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前世がコミュ障男な僕がVtuberになれますか?  作者: カムカム
6章 コミュ障、新たな仲間!?
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64話 ML杯前日

ML杯が遂に明日開催される...

そう思うと緊張で押し潰されそうになり、お昼ご飯が喉を通らない。

雲一つない快晴が頭上に広がる屋上。

いつものベンチに座った僕の膝に乗せた小さな弁当、その中にある残り半分と睨めっこする。


「食欲ないの?」


「え!?あ、ううん...大丈夫」


隣に座る渡さんが僕の顔を覗き込んでくる。

明日イベントがあって、それで緊張しているなんて言えない。

でも目の前にいるのは僕を推してくれる夏花さんこと『summer flower』さん。

僕の動画のオープニングを始め、トイッターでMonster Liveのファンアートを描いてくれる人だ。

この人にならバラしても...


「渡さん...」


「ん?どうしたの」


「えっと...じ、実は...」


僕は話し始めてから後悔してしまう。

もし僕が狐狐だとバラして、それを学校中に広められたら。

僕はもう学校に通えなくなってしまう。

そんな光景が僕の頭の中で流れた。


「歩ちゃん大丈夫?」


「あ、えっと...じ、実は...」


「うん」


「あ、明日のイベント、狐狐ちゃん緊張してるんじゃないかなって思ったら見てる僕も一緒に緊張しちゃって...!」


どうにか誤魔化すが、額には暑さとは別の汗が流れる。

渡さんの反応を待っていると、渡さんは優しく笑ってくれた。


「そうだったんだ、たしかに初めて会う人ばっかりだもんね、狐狐ちゃんは」


「そ、そうなんだよね...」


「多分考えようだと思うよ」


「考えよう?」


「そうそう、知らない人がいっぱいいる、じゃなくてVtuberっていう同じ世界で頑張る人達とお友達になれるイベントって思えば狐狐ちゃんも楽に挑めるんじゃないかな?」


「なるほど...」


「無理に頑張ろうとするよりもいつもの配信みたいな感じで楽しんで欲しいなって思うよ」


「そ、そうだね...!」


「っと、もうすぐ昼休み終わるから私は先に教室戻るね」


「うん、分かった」


「じゃあまたね」


「またね」


そう言うと渡さんは屋上を後にする。

話したことで気が楽になったのか、残った弁当を食べきって僕も教室に戻る。




学校を終え、僕は家に帰ってきた。

お母さんはやはり仕事が忙しいのか、今日も仕事部屋で仕事をしている。

僕は制服から部屋着に着替えて、お風呂を洗ってお湯を溜め始める。


(イベント前の雑談配信しようかな...)


緊張をほぐせるかもしれないと思ってお風呂が溜まるまでに配信の準備をすることにした。

突発な配信なので告知しておく。




@九尾狐狐 Monster Live三期生

明日遂にMonster Live杯...

緊張をほぐすためにも雑談配信をしようと思います


【雑談】遂に明日ML杯開催...【九尾狐狐】配信待機中




モデルの確認やマイクの音量調節をしている間に程よい時間が経ち、お風呂の様子を確認しにいく。

ちょうどお風呂八割溜まっており、僕はお湯を止めて先にお風呂に入ることにした。


服を脱いで洗濯機に入れ、風呂場の扉を開ける。

お風呂に入る時のこの暖かい空間に入る瞬間が好きだ。

髪、体もしっかり洗って湯船に浸かって体を温める。


さっぱりしてパジャマに着替え、リビングに戻ると机に置き手紙があった。

お母さんは忙しいからご飯先に食べてて、と晩御飯と共に紙が置かれていた。


(最近ずっと忙しそうだけど大丈夫かな...)


僕はお母さんが作ってくれた晩御飯を食べ、空になった食器を流し台で洗う。

乾燥機に食器を並べ終え、歯磨きをするために洗面所に向かった。

白い歯ブラシに歯磨き粉をつけて歯を磨く。

ボーっと鏡で自分を見ながら歯ブラシを動かす。


(改めて思い返すと転生したんだよな、僕...)


静かな空間にいる時、たまにそう思ってしまう。

前世の僕はどのように人生を終えたのか、そしてなんでこの世界に美少女として転生したのか。

考えても答えが見つからない悩みが頭を駆け巡る。

緊張で少し思い詰めてしまっているかもしれない、そう思って歯磨きを終えた後顔を冷たい水で洗った。


(今から雑談配信だから...気持ち切り替えないと...)


僕はそう思って自室に戻る。

とその前に、机の上に『ごちそうさま』と置き手紙を残しておいた。




まもなく配信予定の時間、待機場では既にコメントが流れ僕の配信が始まるのを楽しみにしている様子が見てとれた。

そして配信開始時間、僕は待機画面からいつも使わせてもらっているオープニングを流す。

そのオープニングが終わると画面がフェードアウトし、僕のモデルとコメント欄が映る画面に切り替える。


「皆さんここにちは〜」


【ここにちは〜!】

【ここにちは!】

【ここにちは〜】

【なんか元気ない?】


「え、そんなに僕元気ない感じに聞こえますか?」


【落ち込んでそうな声してる】

【大丈夫か?】

【明日のイベント緊張しすぎてるのかも】

【緊張はあるかもな】


「明日の緊張もあるんですけど、なんか静かすぎる場所にいる時余計なこと考えてしまわないですか?」


【分かる】

【しょうもないこと考えるな俺も】

【俺もあるわ】


「ちょっとそれで昔のこと思い出してしまって...

ちょっと元気な感じじゃないのかもしれません」


【そんな時は美味しいものでも食べて!】

【元気出して】

【そんな時もある!】


「とりあえず明日のイベントのせいではないってことだけは言っておきますね」


【楽しめばええ】

【気楽に行こうぜ!】

【みんな優しいからなんも心配しなくていいぞ】

【楽しんでる狐狐ちゃんを見るのが俺らの楽しみなんだからな】

【↑それな】


優しいコメントに心が少し弱ってしまっている僕は泣きそうになってしまう。

自分のことながらコメントだけで泣きそうになるのは流石に疲れてしまっているのだろうか...

声が震えないよう呼吸を整えて話す。


「ココ友の皆さんが暖かいです...

いつもありがとうございます」


【いつでも狐狐ちゃんの味方やで】

【狐狐ちゃん疲れてるんだよきっと】

【配信閉じて寝とく?】

【明日のイベントもあるし今日は無理しないで】

【配信は嬉しいけど、元気な狐狐ちゃん見る方がもっと嬉しい】

【↑違いない】


「そう言ってもらえると嬉しいです...本当に...

明日頑張りますね」


【頑張るのもいいけど楽しむんやで】

【結果は二の次!目一杯楽しんできて!】

【配信見るからな〜!】

【ゆっくり休んで】


「配信短くてすみません、お言葉に甘えて今日は休もうと思います。

ココ友の皆さんもゆっくり休んでくださいね」


僕はココ友のコメントに甘え、数十分の配信を閉じた。

自分でも感じるくらい体というか心が重たくなっていた。

前世のことを考えてしまったからだろうか...

少しの寂しい気持ちを誤魔化すように、先輩達のテーマ曲を小さな音量で流しながら今日は眠ることにした。


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