第百十七話
「他のお客さんも泊まってるんだから、あまりうるさくしないでね」
「ほんと……すみません」
「気をつけてくれるならいいけど、あまりうるさいと追いださないといけないからね」
「はい、気をつけます……」
枕投げから数分後。
俺は見事に怒られていた。
全力をもってリンたちに相対したのはいいものの……怒られた。
見事に怒られた。
まぁ俺も「はぁあああああああああああああああああああああああっ!」とか全力で叫びながら枕を投げて居たのも悪いし、どったんばったん飛び回って回避していたのも悪かった。
だが。
「お兄さん……気をつけないとだめじゃないですか」
「あんたのせいで怒られたじゃない」
店主が出ていったと同時に、怒られるのが嫌で隠れていたクローゼットから出てくるリンとエリスの声。
うん……。
こいつらだけには言われたくない。
こいつらだけには絶対に言われたくない。
「何ですか、その眼は……鬼畜です」
「何よ!」
……うん。
まずリンの行動。
枕を爆発させたり、枕を光速で飛ばしたりと魔法を使いまくってくれた。
続いてエリスの行動。
こちらは魔法こそ使わなかったものの、俺の頑張りが霞む勢いで暴れてくれた――具体的に言うと、壁を使って三角飛びしたりだ。
故に。
「大変です……お兄さんが黙ってしまいました」
「どうせ自分が悪かったことに気が付いて打ち震えて――」
「違うからな!?」
「「!?」」
口を『△』こんな感じにして驚いている二人に俺は続ける。
「俺が黙っていたのは、お前らがあまりにも残念な態度だからだよ!」
「残念な態度……どう思いますか?」
「知らない――っていうか、あたしもう寝るわ」
「でしたら自分ももう寝ます……どういう並びで寝ましょうか?」
「とりあえずあいつが真ん中でいいんじゃない?」
……聞いてない。
というか、効いてない。
もうこいつらダメだ。
手遅れだ。
何回も思った事だが、やはり手遅れすぎる。




