76話 楽しかった
僕は初配信からの出来事を振り返る。
文を考えるのが苦手なので、思った事を口にしていく。
「僕はみんな知っている通りコミュ障であがり症で人が苦手で話すことも苦手で、そんな僕がVtuberなんて無理だって思いながら最初は配信してました。
何度も自分が何話しているのか分からなくなったりもしました。
そんな僕でもみんなは優しく受け入れてくれて、こんな僕でも良いんだって思えました。
ずっと人と話すことが怖かったのに、今は話すことが楽しいです。
三期生のみんなに先輩達、そしてココ友の皆さん。
僕はこのMonster Liveに入って人生が変わりました。
これからもこの世界でみんなと笑い合いたいし、楽しい時間をもっともっと一緒に過ごしたいです。
本当にみんなありがとうございます...!」
僕は後半、目に涙が浮かんでいた。
初配信から思い出すと、本当に色々あった日々。
今思い返すと何度も助けられてきてここに居る、そう考えると感謝の気持ちと嬉しさで涙が溢れてしまう。
コメントを見ると、僕を見て元気付けられた人や僕の配信を生きがいにしてくれている人、更には僕の影響でVtuberデビューした人もいた。
そのコメント一つ一つが僕の心に沁みてくる。
涙が止まらなくなってしまった。
「狐狐ちゃん泣いたら私も泣きそうになっちゃう!」
「私も泣きそうなんだけれど...」
「ちょっとティッシュ取ってくる...」
【バスタオル持ってくるわ】
【俺の部屋雨降ってるな】
【狐狐ちゃんがそれ言っちゃ泣くんよ】
【最初の配信から見てたら今の狐狐ちゃんのコメントエモすぎる】
【泣かせにきてるって】
僕のがむしゃらに話した言葉に見ている人も涙を流しているようだ。
正直何を話していたか分からなくなってしまったが、思っていたことは話せたと思う。
数分してようやく気持ちが落ち着き、配信を締める。
「いや〜...全部良かったね...」
「そうね、本当に心に残る日になるわね」
「最高だった」
「最後泣いてごめんね...」
「大丈夫よ、もう慣れっこだもの」
「そうそう、問題ないよ!」
「大丈夫大丈夫」
みんなの優しい声に思わず笑みが溢れる。
本当に大好きなMonster Liveに入ってよかった。
元気な奈女々ちゃんの声が聞こえる。
「それじゃ、私達の新衣装配信終わりますか!」
「長い配信だったけど、最後まで見てくれて嬉しいわ」
「うん、見てくれてありがとう」
「皆さん、お疲れ様でした!」
そうして、僕達三期生の配信は終了した。
【新衣装】三期生新衣装お披露目会!【鬼野鳴子/赤桶奈女々/ガシャ=ド=クロ/九尾狐狐】
配信終了
@九尾狐狐 Monster Live三期生
配信見てくれてありがとうございました!
みんなの新衣装も先輩達のサプライズも全部最高の配信でした!
暗くなった画面に少し目の赤くなった僕が反射して映る。
深呼吸をして配信モードから気持ちを切り替えた。
今からやらなければならないことがある。
椅子から立ち上がり、早歩きで一階にあるお母さんの仕事部屋に向かう。
「お母さん...?」
「あら、配信お疲れ様〜」
「お疲れ様じゃないよ...!」
「ふふふ、お母さん遂に声出しちゃった!」
「声の問題じゃなくて、お母さんがママってどういうこと!?」
いつも通りのお母さんに少しムッとし、大きな声を出してしまう。
僕はお母さんがママだったことにものすごく動揺しているのに、いつも通りのお母さんの反応に気が立ってしまったんだろう。
珍しく大きな声を出している僕に驚くお母さん。
だが、お母さんは別の意味で驚いていた。
「え...?知らなかったの?」
「......え?」
「え?」
僕とお母さんの間に謎の時間が訪れる。
お母さんは自分のことを簡単に話し始めた。
「お母さんの名前を言ってみて」
「鷲川奈々...でしょ?」
「うん、で数字の七は英語で言うと?」
「セブ...え、それでセブンって名前で絵師やってたの...?」
「うん...名前で気付かなかった?」
「い、いや、流石に自分のお母さんが大好きなMonster Liveの専属イラストレーターとは思わないじゃん...」
「それはそうね」
その時、僕の頭に一つの仮説が浮かんでしまった。
僕はお母さんのコネでオーディションを合格したんじゃないか、と。
そう思うと一気に気分が悪くなってしまった。
そもそも、僕みたいなコミュ障がデビューできたこと自体おかしいんだ。
話す内容もつまらない、存在自体つまらない僕。
僕にあるのは転生してもらったこの美少女の見た目だけ。
中身はただのコミュ障な男、ただでさえ気持ちの悪い存在な僕。
今の姿でさえ偽っているのに、さらに偽った姿で配信をしてお金をもらっている。
これはもう詐欺と言っても......
「歩!!」
お母さんに肩を掴まれる。
気が付くと僕の視界は歪んでいた。
止めどなく流れる涙、既にお母さんの部屋にも涙がこぼれ落ちていた。
「お、お母...さん...ぼ...僕、怒られる...よね...」
「怒られないよ!大丈夫!」
「だって、専属の...イラストレーター...に言われたら、こ...こんな僕でも...デビュー、させるよね...?」
「違う!お母さんはイラストレーターとしてじゃなくて、一人のお母さんとして歩をMonsterLiveに応募したの!」
「ぼ、僕には...何にも無いんだから...
デビューなんて...できるはずが...」
「できたの!歩は歩だけの力で、九尾狐狐としてデビューできたの!」
お母さんの声が遠く聞こえる。
お母さんに抱かれる中、僕は眠るように意識を失うのだった。
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