44話 完走した感想
先輩達が和気藹々と雑談するように話す。
僕はてぇてぇを感じながら、その姿を同じスタジオで眺めていた。
何度も同じことを考えるのだが、僕みたいなコミュ障オタクがここにいていいのだろうか...
「それで、みんなも気になっていると思うから聞いちゃおうか!狐狐ちゃん!」
「え、わ...は、はい!」
「さてはボーッとしてたな?」
ソラさんに急に話しかけられ、思わずビクッとする。
そのことを会場のファン達にバラされ、会場から笑い声が聞こえた。
「今回のイベント三期生は初参加でしょ?
いろいろ感じた事あるんじゃないかな〜って!
それに狐狐ちゃんMonster Live大好きだから感想が気になって」
「あ、えっと...」
僕が回答に困って周りを見ると、みんなからの視線を感じる。
僕は大きく息を吸い、思ったことを口にしていく。
「えっと...僕はずっとこのイベントに参加したくて、グッズも全部買ってたんだけど抽選に当たらなくて...
それでまさか初めてこのイベントの現地に来ることができたと思ったらライバー側で、ずっと本当に僕がこのMonster Liveの一員でいいのかなとか僕のファンの方って本当に居てくれるのかなとか考えてたんだけど、実際にファンの方とお話してこれからも頑張りたいって思えました...!」
僕は考えすぎると言葉が出なくなるので、思ったままに口を動かす。
ここで僕は落ち着くために一度息を吸う。
「狐狐ちゃ...「そして...あ...」」
思ったことを全部言おうとして進行役のソラさんの声に重なってしまった。
一瞬気まずい雰囲気になる。
僕はやらかしたと思い俯いてしまう。
「狐狐ちゃんらしいね、大丈夫だよ!
それだけいっぱいのことを思ってくれてるんだよね」
「うぅ...はい...」
「......狐狐ちゃん、今日は楽しかった?」
ソラさんが優しい顔で僕に問いかけてきた。
みんなからも期待の眼差しを向けられる。
迷う必要はない、僕は心からの声で答えた。
「楽しかった!」
僕の声が会場に響くと、会場が歓声に包まれた。
感想トークも進み終わりの時間が迫った頃、スタジオにいるスタッフさんがとあるカンペを取り出した。
僕は吸い寄せられるようにカンペに視線を移す。
「えぇ!?....あ、すみません...」
書かれていることを読み、思わず声を出してしまった。
「はははっ、狐狐ちゃんならその反応になると思っていたよ」
進行役になっていたルーさんのそう言われる。
会場は僕の声で何かを察したのか、少しずつざわつき始めた。
毎回イベントの最後には何かしらの発表がある。
今回はどんな発表だろうとファン達は期待した。
僕が見たカンペにはこう書かれていた...
【Monster Live新シーズン告知】
「実はこのことは三期生には内緒にしていたんだ。
ということで、会場のみんなにも発表しよう!」
ルーさんの声が響くと、モニターの上部に派手な演出と共に文字が浮かぶ。
その文字を読んだファン達は僕と同じような声を上げた。
「Monster Live!新シーズンだ!!」
長く続いたイベントで少し疲れの色が見えていたファン達だが、そんな疲れを感じさせないほどの歓声を上げた。
「ここからは私が説明しますね」
「ニコさんよろしく!」
ルーさんがニコさんにパスする。
ニコさんは台本を暗記してきたのか手には何も持っていないのに淡々と話し始めた。
「Monster Liveはこれまでセブンママの手によって生まれてきました。
この新シーズンからは新たなママをお迎えし、より一層このVtuber界を盛り上げていきたいと思います。
そして、そのママ達から生まれてくる私達の新たな仲間を募集します!
新シーズンでは少し名前が変わります、みなさん準備はいいですか?」
その問いかけに一期生と二期生が答える。
ニコさんの合図で全員の声が重なった。
「Monster Live family!!」
思いがけない発表を最後にMonster talk Liveは幕を閉じた。
会場からファン達が出て行く。
僕達ライバーはファン達が全員が帰ってから会場を出ることになっている。
控室で待機しているが、僕は最後の発表が頭に残り心ここに在らずといった状態になっていた。
「狐狐ちゃ〜ん?」
「あ、はい...あ、何...?」
奈女々ちゃんが僕の目の前で手を振る。
「狐狐ちゃんも遂に先輩になるんだね!」
「想像できないし実感わかない...」
「そうだね〜、私もびっくりしてる...」
「私も」
「私だってまだ信じられないわよ」
「みんなこんな感じだから狐狐ちゃんも気楽に後輩を待とうよ!」
三人が僕の周りに集まってくれる。
三期生はこのことを知らなかったので、みんな同じような感情になっているだろう。
「どんな子が来るか楽しみね」
「狐狐ちゃんみたいにMonster Liveファンが来たらどうする?」
「どうする...語り合う配信するかな...」
「それ見たい」
「で、でも僕みたいなのは多分レアケースだと思うし...」
「それでも楽しみだね!」
「うん...!」
僕達は新たな仲間を想像しながら、人が少なくなった会場を後にする。
この後は打ち上げでお店を予約しているらしい。
僕は疲れを感じながらも、打ち上げを楽しみにマネージャーさんの車に乗った。




