82話 お休みの時間
「大丈夫?」
「大丈夫...きついけど...」
僕は学校を休み、ベッドで寝ていた。
熱はなんと三十九度、久しぶりの高熱に体が思うように動かない。
頭もふらふらし、何も考えられない。
「お母さん部屋に居ようか?」
「お仕事...あるんじゃないの...?」
「道具持ってくればここでもできるから」
「でも...風邪移したくない...」
「ふふ、優しいね。
ちょっとでも辛くなったらスマホで呼んでね」
「うん...ありがとう...」
お母さんは僕の頭を撫でて部屋を出て行った。
静かになった部屋、僕の呼吸音だけが寂しく響く。
こんなにも静かで体調が悪いとネガティブなことを考えてしまいそうになる。
だが、僕の頭に浮かんできたものは幸せな日々のことだった。
思い返せば、僕がVtuberデビューしたのはお母さんが勝手にオーディションに応募したからだ。
僕がお風呂に入っている間の出来事、しかも僕にしっかり設定を考えていた。
名前は九尾狐狐、人里離れた山中で一匹暮らしていた九尾。
狐狐は長年人と関わって来なかったせいでコミュ障になっていた。
そんな時、山に迷い込んだ人間が落としたであろうスマホでVtuberの存在を知りこれなら妖である自分も配信で人と話すことができる。
コミュ障を治すことができるかもしれない...!
そうしてMonster Liveとしてデビューしたのだ。
今考えると、お母さんはMonster Liveのみんなを描いてきたからそういった設定が簡単に思い浮かんだのかもしれない。
まあ、その設定のおかげで僕が上手く話せなくても温かい目で見守られてきた。
(初配信...パニックになっちゃって、泣いちゃったんだよな...)
朦朧とする意識でも鮮明に思い出せてしまう初配信。
緊張と不安でパニックになってしまい、感情が崩壊してしまったのだ。
それがインパクトになって、今いろんな人に見られているかもしれないが正直やり直したい...
そして僕が大好きなMonster Liveのみんな。
僕が大変な時や困っているときに助けてくれる存在。
みんながいなければとっくの昔に引退していただろう。
ファンタジー世界がコンセプトの一期生。
Monster Liveを有名にしたポンコツ団長こと、パープルドラゴン騎士団団長ラゴン・ルドラさん。
冷静でどのジャンルのゲームでも最強格、ウサミミ受付嬢ニコ・ウラナさん。
元気を分け与えてくれるソラさんとクールで落ち着いた雰囲気のレミさんのエルフ姉妹。
動物園がコンセプトの二期生。
どこまでも届きそうな美声を持つ、カンガルー娘ルーさん。
無邪気な笑顔で視聴者を和ませる、ライオン娘イオちゃん。
おっとりマイペースで心が落ち着く、キリン娘リンさん。
応援したくなる努力家、パンダ娘パンさん。
妖怪がコンセプトの三期生。
ママみを感じるしっかり者の鬼、鬼野鳴子ちゃん。
欲望に忠実で好きなことにまっすぐな垢舐め、赤桶奈女々ちゃん。
何事にも動じないホラー耐性カンストの骸骨、ガシャ=ド=クロちゃん。
そして、コミュ障であがり症で口下手な狐の僕、九尾狐狐。
改めて考えると、やはり僕の存在がイレギュラーな気がする...
他のみんなはしっかりと配信という名の戦場で戦える武器を持っている中、僕はただのコミュ障でMonster Liveオタクの一般人だった。
マネージャーの大空葵さんにも言われたけど、僕のような距離が近く感じる配信者も必要らしい。
いつかMonster Liveをココ友のみんなと語りたいな。
月日は流れ、僕も出演したMonster Liveのオフイベント、Monster talk Live。
ずっと抽選に外れ続け、現地行きを逃していた。
はじめての現地がまさかMonster Live側になるとは思ってもいなかった...
このイベントは抽選に当たれば推しを間近に見ることができるだけでなく、対面してお話ができるのだ。
トップVtuberグループという事もあって、倍率は毎年とんでもないらしい。
と言ってもまだ三回しか行われていないが...
逆を言えばたった三回でこれほどにファン達が熱狂しているのだ。
あの時スタッフさんに買ってきてもらったグッズはしっかりと棚や机に飾っている。
ココ友のみんなから頂いたお金はMonster Liveに注ぎ込んでいるよ...!ありがとう...!
実際にイベントに参加してみて、モチベーションに変化があった。
僕のファンだという人が目の前に来てくれるのだ。
間近で応援してもらって頑張らなきゃ、そう思えた。
イベントでの応援以外にも僕のファンアートで元気をもらっている。
『#ココ見て!、#ココは見ないで』と健全絵とセンシティブな絵でタグを変えて投稿してくれている。
僕の目がグルグル目になり汗がダラダラ流れたイラストだったり、九尾らしくカッコいいイラストだったり。
どうやったらこんなに絵が上手くなるんだろう...
もちろん、上手いから嬉しい訳じゃない。
描かれるということが本当に嬉しいのだ。
僕が一人のファンだった時、一度ファンアートを描こうとしたのだが下手過ぎてボツにしたのだ。
でも今配信をして、ファンアートを描いてもらえる立場になった時、画力は全く関係なかった。
...みんなの絵を描いて送ろうかな。
思い出が頭を巡っていた時、思い出したように息苦しさを感じる。
やはり久しぶりの熱、しかも高熱。
「はぁ...」
息を吐くだけでも疲れた気がした。
寝た方が楽になるかな...
僕は頭を真っ白にして目を閉じる。
動いてなくても熱を下げようと体は疲労していたのか、気付かないうちに僕は眠りについた。
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