ」
お前の妹さんが邪魔しなければ、もっと早く手に入ったんだけどな。という事はこの際置いておこう。
「ほら、これが約束のゲアラブアだ」
「お、おぉ! でかしたの……じゃ?」
「じゃ?」
何だろう。
俺が渡したゲアラブアの入った袋を覗いた途端、マオの顔が曇ったぞ。
「どういうことじゃ、中身が入っていないのじゃ!」
あぁ、なるほど。
中身が入っていないから、こういう顔を……って。
「は!?」
「は!?じゃないのじゃ! 中身がないのじゃ! 詐欺なのじゃ!」
「詐欺じゃねぇよ! 俺は確かに中に……っ!」
待て、待てよ。
どうして中身がないのか、心当たりがある。
居るじゃないか、このゲアラブアを勝手に食いそうな奴が。
「おいリン! ……って、居ない。なんという速さだ」
「何という速さだ……じゃ、な~~~~~~~~~~~~っい!」
突如、バンっ!と大音量を立てて開かれた扉。
そこから現れたのは――。
「あんたバカじゃないの!? 何であたしの事を宿屋に置き去りにするのよ! 起きたら誰も居ないし、宿屋の店主から『あーあの人たちなら先帰ったよ』って聞かされて……ビックリしたんだからね!」
「あーそれはだな……」
忘れていた。
エリスが居たの完全に忘れていた。
「なんだ、とにかくすま――」
「え~~~~い! 早くゲアラブアを出すのじゃ!」
「いや、あの」
「何とか言いなさいよね!」
「…………」
もう嫌だ。
早く帰って寝たい。
親知らず……抜いてきました。
これから抜く人が居るかもしれないので、嘘偽りなく言います。
クッソ痛い……まぁ人による鴨だが。
あぁ……傷跡消えたら鴨が食べたいです。




