141話 私が稲香になるまで(稲香視点)
一次審査を受かって二次審査に進んだ時、私がMonster Liveの一員になれるかもしれないと心を踊らせていた。
だが二次試験当日、すぐに緊張してしまう私は面接で失敗した。
質問されても頭の中が真っ白になり黙り込んでしまう。
配信者はどんな状況でも話せなければいけない。
そう思うほど混乱を加速させた。
気付けば面接は終わっていた。
『不採用』
そんな言葉が頭に浮かんだ。
心のどこかでは分かっていたが、諦めたくはなかった。
結果が来るまでに何度もデビュー配信の妄想をしたりもした。
怖くなって神社に立ち寄ることもあった。
それでも、どんなに祈っても結果は変わらない。
届いたメールを見て私は肩を落とした。
それから何事にもやる気が出ない毎日が続く。
そんな時、Monster Live三期生のデビュー配信が始まった。
私は自分が落ちた三期生オーディションを受かった人がどんな人なのか気になって再生ボタンを押す。
奈女々さん、鳴子さん、ドクロさん...
個性があり話も面白い、自分との差を感じて最後の1人を見る前に配信を閉じようとしたが、ここまで見たのだから最後まで見よう。
そう思って最後の1人を見た時、衝撃を受けた。
『みっ...みなざま...!おまだ、ぜじまじだ!』
極度の緊張、荒い息の後に号泣しながらの挨拶。
どう考えても今までのMonster Liveの人とは違う存在がいた。
九尾狐狐、私はこの日から狐狐さんのことが常に頭に浮かぶようになった。
私と同じコミュ障、あがり症、Monster Live好き。
こんなにも共通点があるのにどうして私じゃなくて狐狐さんが選ばれたのか。
気付けば配信を追う毎日に変わっていった。
『どこが違うの?』
そんな思いが日に日に増していった。
それはやがて対抗心となり、Monster Live familyのオーディションが決定した瞬間私は目の色を変えた。
一次審査を通過。
今話題の狐狐さんのライバル枠になればいけると踏んだ私は、狐と対抗に位置する狸の設定を提出した。
面接ではMonster Liveに関連付ければどうにか話すことができた。
それこそ狐狐さんに対抗できるよう必死に勉強したおかげだ。
同期との顔合わせでも私の頭の中には狐狐さんを超えることしか考えていなかった。
元々コミュ障なので仲良くできる気がしなかったと言うのも理由の一つだが。
それでもみんな優しく接してくれた。
迎えたデビュー当日、私は狐狐さんを越えようとする気持ちが暴走してしまった。
対抗心を燃やすあまり視聴者向けの配信というより、狐狐さんと対決するようなデビュー配信になってしまう。
だが、1番波に乗っていると言ってもいい狐狐さん。
その対抗としてデビューした私を見る視線は好奇心に溢れていた。
その配信でも私は狐狐さんに負けた。
今までが否定された気分、私は視界歪む中どうにか配信を乗り越えたが今すぐにでも逃げ出したい。
コメント欄に溢れる【狐狐さんのライバル枠】という言葉、私が狐狐さんのついでと言われている気分になった。
そうなるように行動してきたのは自分なのに...
全てがどうでも良くなってようやく気付いたことがあった。
思い返せば、今まで見てきた狐狐さんは嫌々していることが何一つなかった。
全てを楽しみ、全てに全力で...
Monster Liveの知識だって私と違って大好きだからこそ覚えていた。
私はどうだろう...
狐狐さんに勝ちたいと無理やり詰め込んで、楽しむこともなく全ては自分の為だけに行動してきた。
心が震えるほどの悔しさを感じながら自然と指が動き、MG杯の決勝戦のアーカイブを再生した。
初心者だと言うのにみんなから信頼され、それに応える姿。
それは狐狐さんが全力で挑んでいたから、全力で頑張っていたから。
残された狐狐さんが敵を全員倒した瞬間に聞こえたチームメイトの歓喜の声、その声を聞いた瞬間私は笑みが溢れた。
(敵わないな...)
私は知らない間に狐狐さんのことが大好きになってしまっていたのだ。
その結論に至った瞬間、ずっとのしかかっていた重圧が消えた気がした。
「次は稲香ちゃんだワン!」
わんこちゃんが急かしてくる。
こっちは最推しが隣にいて緊張してるんだよ!
「う、うん...えっと...」
言葉が出てこない。
初対面の失礼な態度を思い返して余計に緊張してしまった。
どうにかして話し始める。
「その...こ、狐狐先輩は何事にも全力で...
見てて応援したくなると言うか...その...
と、とにかく...!凄い...です...」
「え〜?それだけでいいの〜?
稲香ちゃんいっつももっと語ってじゃない!」
「それこそ狐狐先輩のMonster Live語りくらい話してたワン!
言いたいことがあるならこの場で言っちゃえワン!」
「そうだよ〜、ほら、応援してあげるからさ」
事情を知るfamily一期生のみんなが背中を押してくる。
よ、余計なお世話だって言うのに...
私は少しは変われたけど、これだけは変わらない。
今度は敵ではなく、“ライバル”としてこの言葉を伝えよう。
「私、狐狐先輩には負けませんから」
「あぅ...う、うん...!僕も負けないよ!」
少しびっくりしながらもそう答える狐狐先輩。
私はライバルとして狐狐先輩の隣に立ち続ける存在になる。
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