83話 訪問者は僕のファン...?
家のチャイムで目を覚ます。
昼前に眠ったはずが、今の時刻は夕方五時を過ぎていた。
いつの間にかベッド近くに小さな机が置かれていていて、その上にゼリー飲料とメッセージがあった。
『食欲なくてもゼリーだったら食べられるかな?
早く元気になって配信してね♡』
(お母さん...配信楽しみにしすぎじゃないかな...)
そんなことを考えながら上半身を起こす。
頭のふらつきもだいぶ良くなり、食欲も出てきた。
でもまだ本調子じゃないようで、体の怠さが抜けきっていない。
僕はゼリー飲料を手に取り、カチリと蓋を開け飲み始める。
今日は食欲が出なかったせいで朝昼ご飯を食べていなかったこともあり、いつもよりも美味しく感じた。
小さい口に入る量は少なく、かなり小分けにしてちょっとずつ飲み込んでいく。
そんな時、扉をノックされる。
「はーい」
お母さんが見に来てくれたと思い、声を出す。
だが、扉を開けて入ってきたのは...
「歩さん、大丈夫?」
「.........へ?」
僕の大ファンで野生の公式で、僕の配信のオープニングアニメを描いたsummer flowerさんこと姫島渡さんだった。
どうやら配布物のプリントを届けにきてくれたようで、僕の家は先生に教えてもらったらしい。
学校の個人情報管理はどうなっているんだ...
と思っていたら、渡さんが心を読んだように話し出す。
「先生が私達が仲良いこと知ってたみたい」
「あ、えと...そ、そうなんだ...」
「うん、そうみたい」
「あ、椅子座っていい?」
「い、いいよ...」
渡さんが話を一旦区切ると僕の部屋を見渡す。
見渡す限りのMonster Live、どこを見ても必ずMonster Liveが視界に映る。
「Monster Live大好きだね...」
「う、うん...ずっと応援してる...」
「私も応援してるよ!わかってると思うけどね」
「渡さんがMonster Live好きなのは良く聞いてる」
「なんてったって私は狐狐ちゃんのオープニングを作った野生の公式だからね!」
渡さんは自慢げに胸を張る。
僕は嬉しさと一緒に少し恥ずかしさを感じていた。
ふと渡さんを見ると悩んでいるような表情を見せた。
何か迷っているようにも見える。
「歩さん、私達友達だよね...?」
「え...え、え、急に...え...?」
「あ!言い方が悪かった!
えっと、今から驚かせちゃうこと言うんだけど、友達のままでいてくれる?」
「あ...う、うん、友達でいる...!」
「ありがとう!“狐狐ちゃん!!”」
「うん、だいじょ......ん、え?」
「ずっとずっと言いたかった!
いっつも配信楽しみにしてます!
マジで可愛い!最強!狐狐ちゃん大好きです!」
いきなりのことに全く頭がついて行かない...
僕が九尾狐狐だとバレている...!?
早口で応援されている...!?
学校のクラスメイトに!?
「あぁ...狐狐...じゃない、歩さんごめんなさい!
実はかなり前から気付いてて、でも学校で言っちゃったら周りにもバレちゃいそうで...」
「あ、そっか...」
「歩さん...大丈夫...?」
終わった...僕の学生人生...
ここからネット上の僕が学校中に晒されるんだ...
「晒したりなんてしないよ!」
「え、声...出てた...?」
「うん、出てたよ」
「学校に広めたり...」
「しないしない!!」
「本当に?」
「推しが困るようなことは絶対にしない!
なんなら学校でバレそうになったらいくらでも私に頼ってよ!」
目を輝かせる渡さん。
確かに僕だけではいつかバレてしまうだろう。
そうならないためにも、協力者はいるに越したことはない。
「分かった...じゃ、じゃあもしもの時はお願い」
「うん、任せて!」
渡さんが僕の手を握ってくる。
突然の事にびっくりしていると、お母さんが部屋に入って来た。
「歩、体調はだいぶ良くなったみたいね」
「あ、お母さん、うん良くなったよ」
「渡ちゃんもプリントありがとうね」
「いえいえ、狐狐ちゃんに会いたかったので」
「気持ちは分かるよ、狐狐ちゃんは可愛いもんね!」
「ちょ、ちょっと二人とも!?」
「実は家に入れてもらう時に、狐狐ちゃんトークで盛り上がっちゃったんだよね」
「そうそう、まさか狐狐ちゃんのオープニングを描いている子だったなんて驚いたもの!」
「お母さんこそ、まさか狐狐ちゃんのママだったなんて驚きです!」
「え!?お母さんバラしたの!?」
「だって狐狐ちゃんの大ファンのsummer flowerです、狐狐ちゃんのオープニング映像を作っている者です!なんて自己紹介されたらねぇ...」
「渡さん...凄い自己紹介するね...」
「それほどでも!」
「褒めてない...!」
「まあまあ、歩が狐狐ちゃんって事を知ってる人が学校にいた方が気が楽になるんじゃない?」
「それは...そうだけど...」
「歩さんのことは私に任せて下さい!」
「頼もしいわね、歩のことしっかりサポートしてあげてね」
「はい!」
僕の話なのに置いて行かれる僕...
二人は意気投合し、僕の配信の話まで始める始末。
収まって来たはずの頭の痛みがまた再発しそうだった。
かなり話し込んでいた二人だったが、呼吸の回数が増えた僕に気付き渡さんはすぐさま帰っていった。
どうやら驚きや恥ずかしさなど、感情が大きく振れたせいか、また熱が出てしまったらしい。
「ごめんね...」
「ううん、大丈夫...」
お母さんにお粥を食べさせてもらいながら、そう答える。
確かに熱は辛いが、どこか心が軽くなった気がしていた。
誰にもバレないように、と常に気を遣っていたが明日の学校からはもう少し気楽に過ごすことができそうだ。
お母さんに温かいタオルで体を拭いてもらい、今日はそのまま眠る事にした。
トイッターで体調を崩したこと、今日しようと思っていた配信をお休みすることを伝えた。
ファンのみんなからの心配するコメントが多く送られ、Monster Liveのみんなからも個別でチャットが来る。
(僕は幸せ者だなぁ...)
沢山の人に心配され、人のありがたみを知る。
明日には元気になるから、そう思いながら僕は眠りについた。
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