18.妖王戦・会議
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魔臓を体内に取り込むと言うと、やはり手術をするのかと心配していたが違った。
その方法はいたってシンプル。魔臓を食べるというものだ。それでもレバーやホルモンが嫌いな俺は、臓器を食べるなんて……とも思ったが、実際に見た魔臓は臓器というより核のような感じだった。見た目は乾燥した球体で、食感は固めの煎餅みたいだ。味はしない。バリボリと噛み砕いて食べた。
食べ終えたところで俺の体に特に変化は見られない。
安倍さん曰く、魔臓は消化と同時に徐々に形成されていくらしい。
無事、仮の魔臓を手に入れた俺は、神父さんに治療してもらって熱も下がり、元気になった。心なしかいつもより空気が美味しい気がする。
これで俺も力法を使えるようになったのだが、妖王討伐に何日かかるか分からない以上、長持ちさせるためにも使わない方が良いとのこと。
ところでみんなが魔臓を持っている世界で普通は何に使っているのか気になった。
「魔臓って普通は何に使う物なんですか?」
「普通も同じだ。この世界の人間が食べると魔臓の機能が上がって力を多く練れるようになる。とは言っても強い魔物の物でないと駄目だがな」
ゲームで言うところの、MP上限UPアイテムと言ったところか。
何はともあれ一時的ではあるが完全回復を果たした俺が次にやるべきことは作戦会議だ。
と、気合を入れたものの妖王とは何か、どこにいるのかなどの重要な情報を俺はまだ何一つ知らない。
そこで茜に聞いたら、詳しく教えてくれた。
「妖王って言うのは、魔物の王よ。例えば毛長猿には“悟空”って言う妖王がいるし、炎狐だと“九尾”ね。そして妖王は通常の魔物とは比べ物にならないくらい強いわ」
狐火は道中一度だけ遭遇した魔物だ。見た目は普通の狐と殆ど変らないが、火を吹いて攻撃してくる厄介な奴だ。
妖王は全ての種に一体ずついる訳ではなく、突然変異的に現れた桁外れに強い個体の事を妖王と言うそうだ。
悟空に九尾か。名前からして強そうなんだけど……。
「まあ、“悟空”や“九尾”なんかは妖王の中でも別格だから、私たちに倒すのはまず無理ね」
妖王の中でも強さに差はあるらしい。あ、やっぱり強いんだ……。元の世界では某人類最強の金髪と某金髪忍者の相棒だったしな。
「じゃあ、今回俺たちが狙うのは?」
「人と同じくらいの魔臓を持っていて、かつ強すぎない妖王。となるとかなり難しいわ」
「それについては私たちで当たりはつけてある」
「この近辺で条件に見合うのは、“大蛇”です」
いつの間にか神父さんもこの作戦に参加することになっている。まぁ多ければ多いほど心強いから良いけどね。
それにしても“大蛇”って大丈夫なのだろうか。元の世界だと首が何本かに分かれた、かなり強そうな蛇なんだけど……。
「大丈夫。奴は頭が多いから強いだけで一つ一つの頭はそこまで化け物じみている訳じゃないので、大人数でかかれば倒せるはずです」
「ほんとかよ……」
「本当だ。それに、いざと言うときは秘策も用意してある」
心の中で言ったつもりがつい口に出てしまっていたらしい。
秘策とやらが気になるが、二人とも自信満々だしそこまで言うなら大丈夫なのだろう。
次に討伐隊のメンバー編成についての話になった。
多数の頭を持つ巨大な妖王とは言え、一体の魔物であるからには、あまりに人数が居すぎても邪魔になる。強者を最低限の人数でそろえるのがベストだ。
今回狙う“大蛇”は比較的最近この近辺で目撃されている。以前目撃されたときには四つ頭であったらしい。四人で議論した結果、一つの頭につき二人で担当するとして計八人。それに後方支援をさらに二人加えて計十人のパーティが良いという結論に至った。
今いるのは俺、茜、安倍さんの前衛三人と後方支援の神父さん一人。陰陽師は術者なので後衛かと思ったが、意外と前衛でもいけるらしい。
となると後は、前衛五人と後方支援一人が必要と言うことになる。いくら前衛が出来るとはいえ、さすがに後の五人を全員陰陽師で固めるのもバランス的に不安だったので、安倍さんと神父さんにそれぞれ、知り合いの武士を紹介してもらうことになった。
問題は後方支援の方だ。回復系の神父さんは良いとして、支援系を使える者は大変珍しく、陰陽師にもほとんどいないそうだ。
どうしようかあれこれ悩んでいるときだった。バタバタと廊下を走る足音が聞こえたかと思うと突然障子が勢いよく開け放たれた。
「お父様! その仕事、私以外に適任はいない筈では!?」
騒々しく飛び込んできたのは、(安倍さんのほど立派ではないが)狩衣を着たショートカットの女の子だった。歳は俺とほぼ変わらないくらいだと思う。少し背が小さめで顔は愛嬌があって可愛らしい。
「桜花! お前と言う奴は、客人の前ではしたない!」
「おっと、これは失礼しました! 私はこちらの憲行が娘、安倍桜花です。どうぞよろしく!」
「――っ! 自己紹介の事ではない!」
「ありゃ? 違いましたか」
この天真爛漫な御嬢さんは、さっきの紹介の通りだと安倍さんの娘さんらしい。でも最初に安倍さんは倅って言ってなかったか?
「躾がなっていなくて申し訳ない。長女の桜花だ。まだ若く未熟ゆえ、なるべく入れたくなかったが、こうなったら仕方あるまい」
「私はもう一人前です―!」
桜花ちゃんは可愛らしく「むぅ!」と頬を膨らませながら抗議している。
「あの、その方を討伐隊に……?」
混乱のあまり、今までフリーズしていた茜がやっとの思いで立ち直り尋ねた。
神父さんはと言うと、面白そうに状況を見守っている。
「性格はともあれ実力は確かだ。女ながらに陰陽師として育てたのも、ひとえにその才能があったからであるしな」
「はっはっはー、そんなに褒めないでください」
「別に褒めとらん……」
呆れて強く言い返すことも出来ないようだった。
父親である安倍さんすら良いように振り回されているように見える。
「まぁ、これで後は前衛だけだな」
「ちょっと、本気?」
茜が俺にだけ聞こえるように耳に口を近づけて言った。
「本気も何も、実力が確かで貴重な後方支援なんだから、入れない訳にはいかないだろ」
「それもそうだけど……」
どうも茜は気が進まないようだった。一体何が不満だというのだろう。
茜はしきりに桜花ちゃんをチラチラと見やり、「あれは絶対ある」、「確実に私より……」などとブツブツ独り言を言っていた。
「私は前衛には当てがあるから平気だ」
「僕も、とびきり強いサムライが友達にいます」
かくしてメンバーは大方決まった。さらにそこまで実力のない者も含めた、捜索組を作り“大蛇”を捜索、報告してもらう。
捜索組が“大蛇”を見つけ次第、討伐に向かうと言う流れだ。
その間、俺は足手まといにならない様に茜に稽古をつけてもらうことにした。
道中で素振りは欠かさず、細かい指導も受けていたので、最初の頃よりだいぶマシにはなってきている。
日本刀は対象に対して真っ直ぐに引き斬ることが大切なのだ。と、武蔵と決闘した時に茜が言っていたが、最近ようやく刀を使って“斬る”ことができる様になった。
“大蛇”発見の知らせを受けたのは四日後のことだった。




